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not sweet… 2

大学の卒業と同時にバスケのプロ選手になった紫音と、今日は約2ヶ月ぶりに会える日だった。 まだシーズンは始まっていないので、今は練習の時期だが、紫音は期待の新人としてプロ入りしてすぐ国際試合に連れていかれた。そこで何試合か出て、さすがと言うべきか初のプロ同士の試合だったにも関わらず得点し、活躍した様だった。日本ではバスケの国際試合なんて普通のテレビで放送されないので、これは紫音から電話で聞いた内容だ。 昨夜日本に戻った紫音は、今日と明日はオフなので、会う約束をしていたのだ。 いつもは電車を使って帰っているが、紫音をこれ以上待たせる訳には行かないので、タクシーを拾った。 行き先を告げてシートに身体を預けたら、どっと疲労感が襲う。 いくら慣れてきたとは言え、思わず身体が竦みそうになる程苦手なタイプを相手に1時間も自分を否定され続けるのはさすがに堪える……。 「お客さん、着きました」 運転手の声に微睡みかけていた意識が浮上する。 「ここで合ってます?」 「あ、はい」 窓の外は見慣れた気色。5階建ての1DKのマンションだ。一応オートロック付きだが、都心から離れているので家賃もそう高くはない。 メーターに表示された金額を支払い、ありがとうとタクシーを降りる。 学校からここまではそんなに遠くない距離なのに、危うく寝てしまう所だった。 今日は木曜日だ。自分が思っている以上に仕事の疲れが溜まっているらしい。 5階の自分の部屋の明かりがカーテンから洩れている。紫音はもう部屋にいる様だ。 早く会いたい。 足早にマンションに入り、エレベーターに乗り込む。5のボタンを押して、乗り込んだ箱が上昇するのを待つ。 眠気すっかりは覚めて、気持ちが逸る。 目的の階に到着し、部屋のドアを開けた。 「ハル先輩、おかえり!」 玄関ドアの開く音を敏感に察知したらしい紫音が奥からパタパタと早足で玄関まで迎えに来てくれた。 変わらない嬉しそうな笑顔が眩しい。 「紫音の方こそ、おかえり。待たせてごめんな」 靴を脱いで玄関を上がると、紫音がニコニコと笑って腕を広げた。 「おいで」 少し照れ臭いが、素直に紫音の胸に身体を預けると、すぐにぎゅっと両の腕に背中を抱かれる。 「会いたかったです」 「うん。俺も」 今は夏真っ盛り。紫音がここに着いて間もないのだろう。部屋の中もまだ暑い。紫音の首筋からは微かな汗のにおいがしていて、それは男のにおいなのに全然嫌じゃないのは、俺がどうしようもなく紫音に惚れこんでいるからなんだろう。 「ハル先輩はやっぱりいつもいいにおいがする」 タイミングよく紫音にそんな事を言われたので、気になって微かに身を捩った。 「ごめん、俺汗臭いよな」 「臭くないよ。いいにおいだってば」 紫音は一向に腕を離す気配がないので、身を捩るのは早々に止めた。 紫音の腕の中は心地いい。紫音が臭くないと言うのだから、お言葉に甘える事にしたのだ。紫音の胸の中にすっぽり収まってしまうのは少々不本意だが、これは仕方がない。 紫音は高校に入って以降もグングン背が伸びて、今では確か189㎝あると言っていた。 対する俺は中学3年以降身長が伸びるのはストップしてしまい、いつか逞しくなるだろうと期待していた胸板や肩幅もあまり成長しなかった。 当然、中学生の頃よりは逞しい大人の身体にはなったが、紫音と比べれば雲泥の差だし、一般男性と比べても、悔しいけれど華奢に見える。一応ずっとバスケをしていたので、筋肉はある程度…と言うよりも普通の人よりもついている筈だが、全体的に厚みが足りないのだ。 父も母も長身なのに自分が平均身長で止まってしまったのは、中3から高校1年の間の二次性徴の最中、栄養不足、睡眠不足等不摂生が過ぎたのと、精神的ストレスがありすぎたせいだろうなと思い当たる。あの時は肉体だって、酷使さられていた。 ―――だめだ。 ついあの時の事を連想してしまったので、心の中で首を振って、紫音の胸に頬を押し付けた。 「ハル先輩、甘えんぼ」 紫音は擦り寄った俺に応える様にぎゅっと腕に力を込めた。 「中、入ろ」 「そうですね」 クスリと笑った紫音が、身体を離して首を屈め、頬にキスを落とした てっきり唇に降りてくるものだと思っていたのだが。 「そんな顔しないで。ちゃんとキスしちゃったらタガが外れそうだから、唇はお預けです」 自分の期待を読まれていたみたいな紫音のその発言にカーッと頬が熱くなるのがわかる。 俺はそんな物欲しそうな顔をしてしまっていたのだろうか。 「べ、別に、俺は…」 「可愛いなあもう。早く食べちゃいたいから、飯食べましょ」 さらっと問題発言をした紫音に突っ込みを入れる事もできず羞恥心で固まる手を引かれて部屋に入った。

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