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break up SIDE 紫音 6
朝のニュース番組を何の気なしに見ていて、こんなに驚いた事はない。
自分がニュースになっている。しかも、スポーツニュースじゃなくて、ゴシップ的なニュースに。
いつもゴシップ関連を専門としてるプレゼンターが指し示すモニターに写し出された写真には、心当たりがある。あるけど、それはそういう意味では全くない。そういうというのは、テレビの右上に出ているテロップだ。
『人気バスケ選手と人気急上昇中モデルの熱愛発覚』
あり得ない。熱愛とか、あり得ない。あのモデルの女は、自分の容姿をよく知っていて、我が儘で、男はみんな自分に惚れると思ってる様な自惚れた女だった。しかも、最近テレビにも出始めて、その辛辣な物言いが新鮮で受けたらしく、事務所の次期稼ぎ頭と期待されてチヤホヤされているらしく、天狗になっていた。
全然、全く俺の好みではない。いや、好み以前に俺にはハル先輩という大切な恋人がいるのだから、熱愛なんてあり得ない。
すぐにハル先輩に電話をしなければと携帯を取ったら、丁度着信があった。ハル先輩じゃない。俺の所属チームのオーナーだ。
『ニュース見たか!?』
「どういう事ですかあれ!」
『すまん』
「恋人作るなとか、恋人と会うなとか言ったのは誰ですか!?」
『いやー、嵌められた』
「なんすかそれ!俺が恋人に振られでもしたらどーするつもりですか!?」
『悪かったって。でもやっぱお前恋人いるんか』
「いますよ!すげー大事なんですから!」
『にしても、これがこの世界か。洗礼を受けたな』
はっはっはと笑うオーナー。俺にとっては冗談じゃない。大体時期が悪すぎる。こんな事がなくても、今はハル先輩とごちゃごちゃしてるっていうのに。
オーナーが言うには何でも俺はあのモデルの女の話題作りのために利用されたらしい。
あの女とは、年末にオーナーに命令されて仕方なくホテルのロビーで会った。俺のファンだとか言っていたが、それも今となっては本当なのかどうか分からない。
物凄く自信家の女で、光栄だろと言わんばかりに迫ってきた。所謂肉食系という奴で、俺は引いた。かなり引いた。
でも、この女の事務所はかなり大きい所らしく、うちのチームの運営会社は足元にも及ばない。スポーツ業界と芸能界は、全然違うようでいて近しい間柄だ。しかも、うちのオーナーは断じて違うと思うが、芸能事務所という所の多くは堅気でない世界とズブズブらしい。だから、大手に睨まれたら宣伝活動とかスポンサーとかにも影響があって、やっていけなくなるらしい。ともかく、詳しい事はよくわからないが、『丁重に』接する様言われていた。
だから、 俺は本当は『全然興味ない。タイプじゃない。帰る』と言いたい所を、随分抑えて『俺には勿体無いですから』とおべっかを使って断った。
だが、その女は俺の言葉の裏を全く読んでくれなかったらしく、尚もしつこく迫ってきた。
非常に面倒になり、恋人がいる事を打ち明けると、1度ハグして欲しいと言われた。
こう思い起こしてみれば脈絡がない気がするが、面倒だった俺は、それでこの女から解放されるならいいやと思い、一瞬、本当にほんの一瞬だけ女の背中に手を回した。
それが、テレビに写し出された白黒写真だ。
その写真は、週刊誌にまで載っていて、あることないこと…と言うより、ないことばかりの記事が書かれているらしかった。
オーナーとの電話を切って、かかってくる友人知人からの電話も無視して、すぐハル先輩に電話を掛けたけど、何度掛けても出てくれなかった。
今日は部活がある筈。ハル先輩の実家から学校までは結構距離があるから、もう家を出て、電車に揺られているのかもしれない。このネタだって見ていないかもしれないけど、きっとすぐ耳にする。
ハル先輩は年末から変なのだ。
俺に別れようと言ったり、まるで身体だけの関係にしたいみたいな事言ったり。それでもハル先輩は俺を好きだと、愛していると言う。
そして、身体だけというのを実践するかの様にセックスに積極的で、デートには消極的だ。旅行に行くのもかなり楽しみにしていたのに、『行けない』の一点張りで、また理由さえ満足に教えてくれなかった。
元々ハル先輩には、俺の知っているけれど理解しきれない心の闇が沢山あって、時に遠い目をしていたり、自分を卑下する様な所があったが、俺との付き合いに関してここまで自虐的な面を見せるのは初めてだった。
俺の愛を疑っているのか?と思って悲しくなったり怒りたくなったりしたが、いつもの様に冷静になれと言い聞かせて、ともかく優しく接した。
俺がハル先輩を心から愛している事と、ハル先輩以外を好きになるなんてあり得ないという事を分かって貰えるのを期待して。
そんな努力の最中の、最悪なタイミングでの最悪な内容のスキャンダルだ。
練習が始まるまで何度も電話を掛けたが、ハル先輩は出なかった。メールであんなの嘘だとか弁解しようとも思ったが、文字だけでは伝えられない事もある。変に誤解を招くよりは会って話したいと思った。
練習中は同期に例のゴシップの事で弄られからかわれた。あんなのデタラメだと言っても、全く信じてはくれなかった。俺のハル先輩愛を目の当たりにした勝瀬さんと、それを聞いたらしい豊田さんだけは、「ないわな」と信じてくれたが。
ようやく全然集中できなかった練習が終わり、ダッシュで着替えてタクシーに乗った。
車に乗り込む前に待ち受けていたらしいリポーターとカメラに囲まれ、オーナーに指示された通りに「友人です」と答えた。あんな女、友人ですらないが。
でも、こういう所が、うちのチームが若くて弱小である事を如実に表している。たぶんあっちの女はこういうプライベートな時間に直撃みたいな風には表に出ない。事務所の人間がきっちり守っているんだろう。あっちが仕掛けた事なのに、俺だけがこんな目に遭うとか最悪だ。
心底腹が立つ。
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