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gently than anyone 8

さっきまでハル先輩が入っていた浴室の中は、ボディソープやシャンプーのいい匂いに溢れていた。 そう、ついさっきまでハル先輩はここで髪を洗い、身体を洗っていたんだ。当然裸で。 このボディスポンジを使ったのだろうか。そう思うと何の変鉄もないスポンジがエロく見えてくる。 ヤバイ。頭を冷やす所か、これじゃ変態的思考まっしぐらじゃないか。 いかんいかんいかん。考えるな。ここはハル先輩の家ではない。俺の家だ。このいい匂いも、俺がシャンプーしてるから香ってきてるだけで、断じてハル先輩と関係はない。 必死に言い聞かせてようやく心が落ち着いてきたのは、頭も身体も顔も洗った後だった。 よし。時間はかかったが、これで俺はまた賢者でいられる。優しさの塊になれる。 脱衣所に出ると、ハル先輩家に置いてある俺の黒のスウェット上下と、バスタオルが用意してあった。 ハル先輩はなんて優しく気のつく人なんだ。こういうのもいいな。まるで新婚生活みたいで。 別々に暮らすようになってからハル先輩の家に来た時は、シャワーも浴びずに雪崩れ込むようにエッチに持ち込んで、裸のまま朝を迎える事が殆どだったから、このスウェットが活躍する暇がなかった。 そう考えると俺はいつも飢えた獣みたいだったな。 デートもろくにしないで、家に帰れば身体を求めるばかりなんて、そんな彼氏普通に考えて嫌だよな。 そういう所も、ハル先輩を不安にさせた一因かも。 やっぱり今日は温もりだけを分かち合って眠りにつこう。それが一番いい。 そう思っていたのに、神様は俺に試練ばかりをお与えになるらしい。 ハル先輩はゆったりとしたグレーのスウェットパンツに、上はTシャツの上にパーカーを羽織ってTVの前で寛いでいた。いつもそうしているのか、クッションを膝の上に抱いている。 か、か、か、可愛い…。 なんだこの生き物は。 「あ、紫音出たんだ。麦茶飲む?」 「は、はい。いただきます」 「ん」 クッションを横に置いて立ち上がったハル先輩が、台所に立ってお茶の入ったコップを持って戻ってきた。 「はい」 「あ、ありがとうございます!」 はうぁあ…なんていいのだろうこの感じ! 新婚感半端ない! ハル先輩はちょっと不思議そうに俺を見て、定位置に戻った。またクッションは膝の上だ。 正にザ・無防備。警戒心ゼロの寛ぎスタイル。 家事は苦手で、たぶんこのお茶もペットボトルの奴だけど、それでもこんなに綺麗で可愛くて優しくてエッチな奥さんがいてくれれば、俺何もいらない。 ああ『エッチな』は余計だ。それは今日は考えちゃだめだ。 はあぁ、でも、なんて可愛いんだろう…。 「紫音、どうした?座れば?」 「あ、そ、そうっすね!」 本当はハル先輩の隣に座りたい所だが、そうするとつい手が出そうなので、斜向かいに座った。 「そこ、テレビ見えなくないか?」 「いいんです。ハル先輩さえ見えれば」 「は?」 「あ、いや!何でもないです。どうぞテレビをゆっくり観てください」 いかんいかん。何を口走っているのだ。 今日はハル先輩を癒すのが俺の使命なのだから、ハル先輩の寛ぎタイムを、邪魔しちゃいけない。 『紫音と居ると、なんて安心出来るんだろう』と思われてナンボだ。いつもの押せ押せヤレヤレな自分は封印だ。 「……紫音、何か変だ」 「え?変じゃないですよ」 「変だよ。何この距離感」 「いや、たまにはさ。ハル先輩とゆっくり過ごしたいなと思いまして」 「ゆっくりって?」 「ほら、俺いつも野獣みたいだったからさ、もうちょっと理性的になってもいいかなって」 「ふーん」 あれ?ハル先輩何かご不満?実は野獣みたいな俺が好みだったとか?まさかな。 性的な事で傷ついたハル先輩に、野獣な俺で挑むのは絶対よくないと思う。俺が好きなのは身体だけじゃないって事も行動で伝えたいし。 クリスマスイブに敢えてエッチしないっていうのも、結構いい。そういう雰囲気にすら負けない固い意思を持っるんだぜって意味で。 あ、そう言えばイブと言えば…。 「ハル先輩!俺プレゼントがあるんです!」 「あ、俺もある」 「え、あるの?」 「うん」 ハル先輩、『今日は家に来ないかと思った』なんて言ってたから、てっきり用意してないと思ったけど、買ってくれてたんだぁ。もしかしたら、口ではあんな事言いながら、心の奥では来るのを期待してたりしたのかなぁ。相変わらず素直じゃなくて可愛いなぁ。 寝室から紙袋を持ってきたハル先輩に「はい」と手渡される。スポーツショップの紙袋だ。 「開けていい?」 「大した物じゃないけど」 包装された箱を開けると、中にはスポーツブランドのリストバンドが3つと、スポーツタオルが入っていた。 ファンの子からもよく貰う定番っちゃあ定番だが、いくつあっても困らない物だ。それに、ハル先輩がくれたという事に大きな意味がある。 「ありがとうハル先輩!すげー嬉しい!これ付けたら勝てる気がする!」 「大袈裟だなぁ」 苦笑しながらもハル先輩も嬉しそうだ。 「俺からはこれ」 「なんか高そう」 紙袋の有名なロゴを見て、ハル先輩が言った。 「開けてみて」 「うん」 「わ。凄い」 包装を解いたハル先輩が短く感嘆した。 「ハル先輩に似合うと思って」 薄いピンクに、シルバーや白など派手じゃない色見のストライプが入ったネクタイだ。色がピンクだけど派手じゃないし、ストライプも細かいから職場にも着けていけると思う。 「俺、こういう色初めてかも」 「ハル先輩青っぽい色多いもんね。瞳が碧色だから、こういう柔らかい感じも合うと思うな」 「そうかな」 「ま、ハル先輩なら何でも似合うと思うけど」 「そんな事はないと思うけど…ありがとう。なんか、俺のプレゼント釣り合ってなくてごめんな」 「全然そんな事ないよ!俺すげー嬉しいもん」 「ありがとう」 ハル先輩が嬉しそうにクスッと笑った。 あああ。なんだこの可憐さは。 ハル先輩の可憐さの前では花も恥じらう所か、恥ずかしすぎて蕾に戻ってしまう事だろう。 はあー。もう、本当見てるだけで癒されるわぁー。 そう考えながら、ハル先輩いわく『テレビが見えない』位置からハル先輩を盗み見ながら、寛ぎの時間は過ぎていった。

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