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――(ひじり) 乃絵瑠(のえる)。 デビューして今年で10年にもなる小説家。 繊細な心理描写で描くラブロマンスと緻密に計算して織り成されたミステリーという、二つのジャンルを絶妙に掛け合わせた作品が評判だ。2年前からはシリーズものを連載しつつ合間に短編の単行本まで発行したりしている売れっ子先生。 聖乃絵瑠はうちの出版社の看板作家だ。 俺が彼の担当になってから早5年。 ……そして俺の恋人になってからも、5年。 ノエルが所望し俺がこのマンションに引っ越したのは2年ほど前だ。完全に俺が転がり込んだ形だけど生活は上手くいってるからいい。 乃絵瑠先生は人が嫌いでコミュ障で面倒臭がり。 大好きな小説を書く以外のことを極力したがらない、はっきり言ってとんでもない変人だ。 メールとライン以外のやりとりはなるべくしたくないし、普段の買い物も通販メインでそれもクレカと宅配ボックス利用が常という徹底した対人拒否っぷり。 出版社のパーティーにだって滅多に顔は出さないし出してもすぐ帰る。他人と私生活の話も余計な雑談もしない。 俺だって初めて会ったときはドン引きしたものだ。 そんな気難しさの塊の人間だから、編集部も担当の俺にほとんど丸投げしやがっている。 ……でもそのおかげで俺と彼の、編集者と作家という関係を超えたこの密な生活が外部に全く漏れずに済んでるわけだけど。 契約している作家の元に同居人が一人増えてもバレないってノエルの対人関係の薄さには何というか言葉が選べない。 しかしこの男に思いがけず懐かれて好かれて、こんな風になるとは俺だって予想外だった。 「なぁー。のえるぅ~、ごめんって~」 俺はまだ不服そうな顔をするノエルの頭を撫でてあげる。黙って撫でられる様子は大型犬というか、むしろ大きすぎて熊っていうか。 ちなみに作風も相まって女性とも勘違いされるきらびやかなペンネームは実は完全な本名だ。 実際はノエルってか大五郎って感じだけど。 しばらくすると機嫌を直したっぽく、「……許す」と呟いて俺をぎゅっと抱きしめてきた。 ……酷いことを書き連ねたが、ノエルはやっぱりかわいい。

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