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gently than anyone 5

「襲われた!?」 「うん。だから、ちょっと気持ち悪いだろ。たぶん家知られてるし」 「そ、それで、何、されたんですか!?どこ触られて、ナニされて…あー!!クソっ!!」 ハル先輩は淡々と語ったけど、路地裏で、ビルの間に引きずり込まれたらしい。 なんてことだ。そんな大変な事があったっていうのに、俺は知らないフリをして…! 「大した事されてない。黒野が助けてくれたし」 「え!?黒野が!?」 「うん。たまたま出会して」 「まじですか……」 がーん。最悪だ。襲われた事も知らなきゃ、当然助ける事もできなかった上に、その手柄をよりにもよって黒野に横取りされるとは。 「あーもう。俺、何してたんだろう!」 これまで俺は無駄に心配してた訳でも何でもなくて、実際問題ハル先輩は危ない目によく遭っていた訳で、これまでは俺が傍で阻止してたけど、それが出来なくなったからいつもシツコイくらい心配してたんだから。なんでこんな大事な時にちゃんと心配しなかったんだろう。そりゃ、ハル先輩だって不安になるよな。出来る事なら先週の自分の事を殴りたい。もうボッコボコに。 「もう、ハル先輩俺の傍から離したくない。ずっと俺の目の届く所にいて。お願い」 「何言ってるんだよ」 「本気で。だって、やっぱハル先輩は綺麗で可愛すぎます。心配で堪らないし、もうこんな思いはしたくない…」 考えれば考える程、また大事な時に助ける事ができなかった自分に苛立って仕方ない。その上、様子がおかしい事には気づいていたのに、また知らんぷりしてたなんて最低だ。 自分の事も許せないが、こんな綺麗な人を、無理矢理に穢そうとしたその中年親父も許せない。ハル先輩は大したことされてないって言ってたけど、それはつまり大したことじゃない事はされたって事で、例えば抱きつかれたとか、尻を揉まれたとか…? あー!!許せん許せん許せん!! ハル先輩に欲目を持って触る奴は全員許せん!そういう奴には、髪の毛一本たりとも触らせないというのが俺の信条だったのに。 「そいつに、何されたんですか?」 「……いいだろ、それは」 「いーえ!ダメです!もう俺は遠慮も我慢もしませんから、教えて貰うまで諦めません。それに、触られたとこちゃんと俺が消毒しないとだし!」 追求を我慢してた間は、俺だってモヤモヤしてて辛かったんだ。それなのに、その我慢が功を奏するどころか、逆にハル先輩を不安にさせていたんだから、我慢する必要性は皆無だ。 ハル先輩は「本当に大したことない」とか言って渋ってたけど、俺が頑ななのを見て諦めたらしく、はーと一息ついた後に口を開いた。 「耳舐められて、キスされた」 「キ、キキキ、キス!?」 「そう」 おおごとじゃないかそれは!『大したことない』なんて、とんでもない! 「中年親父に、唇許しちゃったんですか!?」 耳も非常に聞き捨てならないが、唇って、結構重要な所じゃないか?身体は許しても、唇だけは許さないみたいな風俗嬢だっているって話だ。…勿論行ったことはないから、これは都市伝説若しくはかなり古い話なのかもしれないが、俺はそういう貞淑な感じが結構好きだったりするのだ。 「好きでした訳じゃない」 「そ、そりゃあそうですけど…。やっぱ唇は守って欲しかったなっていうか、いや、でも不可抗力ですもんね。抵抗して、それでもされちゃったなら、仕方ないですよね」 「……抵抗してない」 「やっぱそうですよね…。って、え?…してない!?」 「してない。出来なかった。ひくか?」 「いや、引くっていうか、何で!?」 「………」 ハル先輩は俯いてしまった。何でだ?何で抵抗しない?ハル先輩は俺以外との性的接触を異常な程に嫌悪してる筈なのに、どうして。 「嫌じゃなかったんですか?」 「嫌だった」 「じゃあ、どうして…」 「ごめん」 どうして見も知らない中年に無抵抗で好きにさせたのだろう。 黒野に助けられたと言っていたが、まさか黒野が来なければ、そのまま最後までヤらせたのか…? 俺だけのハル先輩なのに。唇だって、俺と、あとあのくそ変態野郎しか知らなかった筈なのに、そんな変質者みたいなのに簡単に許すなんて……。 「何か、その親父に弱味でも握られてたんですか?」 ついさっきまで甘々の優しい声を出していた自分は何処に行った?と思うくらい固い声だ。だって正直意味不明だ。無抵抗で唇を差し出すなんて。元々自己評価が低すぎる所があったハル先輩だから、自暴自棄になっていたのか?いや、まさかな。でも、何にせよ俺という恋人がいながら、なんでもっと自分を大事にしてくれないのか。 「そういう訳じゃない」 「俺すげー嫉妬してるんですけど」 「今度からもっと気を付ける」 「気を付けて、注意して、でもまた襲われたらその時もまた抵抗しないんですか?」 「…わからない。その時になってみないと」 「そんな…。俺、嫌です、ハル先輩が無抵抗で好きにされるの」 「だからごめんって」 「ごめんって言われても…。俺以外に触られるの嫌なんじゃなかったんですか?」 「嫌」 「じゃあ何で抵抗しなかったんですか?」 「知らねーよ!」 あー。また喧嘩だ。 ハル先輩怒ってるし。そう、これまた珍しく声を荒げて怒っている。だから、また冷静にならないと。そう自分に言い聞かせるのだが、変質者と、そいつにされるがままのハル先輩のキスシーンを想像するだけで嫉妬の炎が再燃して、メラメラ燃えるのだ。とても正気じゃいられない。 「あとは?あとは何されたの?」 「何も」 「嘘だ。ハル先輩相変わらず嘘が下手。他にもされたことあるでしょ?全部話して」 「もういい。お前怒るだろ」 「俺は別に怒ってないです」 「怒ってるよ」 「じゃあ言わないともっと不機嫌になるから、言って下さい」 「何だよそれ」 「早く」 その場が膠着した。ハル先輩は無言だし、俺だって全部聞くまで諦めるつもりはない。

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