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break up SIDE 紫音 5
二人で力の抜けた身体を支え合う様に、暫くそのまま抱き合った。
段々とハル先輩の呼吸が整ってきて、俺も少しずつ冷静になってきた。
凄く気持ちいいセックスで最高に興奮したけど、やっぱりどう考えても違和感があった。ハル先輩が、変だった。
いつもなら抜かずにもう1回と言いたい所だが、今日は流石にそんな気分にはならなくて、ハル先輩の肩にもたれ掛かっていた頭を起こした。それに気付いたらしいハル先輩も頭を上げた。
「抜きますね」
「……うん」
あれ…?ハル先輩もしや残念?
ハル先輩の返事は、なんか少し残念そうというか、寂しそうに聞こえた。
でも、止める間もなくハル先輩は腰を上げて、俺の横に座り込んで、すぐに服を着始めた。俺もハル先輩に倣う。
「ハル先輩、まだし足りなかった?」
「ううん」
「そっか」
だよな。服着始めてるし、一昨日の朝したばっかだし、そうでなくてもハル先輩淡白な方だし。
「ゴムするとやっぱ後が楽ですね。でも、突然どうしたの?もしかして、ずっと生でするの嫌だった?」
ゴムなんてもう何年もしてない気がする。子供が出来る訳じゃないし、お互い浮気なんてする訳もなくて性病の心配もいらなかったから、必要なかった。
ハル先輩の中を直接感じたかったし、正直中出しは精神的にも気持ちいいから、俺は断然生派だったが、ハル先輩は本当は嫌だったのだろうか。嫌なら、無理強いするつもりは毛頭ない。ゴムをつけるのも、外で出すのもお安い御用だ。ハル先輩の嫌がることだけは絶対にしたくないから。
「違うよ。嫌じゃない」
「本当?俺に気を遣わなくていいですからね?俺はハル先輩を抱ければどっちでもいいんですから」
「本当に嫌じゃない。紫音がする事で、嫌なことなんて何もない」
「ハル先輩…。あの、さっきから嬉しいけど、どうしました?俺って今日誕生日だっけ?」
本当にそう錯覚するくらいのサービス大放出。というか、誕生日ですら、ここまで素直で積極的なハル先輩に会ったことはない。
「紫音は俺が好き?これからも抱きたい?」
「さっきも言ったけど、当たり前じゃないですか。好きだし、抱きたいですよ。何度だって」
「じゃあ、これからも俺の事抱いて」
「ハ、ハル先輩、そんな、当然です。寧ろお願いしますというか…」
「でも、だからって責任感じて俺の事恋人とか彼氏とか、そんな風に思わなくてもいいから」
「………は?」
またハル先輩が意味不明な事を言った。理解できるけど、理解できない。何でそーなる?
別れたいって話はまだ継続中だったのか?お互い好きだって確認しあって、エッチまでして、それで解決したんじゃなかったのか?
「紫音は、俺みたいな人間とじゃなくて、もっとまともな人と付き合った方がいい。普通に女の子と付き合って、結婚して、子供も作るといい」
「いや、全然意味不明です。何ですか、それ。俺はハル先輩以外いらない。女も、子供も、必要ないですよ!」
「今はそうでも、いつかきっとそういう気持ちになる。無理に女の子を探せとは言わないけど、そういう時は俺に気兼ねしなくていいから。でも、俺は紫音が求めてくれる限り傍にいる。これまで通り、俺の事抱いて欲しい」
「俺がハル先輩にそんな扱いする訳ないじゃないですか!」
そんなの、言い方は悪いが、時期が来たらポイ捨てしてもいいよと言ってる様な物だ。まるで愛人とかセフレみたいじゃないか。
「でも、そうして欲しい。俺には紫音が眩しすぎるから、そう思ってくれないと一緒にいられない」
「何、言ってるんですか…?」
「頼む」
「そんなの出来ない!こんなに好きなのに、どうしてそんなこと言うんですか!?」
「頼むよ…」
ハル先輩は、俯いてそう言うばかりで、俺の問いには答えてくれなかった。
何かあったのだ。そんな事を思いたくなるような何かが。
それを夜までずっとハル先輩に問い詰めたけど、ハル先輩は頑として答えなかった。俯いて首を振るばかりだ。
『俺の事は好きだけど別れたい』という主張を崩さないまま、俺の知りたい事は、何一つ教えてくれなかった。
昼にここに来たのに、時刻はもう21時を回っていた。話し合いにすらならない一方的な尋問に、それをする側の俺も流石に疲れ果ててしまった。理解ができなさすぎて、苛立ちすら覚える。
「もう俺、ハル先輩が何考えてるか全然分からない。ハル先輩の言う通りにするって言えば、それでいいの?」
どうでもよくなった訳ではないが、あまりに堂々巡り過ぎて、そう言うしかなかった。
「ありがとう」
ハル先輩がほっとした様に言った。何に安心してるのか、何がありがとうなのかよく分からないが、また尋問する気にはなれなかった。
ともかく、俺が必要とする限りハル先輩は傍にいると言っているのだから、今までと変わらないんじゃないかと、そう単純に考える事にした。
俺がハル先輩を必要じゃなくなる日なんて絶対に来ないのだから、もうそれでいいんじゃないかと。
ハル先輩に何が起こり、何を考えてそういう事にしたいのかは分からないが、今日はもう何を言ってもハル先輩は考えを改めるつもりはないみたいだから、仕方ないのだ。
ハル先輩も少し頭を冷やせば、俺達がそんな薄っぺらい関係でいられる訳がないと分かってくれる筈。俺が、分からせる。そう思っていた。
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