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be violated 2
ピンポーン…。ピンポンピンポン……。
けたたましい玄関のチャイム音。
新聞の勧誘か何かだと思い、無視しようと思っていたのに、余りにしつこくチャイムを鳴らされて、半ば苛立ちながらドアを開けた。
「よおハル。1週間ちょっとぶり」
「な…」
「何で俺がいるかって?甘いよなぁ、ハルって」
柚季は喋りながら呆然とする俺からドアを奪ってズカズカ中に入ってきた。
「ちょ…勝手に…!」
「俺にはハルの同僚の一葉さんってスポンサーが付いてるんだから、ハルの引っ越し先の住所なんか筒抜けなの」
「最低だな!」
確かに職場には引っ越し先を伝えた。が、それだって事務方にしか知られていない筈なのに。でも、あの人のずる賢さと外面の良さがあれば、職員の住所を調べる事くらい容易いのかもしれない。
「何とでもどーぞ。俺としては、前日仲良くエッチしてた相手に次の日から突然無視されて、その方が『最低』なんだけど。何であーいうことするかな?」
「もう会いたくなかったから」
「お前自分勝手過ぎんだろ。こんだけ俺の事夢中にさせといて」
「する為の相手なら、俺じゃなくたって他にもいるだろ、お前なら」
「そーいう事言っちゃう?お前こそ、新しい男見つけたのか?」
「そんな訳ないだろ」
「へー。じゃあ何?」
「もうやめたい」
「やめれるもんか。ち○ぽないと生きていけない癖に」
「そういう言い方はやめろ」
「だって事実じゃん。ハル、エッチしてる時が一番幸せそうな顔してるぜ?」
「そんな事ない」
「じゃあ試してみる?」
「だから、もうそういうのやめたいって言ってるだろ」
「俺の事散々利用しといて、いらなくなったらポイかよ」
「利用なんかしてない」
「じゃあ何?俺って年上のオニイサンに遊ばれた訳?」
「遊ばれた…って、ただ何回か会っただけだろ!」
「何回か…ねえ」
柚季は眉を顰めて不満そうな顔をした。
正確に言えば3回だ。
1回目は不可抗力。
2回目は学校帰りに車に乗せられて。
そしてそれから頻繁に声をかけられる様になったが、強迫観念の様に自分を汚さなければと思っていた一方で、抱かれた後に感じたあの絶望感を味わうのが怖くて、殆ど全ての誘いを断った。
3回目は、紫音が来た前日。『マンション前に来てる』と言われて、断りきれなかった。いや、いくら押し掛けて来られようと、断固とした意思があれば断る事は出来た筈だから、俺にも『汚してほしい』『自分を貶めたい』という思いがあったのだろう。
「会った回数は少なくても、ヤった回数は両手じゃおさまんねえんだけど?」
「そんなの…」
「お前知ってる?普段憎まれ口しか叩かねえ癖してエッチの時どれだけ可愛く俺に縋ってるか。狙ってやってるならお前相当の性悪だな」
「狙ってなんか…」
「紫音とヨリ戻ったんだろ」
「そうじゃない」
「嘘つけ。お前、1週間前に会った時と顔つきが全然ちげーんだよ。俺はお前にとってアヤマチか?なかった事にするつもりか?」
「そんな事…」
できる筈ない。そう言おうとしていたが、「させねえからな」という柚季の声に遮られた。
同時に凄い勢いで飛びかかられて、床に押し倒される。
背中から床に倒された衝撃で身体が痺れた。けど、俺の苦悶の表情なんてお構いなしに、噛みつく様にキスをされ、服をたくしあげられる。鎖骨には本当に噛みつかれて、鋭い痛みに悲鳴が上がった。
「勝手にセフレ解消とか許さねえから」
「ちょ…や…っ!」
もうこんな事はやめると決めたのに、Tシャツは首もとまで捲り上げられスウェットパンツにも手をかけられている。
嫌だ。嫌だ。せめて紫音が俺を嫌いになるまで、本当の俺を知って軽蔑するまでは、もうこんな事はしたくない。
ズボンを脱がされまいと身を捩り、柚季の腕を掴んで初めて抵抗した。俺の事綺麗だって信じて疑わない紫音の想いを汚したくないから。
「おい暴れんな!」
「離せっ!」
「クソっ」
俺はなんとか柚季の下から這い出ようと暴れた。柚季は俺の手や足を抑えながら、服を剥ぎ取ろうとしてくる。乗っかられている俺は圧倒的に不利だったが、それでも暴れる俺を抑えながら事を進める事は出来ない様で、この攻防は最早体力勝負だった。
「っんだよ!お前、そんなに俺とヤるの嫌んなったんかよ!?」
「嫌だって言ってるだろ!もうやめろ!」
「ふざけんなてめえ!ついこないだまでお前だってヤりたがってただろ!」
「今はヤりたくないし、前だってヤりたかった訳じゃない!」
「じゃあ何で最初から今みたいに嫌がらなかったんだよ!?好きだからだろ?ヤりてえからだろ!」
「違う!」
「違わねえよ!お前はドMのセックス狂だ。何回やったって、物欲しそうな顔する癖に、紫音が戻ってきたからって清純ぶってんじゃねえぞ!」
「分かってるよ!そういう自分にならなきゃいけない事くらい分かってる!でも今は清純ぶりたいんだよ!」
俺は、自分には誰かの性欲の捌け口くらいしか役目はないと知ってる。薄汚れた淫乱な俺は、15の時からずっとそうだって知ってる。
でも、それを認めたくない自分がいて、それが俺を苦しめるから、セックスが好きなんだと思い込んで柚季と寝た。自分を痛めつけて、貶める為に。
そうして、死にたくなる程絶望したり、堕ちて行く自分を眺めて満足したり。それを繰り返せば、確実に俺は柚季の言う通りの人間になれたのだろう。
それなのに、紫音に綺麗だと、愛してると言われる度に、そんな自分の役目から逃れたくて堪らなくなる。
こんなに自ら汚れても尚、紫音に愛されたいと願ってしまう。
当然、紫音の言うように元通りの関係になんてなれる筈はないが、それでも愛されていたい。
紫音が好きで好きで苦しい。
いつかは絶対に俺が汚い事も、どうしようもない淫乱で誰に抱かれても喜んでしまう事もバレるだろうけど、その日まででいいから、愛していて貰いたい。
その日が来たら、また柚季とだって、誰とだって寝るから。何も感じなくなるまで汚くなって、本来の俺に戻るから。
だから今は綺麗なフリをさせて欲しい。
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