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not sweet… 8

「先輩…ハル先輩…」 …………? 「ハル先輩、目覚まし鳴ってる」 少しずつ意識が戻るにつれ、自分の携帯の、いつものアラーム音が耳に届いた。 「…今、何時…?」 随分声が掠れてる。 「6時半です」 「ん……」 起きなきゃ。 「ハル先輩、あんまり色っぽい声出してたら、朝っぱらから襲っちゃいますよ?」 「ん…?んんっ!…ふ、ぁ…っ」 予告だった癖に俺の答えも聞かず紫音に口を塞がれて、否応なしに覚醒した。 昨晩、あの後浴室で1回、ベッドで1回…いや2回…?記憶が定かでないのは、途中で意識を失ったからだ。何せ、紫音は合計3回か4回だとしても、俺はその間にもっと沢山…紫音の倍近く絶頂させられたのだから。 3回でも充分すぎるくらいなのに、またサカっているとはどういうことだ。紫音の体力にさすがについていけない。 「ちょ……んっ……紫音…っ…だめだって!」 キスに翻弄されながらも隙をついて顔を背けた。体力が云々以前に、今日は仕事だ。流される訳にはいかない。 「休んじゃえば?学校」 いたずらっ子みたいな紫音の表情は凄く可愛いらしけど。 「そんな事出来るわけないだろ」 「ですよね。でも、ハル先輩その声…」 「誰のせいだよ」 「だってハル先輩可愛すぎるんだもん」 「はいはい」 「もん」ってなんだ。可愛いのはどっちだよ。またその気になられても困るので、適当に流してベッドカバーにしている大判のシーツを掴んでベッドから抜け出る。 腰が重い…。 「ひゅー!色っぽい!」 「言ってろ」 昨夜はやってる途中で気を失ったので、つまり全裸だ。いつもそういう時は紫音が最低限後始末をしてくれているので、身体が汚れているという事はない。 揶揄の言葉を放つ紫音は無視して、ズルズルとシーツと怠い身体を引き摺りながらバスルームに向かった。 シャワーを浴びて歯みがきも済ませ、こざっぱりして下着のみ纏って部屋に戻ると、香ばしい匂いと、何かを焼いている音が聞こえた。 台所を覗くと、紫音がコンロの前でフライパンを握っている。隣のコンロには鍋も置かれている。 気配を察知した紫音が振り向いてすぐ嬉しそうに笑った。 「ハル先輩、まさか誘ってます?」 「んな訳あるか。朝御飯?」 「そ。昨日卵買ってきたから、目玉焼き。ハル先輩のはちゃんと堅焼きにしてますからね」 「ありがとう。着替えてくる」 朝飯は普段食べないが、この家で久々に嗅ぐ生活感のあるにおいと懐かしい光景に食欲が湧いた。 最近はうちの学校でもクールビズを推奨されていて、夏期はポロシャツや半袖シャツが主流だが、今日は飲み会があるためスーツに着替えた。ハメを外しすぎない様、服装を整えて身を引き締めさせるという目的で、飲み会のある日はスーツ等の堅い服装を義務付けられている。今の校長の方針らしい。 居間に戻ると、ローテーブルにお皿やお碗がセッティングされていた。 目玉焼きに、ワカメの味噌汁に、白飯。炊いてる時間はなかっただろうから、白飯はレトルト物の筈だが、ちゃんと茶碗に盛ると普通に美味しそうだ。 「ハル先輩のスーツ姿、やっぱいいなぁ」 「そうか?」 一応体型に合ったスリムタイプの物だけど、自分で見ても「貧相だな」としか思わない。たぶん、紫音くらい上背があって体格が良ければ本当に様になるだろうと思う。顔が小さく肩幅があって手足も長いので、モデルみたいに着こなせる事だろう。 そう思ったが、時間も余りないので口には出さず席についた。 「いただきます」 「どーぞ」 味噌汁を一口啜る。うん、美味い。目玉焼きもしっかり火が通ってて、これなら食べられる。 「ハル先輩普段何食べてるんですか?」 目の前で箸を動かす紫音が半熟の目玉焼きを器用に白身と絡めながら聞いてきた。 「朝は殆ど食べない。昼と夜はコンビニの弁当かパン」 「ハル先輩って意外とズボラですよね」 「そうかな?」   「弁当ばっか食べてたら身体壊しますよ」 「…たまに外食もしてる」 「そういう問題じゃなくて」 そういう紫音は、意外と結構家事ができる。小学校高学年くらいから母親が海外に単身赴任中の父親の所に数週間泊まりがけで行くことがしょっちゅうあったので、自然と覚えたのだと言う。 対する俺は専業主婦の母親が掃除、洗濯、食事の世話から何まで全てしてくれて何不自由なく育てて貰ったので、苦労した分しっかり物の紫音から見れば何もできない様に見えるみたいだ。 俺だって簡単な掃除と洗濯くらいは覚えたし、しないだけで米ぐらいは炊けるのだが。 「また一緒に住めたらいいのに」 紫音が懐かしむような少し寂しそうな目をした。 高校の頃は、一応別々に部屋を借りてはいた物の、紫音は殆ど俺の部屋にいた。初めの頃は一人で眠れない俺の為だったのだけれど、時が経って俺が大分落ち着いてからも一緒にいるのが当たり前になっていた。なので、紫音が俺と同じ東京の大学に進学した時は、当然の様に紫音は俺の借りていた部屋に引っ越してきた。 今どき学生のルームシェアなんて珍しくもないので、男同士で一緒に住んでいても変な目で見られる事はない。 そしてその部屋に、社会人になっても俺はずっと住み続けている。勤務先の学校から適度な距離があるのでちょうどよかったのだ。あんまり学校の近くに住んで生徒に住まいを知られるはプライバシーの面でよろしくない。

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