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break up SIDE 紫音 3
「好きだよ」
「今、何て言いました…?」
ハル先輩の沈黙に耐えかねて瞑っていた目を開く。
「好きだよ。俺は紫音の事が好き」
ハル先輩の声をはっきり聞いた途端、本日二度目のへたりこみをしてしまった。
「ハル先輩、あんまり俺を苛めないで…」
ああ、なんと情けない。男の威厳は皆無。でも、そんな所に気を回す事ができない程、俺はダメージを受けて弱っていた。ある意味トラウマ級だ。
「紫音…」
床に這いつくばった俺の目の前に、ハル先輩が屈んだ。
ハル先輩の顔が見たくて頭を上げると、その顔は何故か哀しそうだった。
「紫音…」
ハル先輩はもう一度俺の名前を呼ぶと、俺の頬にそっと手を添えて、俺の唇に――口づけをした。
「俺を好きなのか…」
唇を離したハル先輩が、まるで哀れむようにそう言った。
突然のハル先輩の行動に、嬉しいとか照れるとかも通り越して呆気に取られていた俺は、それでもすぐに気を取り直して答えた。だってこれは、多分この問題を解決する為の大事な質問だ。
「当たり前です!好きに決まってるじゃないですか!」
でも、俺のその答えを聞いても、ハル先輩の表情は変わらなかった。ハル先輩の考えてる事を知りたくてハル先輩の顔を覗き込んだら、それに気付いたハル先輩にまた口付けを受けた。
白い腕は驚愕に目さえ閉じられなかった俺の首に絡む。そして、触れるだけですぐに離れた唇が、今度は耳元に添えられた。
「俺を抱いて」
耳を疑う様なハル先輩の囁き。
これまで一度だって俺以上に積極的になった事なんてなかったハル先輩が、あろうことか俺の服を脱がせにまでかかっている。
信じられない。これは本当に現実?それとも俺の欲望が見せてる夢?
でも、現実なら、ハル先輩はどこか変だ。こんなことするなんて、普段の姿からは想像できない。
「ハル先輩、待って。まず、ちゃんと話そう」
でも、ハル先輩は無言で駄々っ子みたいに首を振った。
「ダメだって。こういうの凄く嬉しいけど、でも今はちゃんと話がしたい」
話をしないといけない。
ハル先輩には何かがあった筈だ。こんなにもいつもと違う事をする程の、何か大きな事があったに違いないのだ。
俺はハル先輩の手を取って、「話をしよう」と何度も諭した。その度にハル先輩は首を横に振って、俺の手をやんわり振りほどいた。
そしてついに俺のジーンズにも手をかけた。ベルトが引き抜かれ、ボタンを外される。
力ずくでやめさせるのは簡単だ。でも、大好きな人にそうされて、本気で止めにかかれる訳もなくて…。
「ちょ…ちょっと、ハル先輩っ!」
ハル先輩は寛げたスラックスと下着から、俺の、男の性で既に半勃ちだったモノを取り出して、迷いなくぱくりとその小さな口に含んだ。
「ッ……く……!」
こうされるのを嫌いな男はいないだろう。
温かく滑る口の中は最高に気持ちいいし、股の間に跪いて、決して綺麗とは言えない排泄器官でもあるそれに舌を這わせて一生懸命奉仕する姿は、視覚的にもクル。支配欲だって満たされる。
でも、俺はハル先輩にそれを求めたことはなかった。ハル先輩が『お返し』としてしたがる事はあったけど、一度もさせなかった。
勿論嫌いではないし、寧ろハル先輩に奉仕されるなんて、想像しただけでヤバイし、そうされる妄想だってしたことはある。それでも、実際ハル先輩を前にするとどうしてもさせる事はできなかった。
ハル先輩がそれを強要される様が脳裏に焼き付いているせいだ。苦しそうな表情。それでも必死に口を開いて奉仕する姿。
俺はハル先輩から何も奪わないセックスがしたかった。奪わない代わりに、愛と、優しさと、快楽を与えるセックスを。
あの行為は、ハル先輩に何も与えられない。自分が得るだけの快楽はいらない。気持ちよくなる時は、ハル先輩と一緒がよかったから。
―――だから、ハル先輩のこのやり方は、あいつに仕込まれたやり方なのだ。
裏筋にぴったり舌を這わせて、頭を動かす。時折先端部分に舌が絡んで亀頭の括れや尿道口を刺激する。
気持ちいい。凄く気持ちいい。これは相手がハル先輩だからというだけではない。上手いのだ。慣れている。
クソ。最低だ。
最高に興奮して、最高に気持ちいいのに、最低の気分だ。
こんな風にエロく、上手に男のモノを愛撫できる様になるまで、一体何度これと同じものを咥えさせられたのだろう。
また俺は嫉妬してる。過去に妬いたってどうにもならないのに、それでもどうしたって悔しい。
止めさせたい。あいつにするみたいにしないで欲しい。あいつに教えられた事を、見せつけないで欲しい。
でも、床に這いつくばって懸命に俺のモノを愛撫するハル先輩は、ただそれだけで刺激が強すぎて、気持ちよすぎて、止めさせたいのに止められない。
今日は試合が終わってからシャワーだって浴びてない。そんなモノを、美味しそうに頬張る姿はいやらしすぎた。
「ハル先輩、俺、もうヤバイ…」
興奮が最高潮で、もうイきそう。
髪の毛を撫でて口を離すように促すと、ハル先輩はゆっくり頭を上げた。
俺を見上げた碧色は少し潤んで、紅い唇が唾液に濡れて、その表情からは情欲の色さえ感じられる。
恥ずかしがりやのハル先輩が、こんな顔をするなんて…。
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