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#15-6
自宅の前で予期せぬ事態が起こっているのを友春は目撃し、戸惑い、踵を返しかけたものの。面倒事が大きくなる前に自分の手で収束させた方が良いと判断し、気は進まないが大股で渦中へと向かっていった。
「あらっ、ほら! 友春くん帰ってきたわよ」
そこには二人の人物がいた。その片方である隣家の主婦が友春に気づくと、もう一方へ向けて大袈裟な声をあげる。
疲弊を感じさせる顔で友春のほうを振り向いたのは、つい先刻まで一緒にいた幼馴染の弟だった。
なぜ光希がここにいて、なぜお隣のおばさんと立ち話なんぞしているのか。友春が抱いたその謎は、彼女の口からすぐに明らかにされた。
「この子がおたくの前でウロウロしてたもんだから、声かけてみたの。空き巣かしら、なんて疑っちゃって。でもよく見たら、このあいだ友春くんと一緒にいたお友達だわ、って気づいて。ごめんなさいねぇ、失礼なことしちゃったわぁ」
友春はあえてマスクを顎までずらすと、武装用の笑顔をつくって答える。
「あー、いえ。怪しい動きしてたこいつが悪いんです。すみません」
「いいのよぉ。友春くんが帰ってくるの待ってたんでしょ?」
「あ、そうなんです。約束してたんですけど俺が遅くなっちゃって。待たせて悪かったよ。ほら、入るぞ」
言いながら光希の背中を無遠慮に押し、ポケットから取り出した鍵で玄関のドアを開けた。さっさと中に入ろうとすると再び声が追いかけてくる。
「友春くん、今日もお母さん遅いの?」
「あー、まあ、いつも通りだと思います」
「そう、大変ねー。戸締まりしっかりするのよぉ」
「はい。アリガトウゴザイマス」
全力の愛想笑いを残して戸口を閉める。
彼女から視覚的にも聴覚的にもシャットアウトされた空間になって初めて、友春は「ふー……」と大きく息を吐いた。それからやむなく招き入れることとなった憎たらしい相手に向けて、一瞬で目尻をつり上げる。
「ついに家まで来やがったかこのストーカー野郎ッ」
「だって友春くんに会えないの寂しすぎるんだもん、夏休み終わるまでとか耐えられない」
「知るか、帰れ、今すぐ帰れ」
「今出てったらまたあのマシンガンオバサンに見つかるけどいいのっ?」
ぐ、と言葉に詰まった友春に勝機を見たのだろう、光希は「お邪魔しまーす」と靴を脱ぎだした。
「おい、勝手に上がんな」
「いいじゃん別にー。誰もいないんでしょ? 友春くんの部屋どこー?」
悪びれずにきょろきょろとあたりを見回し始める。苛立ちを募らせた友春は、光希の肩口を掴み、乱暴に壁へと押しつけた。
「マジで何しに来た」
顔を寄せ凄んでみせると、光希は僅かに視線を泳がせる。拗ねたように唇を少し尖らせて、
「……友春くんに会いたかっただけだよ」
そう言った光希の仕草に、友春は数秒のあいだ険しい顔をしていたものの、やがて諦めたように息をつく。
「そうかよ。ま、俺も会いたかったけど」
「えっ」
光希の肩を掴んでいた手を放し、一歩退きながら友春が呟くと、光希は表情を輝かせたが、それも束の間だ。
自室へ上がる階段を顎でしゃくり、友春はぎろりと目を光らせた。
「聞きたいことがあんだよ。いろいろな」
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