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第3話
それから毎日、柴本は配達の度に構ってきた。
無視しても、冷たくあしらってもめげず、最初は俺が怒鳴り散らしてびくびくしていた研究室内もこの光景に慣れてきたのか、いつの間にか柴本には≪猛獣使い≫というあだ名までついていた。
そして今日も弁当を配り終えるとやってくる。
「井坂さんもお弁当頼んでくれたらいいのに」
「そんな金は無い」
今日もポテトチップスを食べていると恨めしげに見てくる。
「毎日食べて飽きませんか? 今日の唐揚げは俺が揚げたんですよ」
「俺はこれがあればいい」
少し拗ねた柴本は俺の顔を覗き込んだ。
「俺、結構料理得意なんですよ。何だったら食べてくれますか?」
「なんで、そんなに俺の食生活に口出すんだよ」
「言ったじゃないですか毛並みを整えたいって」
「毛並みって言うな。髪の毛だ」
俺は大きく溜息をついた。
「何度も言うけど、俺は食い物に欲がない。それに金もない。だからお前のやってる事は無駄だ」
すると柴本は俯いたまま黙っていた。
これでやっと諦めてくれる気になったかと安堵した矢先、柴本が顔を上げた。
「じゃあ俺が個人的に弁当を作ってきたらいいんですね」
「なんでそうなる⁉︎」
「お金がかからないなら食べてくれるかなって」
そして強引に話を進めようとするので追い出そうとするとその手を掴まれた。
「でも俺が作った弁当を食べたら食費が節約できますよ?」
何を言ってるのかと思えば柴本はにやりと笑う。
「塵も積もれば……って言うでしょう? 卓上の遠心分離機欲しいんですって?」
「だ、誰から聞いたんだ?」
即座に隣の真壁を見ると、不自然に目を逸らしたのでこいつが犯人で間違いない。
「おい、真壁」
すると俺と真壁の間に柴本が割り込んでくる。
「俺は井坂さんに食を提供します。井坂さんは俺に好きなだけその髪の毛に触れられる権利をください」
「なんだそれ」
すると柴本はWin-Winだと笑った。
でも俺がなかなか首を縦に振らないでいると、駄目押しするみたいにどこで手に入れたのか卓上遠心分離機のカタログまでちらつかせ……。
結局根負けしてしまったのだが、柴本は何がそんなに嬉しいのか満面の笑みで帰っていった。
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