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#15-2

友春から電話を受けたとき、宗介は自室に一人だった。 扉は閉めきり、窓は全開にして、そよぐ風を感じながら本を読んでいた。 宗介の部屋は西向きで、午前中は比較的涼しいが、夕方にかけてどんどん暑くなる。日が傾きだしたのでそろそろ外へ避難しようかとぼんやり思っていた頃合いだった。 友春の「パピコ半分食ってくれない?」という誘いは、だから意味不明だがタイムリーでもあったので、宗介は応じることにしたのである。 「遅いよ」 呼び出された場所はすぐ近くの公園で、友春はライオンの口の中にいた。 滑り台やらトンネルやらが一体化した大きな子供向けの遊具だ。黄色とオレンジの塗装があちこち剥げ落ちたそれは、宗介たちが幼い頃からずっとそこにある。 「なんでンなとこ座ってんだよ」 「日陰がここしかねーんだもん」 言われてみれば、小さな公園内には日陰らしい日陰が見当たらない。ベンチやブランコなど座れそうなものは、どれも燦々と日光を浴びていた。 幅の広い滑り台になっているライオンの口に、宗介も仕方なく並んで座り込んだ。 コンビニの袋から取り出したパッケージを破ると、現れたのは宗介にとっては久々に目にする、チューブ入りのラクトアイス。ふたつ連結したそれを半分に切り離し、友春は宗介に向けて片方を差し出す。 「はい。もう若干溶けてるけど」 水滴を纏ったチューブの中身は、確かに少し軟らかくなっていた。 友春がわざわざ買ってくる菓子類は期間限定品が多いことを知っている宗介は、ピンクがかった乳白色のこれも恐らくそうなのだろうと予想する。 飲み口をちぎり、チューブにかじりつくようにして中身を吸い出すと、冷たさと一緒に何とも言えない味が広がった。友春もマスクをずらし、ほぼ同じタイミングで口をつける。 二口ほど飲み込んだ宗介が首を傾げた。 「……これ、何味だよ」 「いちごクリーム大福味だって」 いちごクリーム大福味、と宗介は思わず繰り返す。 いちご味を謳った菓子に共通するあの酸味とも甘味ともつかない風味と、主張の強いあずき味。舌に絡みつく濃厚なクリーム感、極めつきは中に混ぜ込まれているらしい餅の破片だ。氷菓子に近い食感の陰からいきなり現れる。噛まずに飲んでいたら喉に詰まるのではないだろうか。 宗介は形の良い眉を歪めて抗議する。 「変なもん食わすんじゃねえ」 「そお? 割とアリじゃない?」 「別に不味かねーけどよ。一人で食えよ、こういう変なのは」 「やだ。パピコ全部食うと腹壊すから」 平然と答える友春に、宗介は力の抜けるような心地がした。 小さいながら比較的いつも利用者のいる公園だが、今は彼らの他には誰の姿もなかった。 ずっと幼い頃、まだライオンの塗装が剥げていなかった頃に、きょうだい揃ってここで遊んだのを宗介は唐突に思い出す。 まだ藍良は宗介よりずっと背丈が高かったし、光希は宗介の服の裾を掴んで一生懸命くっついてきていた。そんな平和な時代があったのも、長いこと忘れていた。

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