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第5話
そんな日々も毎日となると流石に慣れてくる。
いつものように柴本の家で飯を食って、風呂に入って髪を乾かされうとうとする。
そのまま寝入ってしまう事も多いので、最近は俺用の部屋着まで用意されていた。
泊まれば朝食付きで、ほぼ三食を管理されている最近は顔色が違うらしい。
『井坂くんの顔色、どんどんよくなっていくんだけど』
『髪も肌ツヤもいいなんて悔しい』
俺が人間らしい生活を送っている事に興味を持っている連中の噂話だが、柴本に構われている俺へのやっかみなんかもあったりして柴本もそれなりに人気があるようだ。
でも当の本人はというと。
「手触り良くなりました。嬉しいです」
俺の髪の毛なのになぜか嬉しそうにしている。
不思議そうに見ていると柴本は目を細め、梳いた髪の毛を耳にかけるようにしながら俺の耳に触れた。
「んっ」
いきなりの事で体がびくつくと柴本は笑う。
「擽ったかったですか?」
「擽ったいから触るな」
柴本はくすくす笑いながらごめんなさい。と言いつつ、また耳を触った。
最近はこれが気に入っているのかよく触られる。
「触るなって言っただろ」
「だって反応が可愛いから」
「可愛いってなんだ。お前より年上なんだぞ」
俺が必要以上に驚いたりするから面白がっているのだと思うが、ここの所このようなスキンシップをとってくる事が多くなったように思う。
髪が似てるだけでこれだけ構うのだから、きっと実家ではその犬にべったりだったに違いない。
でもその犬が死んだと聞いてからもう何ヶ月も経っていた。その間、実家に帰っているようには見えないが。
「なぁ、実家で飼ってた犬の手入れもしてたんだろ?」
「はい。シャンプーは俺の仕事でしたよ」
「その犬が死んだって言ってから実家帰ってないじゃん。いいのか? 帰らなくても」
すると柴本からすっと色が消えるように笑顔が消える。
何かまずい事でも言ってしまったのかと眉を寄せると、柴本は慌てて笑顔を作った。
「ごめんなさい」
「俺、なんか変な事言ったか?」
「いや、俺の問題です」
すると途端に何も喋らなくなると暫く沈黙の時間が流れた。
何が何だかわからずじっと様子を窺っていると、柴本はゆっくり口を開く。
「井坂さんって兄弟いますか?」
「うん。兄がいる」
「ご家族とは仲良いですか?」
「どうだろう。もう何年も連絡取ってないし、この性格だから毛嫌いされてる」
すると柴本は物凄く悲しげに笑った。
「……俺は、縁を切られています」
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