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第44話
翌日、殴られた頬が腫れたり蹴られた箇所に痛みが残っているものの動けなくなる程でもなくなんとか学校には行けそうだと安堵した。
1日家に居ると言うことは男と1日過ごすことになる。
闇医者と言えど医者に安静にするようにと言われているのに、男はそんなことも忘れて俺を嬲りものにするだろう。
元はと言えば闇医者に注意された男が俺に八つ当たりしてきたのだから、闇医者は余計な事をしたなと御門違いだが思ってしまう。
元はと言えば男が出所の分からない薬を俺へ使ったのが原因なのだが、怒りをぶつける先がないので仕方がない。
男は大きなイビキをかきながら未だに寝ているので俺は重い身体を起こし這うように部屋を出る。
「ふぅ…」
部屋を出て扉を閉めた所で大きな溜め息が出た。
改めて自分の身体を見下ろすと乳首には絆創膏が貼られており、男が絆創膏越しに乳首を弄っていたせいで粘着部分が弱くなったのかよれている。
腹に痛みがあると思ったら内出血しているのか紫色に変色していた。
昨日で涙は枯れたと思っていたが、鼻の奥がツンとして視界が歪む。
しかし、俺は手の甲で涙を拭うと自室に置いてある携帯電話を取りに急ぐ。
昨日男がぶつぶつと母親と外で食事をするのは面倒だとか、小遣いをいくら貰おうなどと言っていた事を先生に報告するためだ。
吉高先生とはあれから頻繁に連絡を取っている。
俺からは簡素に男とその母親のスケジュールを送って、その情報を吉高先生は上手く使ってるみたいだ。
吉高先生は次いつ学校に来るかを送ってきてくれている。
俺は吉高先生に送った情報の履歴を消して、相手からの履歴も小まめに消すようにしていた。
男は滅多に携帯電話をチェックすることは無いが、疑われると面倒なので小まめに消している。
「高橋くん!」
「あぁ…」
今日は男を起こさなくてもいいし、朝のお勤めもしなくていいと言われていた。
昨日愚痴っていた母親の秘書が家まで迎えに来るらしいので、俺の相手をしていると遅くなってしまうし昨日のうちにストレスを発散できたからみたいだ。
よく分からない理由だが、俺にしたら理由はどうあれ男のせいでボロボロの身体なので相手をしなくていいと言うだけでありがたかった。
今日はゆったりと学校に来る事ができたが、玄関で声をかけられる。
振り返ってみると先週言葉を交わした佐藤がこちらに気が付いて手を上げて走ってきた。
俺はまた佐藤が具合が悪くなるのではと思ったが本人は気にせず俺に駆け寄ってくる。
「高橋くんおはよ!」
「おはよ…」
「あれ?頬っぺたどうしたの?けが?」
「ちょっと。日曜にぶつけちゃって…」
佐藤が俺の腫れた頬を見て心配そうな顔をする。
一応冷やしたのだがまだ完全には腫れが引いていない。
俺が少し気不味そうな表情を作る様に意識すると上手くいったようで佐藤が逆に気不味げにオロオロとしだした。
「あ、えっと…ごめんね」
「いや佐藤が謝る事じゃないから。俺がちょっとドジっただけだから、気にしてくれてありがとな」
「でも…高橋くんも、金曜日に僕の事心配してくれたし!こちらこそお世話になりました!」
困った様にする佐藤は俺より少し身長が低くてうつむくとつむじが見えた。
綺麗に手入れされてるのか髪は触れるとさらさらしていそうだし、色も白くて少しふっくらした体つきをしているので俺とは全くと言っていいほど真逆だ。
俺は身体の成長には抗えず今も少しずつ身長も伸びてきているし、なぜか筋肉がつきやすい体質の様で腹も少し腹筋の筋がある。
性格も話している感じも佐藤はどちらかと言うと気の強い俺よりおっとりとしている様に感じる。
きっと男の好みはこういったタイプなんだろうなと何故か男の事が頭をよぎった。
そんな考えを振り払う仕草を誤魔化す様に首を振って佐藤へ心配してくれた事への感謝を述べる。
すると佐藤が恥ずかしそうに指をもじもじと動かしたかと思うと、ペコリと頭を下げる仕草がなんだか小動物みたいだなとぼんやりと思う。
「あ!金曜日に借りたタオル…汚しちゃったから良かったらこれ使ってくれる?」
「え…。俺そんなつもりじゃなかったのに」
佐藤が慌てて肩にかけていたバッグから綺麗にラッピングされた物を取り出し俺へ差し出してきた。
半透明のラッピングからは有名なスポーツメーカーのタオルが見える。
断ろうかとも思ったが、思いの外押しが強くタオルを手に握らさせられてしまった。
きっとこれは家に持って帰ると男に色々と聞かれるだろうなと思ったので佐藤にはお礼を言って受け取ったがしばらく持って帰らない方がいいだろうなと判断した。
普段は俺の持ち物等に興味が全くないくせに、嗅覚が鋭いというか感が冴えるというか貰い物などはめざとく見つけて誰に貰ったのかを聞いてくる。
それを切っ掛けに嫉妬なのか、優越感なのかは分からないが結果的に身体を好きにされるので疑われる物は始めから持ち帰らなければいいのだ。
今は何か物を隠しておける部室もロッカーもあるのだから大切な物はそこに置いておけばいいと笑顔を作りながら考える。
「あ、そろそろチャイム鳴る!」
「本当だ!高橋くんありがとう!またね!」
