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#15-3

「お前さー」チューブの口をがじがじと噛みながら、友春がのんびりした声を出す。 「ほんとに進学しないの?」 宗介も残り少なくなったいちごクリーム大福味を咀嚼しながら「しない」と頷いた。「就職して家出る」 ふーん、と気の抜けたような返事。 「もったいないな。頭いいのに」 「いい大学行くのが偉いわけじゃねーだろ」 「そりゃそうだけどさ」 なぜか不満げにしている友春に、軽く肩を竦めてみせる。 「いいんだよ俺は。会社継ぐわけでもねーし、自分ひとり食っていけりゃ、それでいいんだから」 それは宗介の本心だったが、友春は何かを疑っているかのような目でちらりと宗介を見た。 「自分ひとり、ねぇ」 「……ンだよ」 「別にィ……」 物言いたげなのに、それ以上突っ込んでくる気はないらしい。煙草の代わりのつもりだろうか、ほとんど食べ終えたチューブをずっと齧っている。 どうにも居心地が悪い。 先日の水族館で那緒と話した内容が、友春にも伝わっているだろうということは予想できていた。だが友春がそれに言及してくることは十中八九ない。 宗介が直接伝えたならともかく、又聞きしたことを外側から突ついてくるような真似はしない。友春はそういう人間だった。 「働き始めたらさ、あれだよ。体調管理とか、ちゃんとしないとだめだよ」 「なんだそりゃ。親かよ、テメーは」 「真面目に心配してんの」 憎まれ口を叩いたものの、友春の言う「体調管理」が何を指しているかくらいは宗介にもわかったので、少しの逡巡はあったが伝えることにした。 「抑制剤」 「うん?」 「飲んでる、最近」 言った途端、友春がこちらを向いて固まった。普段あまり動揺を見せないし口も減らない友春にしては珍しい。目をぱちぱちと何度か瞬いてから「嘘ぉ」と声をあげる。 「嘘じゃねーよ」 「マジ? 効果は?」 「……まあ、出てんじゃねーの」 抑制剤には数え切れないほどの種類があり、効果や用途も様々だ。宗介が薬局で買ったのは、毎日服用することでヒートの周期と程度をコントロールするものだった。 まだ飲み始めて日が浅いため明確な効果はわからないが、以前のように突然重いヒートがくるかもしれないという不安はいくらか払拭された。 「そっか、エライじゃん」 友春は少し目を細めると、「えらいえらい」と言いながら宗介の頭をぐしゃぐしゃに撫で回し始めた。やめろ、と宗介が驚いて上半身を捩ると深追いはしてこなかったが、「そっかあ」と呟きながら一人で頷く様子は、本当に保護者じみていた。 「ちょっと泣きそうだわ俺」 「なんでだよ」 肩を竦める宗介と、遠くに目線をやる友春。じりじり照りつける日の光を辛うじて避けた狭い空間に、濃い緑の匂いのぬるい風が吹き抜けていく。 「そうやって、受け入れて、うまく付き合っていくのはさ」 どこかを見たまま友春が言う。 「お前がなりたくなかったもんになっちまうっていうのとは、違うと思うよ。俺は」 宗介は、そうか、と思った。いやに素直に友春の言葉を聞き入れると、子供のように黙って頷いた。

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