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My dear… 9
「椎名くんバスケ部の顧問してるんだって?」
「はい」
「指導者に向いてると思うよ。椎名くんは」
「だと、嬉しいです」
食事も大方片付いて、また話に花が咲く。
いくら女性よりも綺麗な人が混じっていても、所詮は男4人でしかも定食屋という場所だ。食事中はそれぞれ目の前の物を片付ける事に集中していて4人ともあまり喋らなかった。ハル先輩も、今日は食欲があるらしくて1人前綺麗に片付けた。
「ハル先輩凄いんですよ!弱小高だったのに、インハイ予選準決勝まで連れてったんですから」
「おーさすが!」
「いえ、生徒達が頑張ってくれたので」
「またまた謙遜しちゃって~。………そうだ!いいこと考えた!今日のお礼にさ、椎名くんが顧問してるバスケ部に、バスケ教えに行こうかな!」
……それだ!
勝瀬さんの思い付きに俺は心の中で指を鳴らした。
「そんなお礼なんて…」
「椎名くんがいれば指導なんて必要ないだろうけど、現役のプロが行けば、部員くん達にはいい刺激になるんじゃない?気合い入って、来年はインハイ行けるかもよ」
勝瀬さんがいたずらを思い付いた子供みたいな目でハル先輩を見ていて、ハル先輩も満更でも無さそうな表情だ。
「いいんですか?」
「一応マネージャーに聞いてみるけど、オフの日に行けば問題ないと思う」
そして俺も勝瀬さんのその案は満更でもない。どうして今までそれを思い付かなかったのだろう。ハル先輩の学校に行ければ、ハル先輩の学校での様子も、周りの人間もチェックできるじゃないか。
「オフを使わせて貰っていいんですか?俺なんか何も大したことしてないのに、そこまでして貰うのは申し訳ないです」
「何言ってんのー。俺、今日で立ち直れなかったら来期でクビだったかもだぜ?…って言うのは大袈裟かもしれないけど、それくらい感謝してるんだからさ」
「勝瀬さん…」
いかんいかん。二人がシリアスムードに入ってしまった。そうそう二人の世界に入らせてたまるか。
「ちょっとその話、俺も乗っていいですか?」
「…は?何で?」
「いいじゃないすかー!面白そうだから、俺も行きたいんです!」
「俺は別にいいけど…」
「ハル先輩もいいでしょ?」
「うん。生徒も喜ぶと思う」
よかった。ハル先輩は何も深読みをしていない様だ。これで一番の心配事であるハル先輩の学校での状況を知ることが叶う。
勝瀬さんもたまにはいいこと言う。今日少しヤキモキさせられた分くらい返してくれたな。
学校に行く日に関してはマネージャーと相談して連絡するという事になって、そのまま定食屋で二人とは別れた。
「せっかく久し振りのデートだったのに、邪魔者がいて残念でしたね」
「でも、楽しかった。いいチームメイトだな」
「そうですね」
実力主義社会にいて、チームメイトは仲間であると同時にライバルであるという中、新人を蹴落とそうという雰囲気もなければ嫌がらせもない。それはもしかしたら俺が「期待の新人」なんて持ち上げられているからなのかもしれないが、同期だって伸び伸びプレーしてると思う。
そう。ハル先輩の言う通りいいチームメイト達だ。俺は自分の事ばかりではなく、チームメイトの事にももう少し目を向けた方がいいのかもしれない。大切な物を他にも増やしたって、ハル先輩が大切じゃなくなる訳でも、1番じゃなくなる訳でもない。
「試合、格好良かった」
「え?」
「初めてプロになってからの紫音を見たけど、なんか格好良すぎて遠く感じたな」
「何言ってるんですか!こんなに近くにいるのに」
ハル先輩から素直に褒められて俺はバカみたいに有頂天になった。
ハル先輩が「格好いい」って言ってくれた。今日はそう思われたくて頑張ったので、何よりも嬉しい言葉だ。
「そうだよな。ごめん」
「俺、これからも沢山勝ちますから!チームを優勝させますよ!」
「うん。頑張れ」
「はい!」
ホームでの試合には、ハル先輩の都合のつく限り見に来て貰いたいな。そうすれば、プレーオフ進出は当然の事として、優勝だって口先だけじゃなく本気で手が届く気がするのだ。
もし優勝できたら、ハル先輩はきっと自分の事の様に喜んでくれるだろう。その笑顔が何よりも見たいし、愛着の湧いてきたチームの為にも自分の力を出し尽くしたい。ハル先輩と会えない分のフラストレーションも全部バスケにぶつけよう。それが、今の俺にできるベストだと思うから。
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