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but after all… 1

あれから1週間。 ハル先輩から連絡はない。 もう俺はハル先輩にとってどうでもいい存在なのか。 あの日の事は何度も何度も頭の中で反芻した。 あの時のハル先輩の表情。声色。 思い起こす度に、全てが俺にどうでもいいと言っている。 俺には、どうしたらいいのか分からない。 ハル先輩を失いたくないけど、またハル先輩に会って、ハル先輩の冷めた顔を見るのが怖かった。 ハル先輩は、俺の事をもう恋人と思ってくれてない。 あの時俺はどうしたらよかったのだろう。 どうしたら、ハル先輩を繋ぎ止める事ができたのだろう。 考えても考えても答えは出なくて、来る日も来る日もハル先輩から連絡はなくて、悲しくて辛くて、その現実から目を逸らしたくなってきた。 そんな時、ちょうどいい具合にオールスターゲームの準備も始まり、忙しくなってきた。 ずっと目を逸らしたままでいられないのは分かっていたが、そうしていないととてもバスケなんて出来そうになかったのだ。 それからあっという間にまた1週間が経って、俺はまたオーナーからある依頼を受けた。うちの大手スポンサー企業の社長が催すパーティーに一緒に出席してくれと。 前回のモデルとの件もあったから、正直行きたくはなかったが、雇い主からの命令はつまり仕事の一環ということで、それに背ける筈もなく、渋々出席することになった。 パーティーなんて縁がないから、何を着ていって、どんな振る舞いをしたらいいのか分からなかったが、「フォーマルでなくていいけどジーンズはやめろ」と言うオーナーの言葉に従って、ベージュのパンツに白いシャツ、濃紺のジャケットを羽織った。 会場はホテルのバンケットだった。 招待客ももう結構いて、スポーツメーカーの会社らしく、男の姿が多かった。 服装はマチマチだ。スーツにネクタイを締めている者もいれば、俺みたいなちょっとしっかり目の普段着みたいなのもいる。 取り敢えずは浮かなそうでほっとした。招待客達は俺と同じスポーツ畑の者が多いのか、いつも頭一つか二つ分くらい他よりもでかくて目立つ自分がいつもよりは目立たない。 立食パーティで、何も手にしてないとトレイに乗ったカクテルやらシャンパンやらをギャルソンにやたら勧められるから、適当にカクテルを取った。が、もっと選べばよかったと思った。一口飲んだらゲロ甘で、とても全部飲めそうにない。 「紫音。こっちこっち」 オーナーを捜し始めた時、向こうから声がかかった。 オーナーのいるテーブルに向かうと、オーナーの隣には50代くらいの中年の男が立っていた。 「テレビでよく拝見してるよ」 「紫音、こちらアウルム社長の新井田さん」 「あ…お招き頂きありがとうございます」 この人が…。サーフィンとかのマリンスポーツが好きそうな日に焼けたその姿からは、言われなければ社長とは思えない。 「実物もテレビに違わぬ男前だな。うん、例の話、やっぱり進めようか」 「ありがとうございます!」 「紫音君、後でゆっくり話そう」 そう言って俺の肩を叩き、そのまま新井田社長は別のテーブルへと向かった。挨拶回りとか、色々あるのだろう。それにしても…。 「例の話って何ですか?」 「それが凄いんだ。社長、お前の事大層気に入ってるみたいで、アウルムの広告塔にお前を使いたいって…!」 「え…!」 「な!凄いだろ!アウルムのCMにも出て欲しいそうだよ。うちのチームは元より、バスケ界がますます注目を浴びるぞ!」 年若いオーナーはいつになく興奮していた。俺も、凄いことだなあと思ってはいたが、どこか他人事のように実感がなかった。こんな時、ハル先輩なら何て言うかな。「凄いな、頑張れよ」と背中を押してくれるのだろうか。それとも…。 知り合いを見つけたらしいオーナーは一旦テーブルを離れたのに、またすぐに引き返してきた。 「どうしたんですか?」 「新井田社長、後で紫音と話すって言ってたろ?ヘマするなよ…?」 わざわざそんな事言いに…。でも、それだけ大きな事なのだろう。アウルムの広告塔になるということは。 「分かってますよ」 「頼んだぞ」 オーナーは今度こそ離れていった。オーナーの後ろ姿を見送って、カクテルをまた一口含む。甘い。甘すぎる。俺の味覚にも、気分にも、全然この味は合っていない。 アウルムと言えば、日本発祥の老舗スポーツメーカーで、日本製のブランドの中では確実にトップだ。そんなメーカーの広告塔になる。きっとチームには莫大なバックが入るだろうし、俺にも手当てが出るのだろう。これまでアウルムのCMには、野球やサッカーのスター選手が出演していて、店にはポスターも沢山貼られている。 間違いなく、俺は今以上の知名度を手にし、バスケだって、オーナーの言う通り日の目を浴びるかもしれない。 でも、どうしてだろう。全く感動がない。これだけ考えても、他人事のような気持ちから抜け出せない。 でも、俺は多分引き受けるのだろう。 オーナーは基本的にバスケバカのいい人間だし、チームメイトもいいやつらばかり。 俺が無気力だからって、今更投げ出す訳には行かないのだから。

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