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gently than anyone 4
暫く抱き締めて頭を撫でていると、ポツリポツリと言葉を区切りながらハル先輩が話し始めた。
「……だって、紫音。俺がいつもと違っても、気付かないし、電話出なくても、何も言わないし…」
それを気にしてここまで拗らせていたのか、この可愛い人は。
「ごめん。ごめんねハル先輩。俺、ちゃんと気付いてたよ。元気ないなとも、俺に素っ気ないなとも思ってたけど、俺、いつもしつこくし過ぎてハル先輩を怒らせてたから、追求するの我慢してたんです。でも、そんな事しなきゃよかった。不安にさせてごめんね。大好きだよ」
「それに…………」
そう言ったきりハル先輩は黙りこんだ。
「それに、どうしたの?全部話して」
「……いい。これは俺の勘違いだから」
「いやいや、駄目だって。そうやって自己完結させるから、ここまで拗らせちゃったんでしょ?どんな事でもいいから、言ってください」
「………紫音が………」
「俺が?」
「……浮気してると思った。俺より気になる相手ができたんだって」
え?え?え?その勘違いは一体どこから!?
驚き過ぎて身体を離してハル先輩の顔を見たら、もう涙は流れていないけど少し赤くなった目が真剣にこっちを見ていた。冗談で言っているんじゃなさそうだ。
「そんなの、絶対、絶対あり得ないです!俺、ハル先輩以外なんて眼中にありませんから!一体何でそんな事思ったんですか!?」
「だって……。なか……」
「え?なか??」
「………あの店、行った事あるって」
「店?」
店って、今日のイタ飯屋の事か?
そう考えて、ピンときた。確かに、あんな洒落た店、普通は男が友達同士では行かないか。行くとしたら女の子同士か女連れ。
俺のバカ野郎。変な格好つけようとするから、こんな事になったんだ。つまり、全部俺のせいだった訳だ。
「ごめん、ハル先輩。白状します。俺、あの店は今日で2回目。前回は、味と雰囲気のリサーチの為に行ったんです。今日の為に。あ、勿論ただの友達とね。俺、少しでもハル先輩の前でカッコつけたくて、常連風に装ってみただけ。ハル先輩とちゃんとデートできるのって本当に久々だったから、完璧な夜にしたかったんです。ただそれだけ。………信じてくれますか?」
「…………うん。ごめん、疑って」
ハル先輩はじっと俺の顔を見た後に、そう言ってくれた。
はーよかった。
今度は俺が脱力する番だ。
「ハル先輩、大好き。大好き。本当にごめんね。愛してるよ」
言いながらハル先輩をまた抱き締める。
はー、相変わらずいい匂い。
抱き心地のいい身体。
柔らかくてさらさらの髪の毛。
俺が冷める筈ないじゃないか。でも、やっぱり俺が思っていた通り、ハル先輩は寂しかったんだろう。だから些細な事でもここまで思い詰めてしまったんだ。
「ハル先輩、会える回数も少なくてごめんね。詳しくは後で説明するけど、これも、どーでもいいからとか、興味ないからとか、そんなんじゃ断固ないですからね」
出来る事なら俺だって会いたいんだ。本当は24時間ずっと一緒にいたい。ずっと俺の側にいて欲しいし、ずっと側にいたい。
「もう本当大好き。なんでこんなに可愛いの?」
「……紫音…ちょっと痛い」
知らぬまに腕に力が入っていたらしく、ハル先輩が呻いた。
「ごめん!大丈夫?」
「ん」
慌てて腕を解いてまだ俯いているハル先輩の顔を覗きこんだら、ハル先輩は今日一日見た中で一番生気のある顔をしていた。頬は赤みがさしていて、照れたような表情だ。
もう、可愛い!
もう一度抱きついて仲直りエッチにでも持ち込みたい所だったが、まだ確かめなければならないことはある。
引っ越しの事と、何故先週末から元気がなかったのかという事だ。一体何があったのか。エッチはそれを全部確り聞いてからだ。
「詮索してもいいってハル先輩から許可も下りた事ですし、聞かせて下さいね。引っ越しの事とかぜーんぶ」
大袈裟に抑揚をつけて言うと、ハル先輩が少し笑った。
今日初めて笑ってくれたなぁ。ハル先輩くらい綺麗な人が笑うと本当に空気が変わる。背景が花に見えるくらいだ。
この人が男だっていうのは、まるで神様のイタズラの様だ。もしも女性に生まれていたら、色んな面でここまで苦悩する事はなかったのではないだろうか。いや、もっと狙われて、襲われて大変だっただろうか。でも、女性っていうのは総じて強かだ。「傾国の美女」という言葉もあるくらいだ。己の美貌を最大限活用して、要領よく権力者に取り入って、上手く世渡りしていけるに違いない。
でも、ハル先輩は男なのだ。綺麗とか可愛いとちやほやされる事を嫌い、男から求愛される事を恥だと感じる、歴とした男。それが、ハル先輩の苦悩の一因だと思う。
それでも、綺麗な物を好む男は、本能的にハル先輩に寄っていく。そこに性別はもはや無関係で、美しいこの人を手に入れたいとそう思ってしまう。均整の取れた美人との子孫を残したいという本能は、ヒトのDNAに刻まれているらしい。だから、仕方ない。仕方ないのだ。でも…。
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