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《ファーストキス》
入学してから6ヶ月が過ぎ、寮生活にも慣れはじめていた頃。
夕方、ひとりティータイムを済まし部屋の共有スペースの簡易キッチンでカップを洗いながら、実家のことを思い出していた。
病気を持つアキラを独りにしてしまって、心配になる。
家を出る前、兄との会話を思い出す。
『アキ兄、僕が寮に入ったら独りになるけど大丈夫?』
『大丈夫に決まってるだろ、なんなら独りの方が気楽だし』
『アキ兄…』
『オレのことなんか気にせずに、お前はお前がやりたい事を後悔しないようにしたらいいから』
『…うん』
『コウには、ちゃんとオレの代わりに医者になってもらわなきゃならないからな、頑張れよ』
『うん、ありがとアキ兄』
進行性の病を抱える兄、この先悪くなっていくことはあっても良くなることはない病。
そんなアキラを独りにして…僕の選択は正しかったのかな…
今は時々様子を見に帰るしかできないけど…
もし、見えないところでアキ兄に何かあったら…
洗い物の手を止め、窓の外を見ながらそう思い悩んでしまう。
そこへ、不意にやってきた瞬助。
「くすのき?」
後ろからぽつりと呼ぶが、集中していたコウジには届いていない。
その憂いを含んだなんとも言えない表情を見ると…
考えるより先に身体が動いて…
「くすのき…」
「えっ!」
スッと横から屈んで、コウジの顎を持ち顔を自分の方へ向けて、優しくキスを落としてしまう。
数秒間の静寂。
「………ッ、」
一瞬何をされているのか、理解に至れなかったが…
「ちょ、やめて!!」
反射的に身体をひねり、幸田のみぞおちを蹴り上げてしまう。
「痛ッ!」
「あ、…」
2人の間に微妙な空気が流れ…
「……ごめん」
幸田がぽつりと謝る。
「……っ、」
手を洗い、さっと幸田の前から逃げるように自分の部屋に入る。
「……今の、」
キス、だよね…?
え、なんで?
幸田、彼女…いるよね?
なに、考えてんの?
意味わからない…
口元を拭い、必死に理由を探しながら、ざわついた心を落ち着かせようとする。
「落ち着いて、きっと、魔がさしただけ、深い意味はないはず」
だって、めちゃくちゃ女子にモテる幸田が…わざわざ男にキスするなんてこと、普通ないだろうし…
ていうか、そうじゃないと困るし…
でも、いきなりキスしてくる?普通…!?
あ、でも幸田にとってキスなんか日常茶飯事で、軽い気持ちでも出来ちゃうことで…
軽い気持ちでキスされた僕って、遊ばれてる?
あー、なんかモヤモヤする!
「もう、幸田のバカ!」
とりあえず鬱憤を吐き捨てて、幸田に対して怒りモードのスイッチを入れるしかなかった。
その日から幸田を避けている。
学校でも極力幸田の近くには行かないように会話を避けて、たくみのところに逃げて…
寮に帰らず、少し距離はあるが、自宅へ帰るようにした。
僕のあからさまな行動に、最初はなんとか関わろうとして来ていた幸田も、やや意気消沈して諦めたようだった。
確かに僕は見た目が女の子みたいだけど、だからって女の子じゃないし、幸田がまた変な気を起こさないように、はっきり態度で示すつもり。
けど、幸田とはクラスメイトだし、まだまだルームメイトとしても長くやっていかなきゃならない。
こんな問題起こしてる場合じゃないのに…
はぁ、どうしよう。
アキ兄に相談してみようかな…
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