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#18 風迅る
雲ひとつなく晴れ渡った青空、乾いた風が程良く流れる、嫌味なほど清々しい土曜日だった。
ホテルRのエントランスの向かいに位置するドーナツショップに、那緒と友春は朝九時から居座っていた。席はもちろん窓際。ドリンク一杯とドーナツ二個ずつで、すでに滞在一時間が経過しようとしている。
「……光希から連絡きた?」
隣でスマートフォンをいじりだした友春に那緒が尋ねるが、返ってきたのは「いーや」という気のない返事だった。
「いいからお前は落ち着いて入り口見張ってろ」
「うん……」
頷いたものの、落ち着けというのは今の那緒にはかなり難易度の高い要求だった。そわそわとテーブルの上で手を何度も組み替えながら、つい泳がせたくなる視線を懸命にホテルRへと注いでいる。
食事会のスタートが十一時。万全を期して早くから張り込んではいるが、どんなに早くても十時半より早く到着することはないだろう、というのが二人の読みだ。
宗介の自宅からここまでは車でおよそ二十分。宗介は母親の運転で来ることになっていて、父親は仕事の都合で現地集合。
光希の得た情報はここまでで、肝心の鍛治ヶ崎親子についてはわからずじまいだった。
光希はぎりぎりまで自宅で宗介たちの様子を伺ってから那緒たちと合流する手筈になっていた。三人揃ったら、友春はホテルのロビーに移動し、どこか目立たないところで待機する。それが三人の計画だった。
那緒はちらりと腕時計に目を落とした。
あと一時間ほどで、宗介はあの男と引き合わされる。自分たちの計画が失敗すれば、そのまま口八丁手八丁、丸め込まれてついに逃げ場がなくなってしまうだろう。
幼馴染の顔を思い浮かべながら、仰々しくホテルの名の刻まれたエントランスを睨む那緒。絶対に助ける、と意志を堅くしたところで、隣から「お」と声があがった。
「光希だ」
電話ではなくアプリでメッセージを受信したらしい。今から向かう、の連絡だろうと那緒は思ったが、アプリを開いた友春は次の瞬間、眉根を寄せた。
「……なんだこれ」
「どうしたの?」
那緒が横から覗き込むと、画面には短いメッセージが連続して受信されていた。
『なんか』
『出発するとこなんだけど』
『宗介たち』
『はやくない?』
那緒はついさっきも見たばかりの腕時計を掲げた。九時五十三分。真っ直ぐここに向かってくるとすれば、十時十五分頃には着いてしまう計算だ。友春が首を捻る。
「確かに早いな」
「途中でどっか寄るとか?」
「そのくらいならいいけど……」
顔を見合わせた二人の脳裏には同じものが過ぎり、そして光希もそうだったらしい。再び画面に目をやるのと同時に、新たに受信したメッセージが、ぴこん、と飛び出した。
『やなよかん』
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