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I like…? 4
「そろそろ観念しろよ」
際限なくガンガン突かれて、一瞬頭の中が真っ白になって、そして身体も頭もバカになった。
「ああッ…きもちいっ、きもちいっ、こういちさんッ…あいしてるっ…もうゆるしてぇ…ッ」
「あ…?こういちさんって、ふざけんなよハル!また別の男呼びやがって」
赦して欲しいと言っているのに、さっきよりも強く抉られた。
「まじでムカつくからこっちも虐めてやろー」
しかも、尿道の入り口まで指で弄られて、身体がブルブル震える。
怖い。痛い。このままだとまた指を突っ込まれてしまう。怖い。どうしたら赦して貰えるだろう。
「ゆるしてッ、おねがい…!それだけはもうやめてぇ…なんでもするからぁッ…!」
「ちょっとオイ。ハル?」
「ッ…なんでもしますっ…!あいしてます!きもちいいからぁっ!…ゆるしてぇ…ッ!こわいよ、ぉ…」
「ちょ、ハル?オイ!…おい!おーい!」
―――頬が痛い。
ペチペチ叩かれてる。
それを知覚した時、ようやく周囲の様子が目に入ってきた。俺の目の前にある顔は、孝市さんの顔じゃない。左ハンドルの高級外車に一瞬ゾッとしたけど、孝市さんの車じゃない。
頬と頭上で縛られてる手首以外に違和感もない。下半身にじんじん痺れる感覚はまだあるけれど、今はどこも新しい刺激は与えられていない。後ろも、前も。
記憶は一瞬で繋がった。俺は錯乱していたのだ。
「ハル、大丈夫…?」
目線を上に乗っかっている男に合わせると、男はあからさまに安堵の表情を見せた。
「お前、なんか変だったぞ…?」
「…どいてくれ」
「え、もうお終い?」
こいつはこの期に及んでまだヤるつもりなのだろうか。明らかに普通じゃないって分かっただろうに、そんな俺をヤッて楽しいのか?
「ごめんごめん、冗談。そんな怖い顔すんなって」
男が運転席に移るのを眺めてから、起き上がって手首を捩ってネクタイを外すと、裸の腹に飛んだ自分の精液を拭って衣服を整えた。
「ハルさあ、昔なんかあった?」
「何も」
「だって明らかに変だったし…」
「そうだよ。俺は変なんだから、もう構うなよ」
「…って言われても、心配じゃん?」
「いらない。ここ開けろ」
「いやいや、こんな所で降りたら凍え死ぬぜ?」
「タクシー呼ぶ」
「家まで送るから、ハルは大人しく座ってなって」
男は有無を言わさず車を出した。
車は山を下り始め、来た道を戻っている事は土地勘のない俺にも分かった。
これで家に帰れる。もうヤられる事もないだろう。
何をされるのかと思っていた行きに比べると、幾ばくか気分はマシだった。
「この車、一葉さんのなんだよ」
男がカーナビを弄りながら言った。さっきから「オーディオどれよ」とかブツブツ呟いていたから、音楽でもかけたい様だ。
「俺の車軽だから、カッコ悪いじゃん?でも左ハンドル運転しずれーなぁ。このナビもやたらハイテクでわかりづれえし…」
男はまだブツブツ言っているが、俺相手に格好なんかつけてどうするつもりだろう。それにしても他人の車であんな事仕掛けるなんて、デリカシーが欠片もない人間だ。最後までやっていたら確実にシートを汚してしまっただろう。
「ハル、ごめんなー。俺、普段女の子には結構優しいんだけど、何でかハルの事すげえ虐めたくなっちまうの。でも、多分これが俺の本性?だって俺今ハルの事しか考えらんねえもん」
「俺の身体の事しか…だろ」
「ちげーよ。確かに身体も好きだけど、ハル落としたいってのも本音だし。だから謝ってんの。ハルに嫌われたくないから」
「もう手遅れだ」
「そう言うなよ。好かれてないのは分かってるよ。あんまり取りつく島もねえから、ちょいムカついたんだけど、それにしても俺やりすぎだった…よな?」
「……」
「ごめんて。今度こそ優しくするからさあ」
「今度なんかない」
「あるよ。俺が会いに行くから」
「来るな」
「行くよ。まずはさ、身体からでいいから」
「…は?」
「だってハル、セックスは嫌がらないだろ?だから、取り敢えずはセフレでいいよ」
「嫌だ」
「とか何とか言いながらハルはチ○ポ大好きだから断れない癖に」
「……」
「あ、ゴメン。こーいうの引き金になる?」
「引き金…?」
「さっきのあれ。変態にレイプでもされた?」
「……」
「それとも、そーいう変態プレイのお相手だったり…?」
「……」
「なあ答えろよ」
「……」
「答えないなら、俺の都合のいい様に解釈するからな」
「…勝手にしろ」
「ふーん。相変わらず可愛げねえの。じゃあ、ハルは喜んでるんだって解釈して、これからも俺の趣味全開で責めるから、そのつもりで」
「これからも次もない。お前とはもう会わない」
「あー、成程ね。彼氏に操立ててるフリしたい訳。じゃあ次もちゃんと脅してあげるから。ね、ハルは何にも悪くない。脅されて付いて行って、縛られて、仕方なく気持ちよくなっちゃうだけだから。そういう設定にしといてやるよ」
「人の事バカにして…!」
「バカにしてるのはどっちだよ?お前、キスだって身体だって簡単に開く癖に、その態度何なの?俺とエロいことして彼氏裏切ったのは、お前だって共犯だろ?俺だけ悪者にするのやめろ」
じゃああのチャイルドロックは?手首縛られたのは?
……そこまで考えて思い出した。俺は縛られて安心したんだった。抵抗しない理由を与えてもらった様な気になれたから…。
そもそも何で俺抵抗しないんだっけ。
俺もセックスしたいからだっけ。
でも、それでも紫音が好きだから、縛って貰って安心したのかな。
これで俺は悪くない。仕方ないって思えるから……。
「お前の言う通りなのかな…」
「ん?」
「俺も……好きなのかな…」
「…そうだよ。そうこなくっちゃ」
「そうだったのか…」
「なあ、俺の部屋来る?」
「なんで…?」
「何でって、そんなん決まってるだろ。俺中途半端だったからムラムラしてんだよね」
中途半端…。ムラムラ…。
そうか、セックスか。
「…いいよ」
「やりぃ!」
そうか。そうだったんだ。
俺はあれが好きだったんだ。
だから、あんな目に遭ったし、今もこうしてそういう対象にばかりなる。
俺の責任だ。
紫音の事好きなのに、紫音だけがいいのに、それでも好きだから。あれが。
もう俺が何しても紫音が怒ることも、悲しむこともないから、いいんだ、もう。
それが「俺」だから。
男は部屋に入るなりキスを仕掛けてきた。
狭いワンルームのベッドに着く頃には俺はもう裸にされていて、でも男はズボンとパンツを少しずらしただけで他はしっかり着込んでいて、そんな状態ですぐに繋がった。
俺はいよいよ本格的におかしいのだろう。
後ろを貫かれながら、なんとも言えない充足感と安心感を得ているからだ。
こうされるのが、俺のあるべき正しい姿なんだ。だから、逆らっちゃいけない。これが俺なんだから。
汚い。恥知らず。淫乱。
自分に浴びせたい罵声は沢山ある。
けど、多分もうこれは自分では止められない。
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