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第6話

「縁を切られてる?」 突然の告白に驚いていると柴本は悲しげな表情をしていた。 「俺の家は代々医者で、三人の兄弟がいるんですけど上二人の兄は父の期待通り医者になって、俺だけ文系だったので弁護士になれと法学部に入れられましたが、親の敷いたレールの上では将来が全く見えなくて。その時に隠していた事がばれて……勘当されたんです」 「隠していた事?」 すると柴本はなぜか俺に謝ると、小さく息を吐いて視線を上げた。 「……俺の恋愛対象は男性です」 柴本は俯いたまま拳をぎゅっと握りしめる。 その手は震えていて、それだけ沢山の事を今まで我慢して心の中に何度もしまい込んだのだという事が窺い知れた。 そして顔を上げると何も言わない俺に申し訳なさそうに微笑む。 「だから俺はそういう対象として井坂さんの事が好きなんです。……ごめんなさい」 一人で抱えるうちに何でも諦める癖でもついたのか、柴本は何度も俺に謝った。 その態度が気に入らなくて俺が大きく溜息をつくと、柴本は僅かに体を強張らせる。 でも俺が気に入らないのはそこじゃない。 「お前は何も悪くないだろ。何、謝ってるんだ。親や兄弟の前でもそうやって謝ったのか?」 「え?」 「悪い事なんてしてないのだから謝る必要ないって言ってるんだ」 「あ、あの。俺、井坂さんが好きだって言ってるんですが、気持ち悪くないんですか?」 「俺は人に関心がないから好かれようが嫌われようが気にならない。それが男でも女でも同じだ」 すると拍子抜けした顔をした柴本は、途端に肩を震わせ笑い始めた。 「何笑ってんだ」 「井坂さんって本当に面白いですね。みんなと一緒じゃないって怖くないですか?」 「俺は俺だ。お前の事は嫌いじゃない。あと法学部中退してきっと正解だな。お前は弁護士より料理人とかのが合ってる」 すると何が面白かったのかはわからないが、柴本はそれから暫く腹を抱えて笑っていた。 見ていると俺まで可笑しく思えてきて二人で笑う。 「こんなに笑ったの久しぶり」 「俺もです」 ひとしきり笑うと、今日は自分の家に戻る事にする。明日必要な資料が家にあったからだ。 見送りに出てきた柴本が外に出た俺にマフラーをかけた。 「今日は寒いので。冷えないように」 そう言って目を細めると髪を優しく撫でて首元のマフラーを整えた。 「井坂さん、俺を拒否しないでくれてありがとう」 「大袈裟だな」 「井坂さんはそう思わないかもしれないけど、好きな人に好きって言えるって凄い事なんですよ」 そして少しだけ抱き寄せると、耳元で囁くように言った。 「いつか井坂さんにも言われたいなぁ」 「え? 何を?」 「カミングアウトついでに言ってみただけです」 「はぁ? お前の作る卵焼きは結構気に入ってるぞ?」 すると柴本は笑った。 「そういう所、好きです」 じゃあまた明日と、柴本の部屋を後にした。 その時は、明日は明日で同じような日がやってくるものだと思っていた。 しかし、……次の日から柴本は姿を消した。

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