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◇
「ノエル~。ただいま~」
「おかえり…。イブ」
帰ってきてすぐ、『特別な日』だと実感する。
だっていつも自室に引きこもっているノエルがリビングにいて俺を出迎えてくれるから。
単純な俺はそれだけで嬉しい。
持ち帰ってきた三つの箱をいれるため俺は冷蔵庫を開けた。
スペースを作るために中身を動かしてると、俺の後ろからひょこりとノエルが顔を覗かせる。
だぶだぶのよれたスウェットに毛玉のついた半纏。
ここ3か月くらい切っていない茶髪はぼさぼさでプリンが目立つ。プラス顎には無精髭。また剃るの面倒臭がったな。
背が高いけど相応の肉はない。ひょろひょろでもやしのノエル。
整った顔立ちとスタイルを完全に無駄遣いしてる男だ。
「イブ…」
「ん?」
「…あ、これ。あの、ありがとう……っ」
何がとは聞かなくてもわかる。ノエルの視線の先は冷蔵庫の中の箱。
このなかのひとつを予約したのはノエルだ。
ノエルが俺のスーツの端をちょっとだけ摘まむ。
くそ、かわいいなコイツ。
もう三十路になるくせに。
「イブ、おれ、2月の連載原稿。今日、終わらせた……」
「うわまじー?〆切6日なのに仕事はっやー。さすが乃絵瑠先生~」
「……イブは、先生って呼ばないでって、前も」
「わーごめんごめん、つい!」
一気に拗ねてしまったノエルのご機嫌取りのため俺はハグをした。
俺の本名は伊吹 だ。ちなみに苗字。
「ノエル」と「イブ」。
俺が「乃絵瑠先生」と言わず、ノエルが俺を「伊吹さん」と言わない代わりに取り決めた呼び方。
仕事を絡めない、恋人としての呼び方。
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