ふと校舎の中の玄関先に掛かっている時計を見ると、そろそろチャイムが鳴りそうな時間だった。
周りの生徒達も何処か急いでいる様に見える。
俺が時計を見て声をかけると、佐藤もそれに気が付いて一緒に校舎に入った。
内履きに履き替え、教室に急ぐ。
佐藤と別れる時に“また”と手を振りながら声をかけられたが、始めに旧校舎で介抱した時と今日とではだいぶ印象が違っていた。
旧校舎での佐藤は顔面蒼白で、身体を小さくして震えている本当に小動物みたいで俺は人の心配などしている場合ではなかったのに見ているこちらがなんとも言えない気分にさせられたのに今はそんな様子だった事なんて微塵も感じられない。
それよりも今日は部活にも出られるし、そもそも佐藤とは教室も離れていて今まで会うことも無かったので本当に会う約束をきちんとした訳ではないのだから付き合いも今回限りだろうと手を振り返しながらに思った。
「高橋くんいい感じだよー!!」
何事もなく放課後を迎え、部活の時間になった。
3年のマネージャーの先輩がゴールでタイムを測ってくれていて、一緒に走ったメンバーよりいいタイムが出たのか声をかけてくれる。
フォームについても他の先輩が教えてくれるしで和気あいあいと部活の時間は過ぎていった。
「高橋今日もやる気だな。ほどほどにして帰れよ!」
「また明日な!」
「うん。おつかれ~」
部活のメンバーとは一緒に着替えられないので、いつも自主練をするという名目で最後まで残っている。
女子マネージャーの先輩方も帰って行くのを遠目で眺めつつグラウンドの周りを走った。
男に飼われる生活が始まってからは毎日泣いていた気がする。
毎日行われる行為に身体は悲鳴をあげ、精神的にも辛かったがただただ無心で走っていると息はあがるし、あがった息で苦しいのに走り終わると達成感と心地のいい疲労感で辛いことも少しの間だけでも忘れられた。
記録会なんて物にも出させて貰って入賞はしなかったものの、記録会の代表に選ばれただけでも俺は嬉しかったのだ。
しかしその後、男が俺のユニホーム姿に興奮して物陰で抱かれるし事ある毎にコスプレの様にユニホームや女子が着るセパレートタイプのユニホームで抱かれる事もあった。
女子が着るセパレートタイプのユニホームはビキニの様な形でより身体にピッタリとフィットした物なので男のお気に入りだ。
上下のユニホームに後ろの孔と乳首が見える様に穴をあけ着たままセックスできる様にされており、似たような形の体操着の様なコスチュームも何度も着させられたなと記憶が蘇る。
家の中では基本的に身に付けるのを許されているのは首輪だけだが、エロ衣装は良く着させられるのでそれを着た後はひどく滑稽だと自分でも思う。
普段裸で居る事を強要されているのに、服を着られても陰部や乳首は丸出しで反って恥ずかしい格好をさせられているのだから。
頭を振って余計な考えを飛ばし走るスピードをあげる。
「ふぅ…」
走るスピードを緩め、あがった息を整えつつ手で滴ってきた汗を拭う。
スタート地点に置いていたタオルを取り上げ汗で濡れた手を拭いてから額から落ちてくる汗をタオルで押さえる。
グラウンドに設置されている時計を見ると、そろそろ帰らなければいけない時間になっていた。
俺はのんびりとした足取りで部室に向かう。
部室は俺以外誰も残っては居ないが明かりが着いており、その明かりに不思議とほっとした。
部室には昨年導入されたらしいシャワールームがあり、俺は一応部室の鍵を中側から閉めてからシャワールームへ向かった。
練習に使っているジャージを脱いでシャワー室に足を踏み入れる。
「また筋肉ついたか?」
シャワーの水音に掻き消される程小さな声がもれた。
お湯で汗を流すついでにふと腹を見てみると、腹にうっすらと線が増えている様に見える。
俺は筋肉が着きやすい体質らしく、それが嫌で仕方がなかった。
男の好みはどちらかというと肉付きのいいタイプの様で、過去の動画を見るに被害者達は触るとぷにぷにと柔らかそうな子が多かった。
俺も飼われはじめた当初は子供特有の丸みを帯びていた筈なのに、あの頃は辛すぎて今では記憶も曖昧になってきた。
俺は腹を撫でるが、帰りが遅くなるので撫でるのを止めて貞操帯の隙間にお湯を流し込み汚れを落とす。
昨日男に装着された貞操帯は外されずそのままになっていた。
乳首のピアスだけならなんとか腕で隠すなりできるが、下半身はそうもいかない。
投薬のせいで肥大化させられているペニスは平常時でも赤黒くグロテスクだし、今日は貞操帯もさせられている。
どうしても他人の身体に興味を持つ年頃なので、シャワー室なんて身体が露になるところで他人にこんな普通じゃない身体を見られたくはなかった。
やむ終えない場合はシャワーには入らずそのまま帰宅する事もある。
汗を流し終えてシャワー室を出て水分を拭き取って制服に着替えた。
部室の戸締まりをして鍵を職員室に返しに行く。
「あれ?高橋くん今帰り?」
「え?あぁ…佐藤…くんも帰り遅いね」
玄関を出て歩いていると、後ろから声をかけられた。
振り返ってみると佐藤が大きく手を振ってこちらに走り寄ってくる。
嬉しそうな表情が小型犬みたいだなと考えている間に佐藤が隣に立っていた。
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