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The truth SIDE 紫音 4
同棲してた時に殆ど俺が買い揃えたフライパンとか鍋とかの台所用品や食器を仕舞って、家電や洗剤類を本来あるべき所に仕舞うだけで大分部屋の中の段ボールは少なくなった。相変わらずハル先輩は私物が少ない。
セックスした後もあまり元気のなかったハル先輩の気分を変えようとハル先輩に断って荷解きを始めた俺は、ついつい夢中になってしまい、全ての段ボールを空にするまでやめられなくなってしまった。
ハル先輩も俺一人にやらせる訳にはいかないと思ったのか、仕事用の本を本棚に仕舞ったり、服を寝室のクローゼットに掛けたりしていた。
でも、夢中になって片付けをしてよかったんだと思う。身体を動かしながらだと、「これどこに仕舞う?」とかで自然に会話にができたし、ハル先輩の気分も少しリフレッシュした様で表情がよくなった。
昔買った懐かしいペアマグを発見して、途中でインスタントコーヒーを入れて二人で飲んだ。
ハル先輩はチープな味のするコーヒーの入ったマグをじっと眺めていたから、俺との幸せだった時間を思い出してくれていればいいなと、然り気無く思い出話をした。ハル先輩も久しぶりに控えめな笑顔を見せてくれて、俺はそんなハル先輩と接していて、やっぱりこの人が好きだなと心から思ったし、言われなくてもハル先輩も俺を好きなんだなって事が伝わってきた。
段ボールが全て畳まれて本当にすっきりした部屋は凄く広く見えて、これなら暫くと言わずずっと一緒に住めると思う。恐らくチームとハル先輩が許してはくれないだろうけど。
荷解きが終わったのはもう0時近かった。
ハル先輩は「本当に泊まるの?」と何度も聞いてきたけど、もうだめだとか帰れとは言わなかった。
シャワーを借りた後、二人でセミダブルのベッドに横たわった。
いつもの俺ならすぐにハル先輩の身体に手を伸ばしていた所だが、今日はそうしなかった。いつかの様に腕枕だけして、ハル先輩の身体を優しく撫でた。
「紫音…」
ハル先輩が何か言いたげに見上げてきた。「しなくていいの」とその視線は言っている様に見えた。
確かにこの状況で抱かなかった事は…別々に暮らすようになってからはない。
「今日はいいんです。俺こうしてるだけでも十分幸せ」
「………」
「おやすみ」
無言のハル先輩の額にキスをして、ハル先輩の首の後ろに回した腕で髪の毛を撫でた。
暫く撫で続けていると、ハル先輩の呼吸が規則正しくなった。こんなに早く眠りにつくなんて、相当疲れていたんだろう。それに、俺に心を許してくれてるんだなあと思うと嬉しい。
自分自身だって、今日はオールスターゲームが終わった後にこんな事になったので、精神的にも肉体的にもかなり疲れている。けど、やっぱりハル先輩の傍にいて、その身体にも触れていたら勝手に神経が昂ってくる。ドキドキしながらハル先輩の顔を覗き込むと、凄く安らかな顔をしていて、その顔を見ていたら、優しくしてあげたいという気持ちと同時に、それとは対照的に自分だけの物にしたい、俺だけを見て欲しいという強い独占欲が沸き起こってきた。
ハル先輩が望んで浮気するなんて、絶対にあり得ない。けれど、確実にハル先輩はあいつに抱かれてしまった。ハル先輩が望んでいようといまいと、俺以外に抱かれたという事実は変わらないのだ。
単純に残念だと思う気持ちや、悔しい気持ち、がっかりする思いはどうしても無くすことはできない。
でも、それを前面に出してハル先輩を責めたら、ハル先輩は俺から離れて行ってしまう様な気がするのだ。だから、俺は胸の内で燻るこの嫉妬心や怒りを表に出す訳にはいかない。
ハル先輩の身体を抱き締めると、自然と仰向けだった身体がこちらを向いた。
柔らかく閉じられた瞼を形どる長い銀の睫毛。細い鼻梁に小さく形のいい鼻。口角が上を向いた唇。小造りな輪郭に、シャープな顎。
整っている。本当に美しい。色白で肌もきめ細かくすべすべだし、俺にとっては完璧な程美しい。
俺と同じ様に、この美貌に魅了される人間は沢山いるのだろう。
そう思うと、大好きなハル先輩の美しさが、少し疎ましく感じる。これはただ他に奪われたくないという独占欲から来ている俺の我が儘だ。
俺は、ハル先輩を誰の目にも入れたくないのだ。俺以外の誰かを誘惑する要素なんて、なくなってしまえばいいとまで思う事がある。
ハル先輩に優しくしたいとか慈しみたいと思う一方で、そんな乱暴で暴力的な自分も確実にいるのだ。俺にこんな面があると知ったら、ハル先輩は俺を軽蔑するだろうか。
でも、これが自分だ。ちょっと異常なくらいハル先輩に狂ってる。ハル先輩を凌辱しつくしたあの男にも負けないくらいに。
もしかしたら、ハル先輩には人をそういう風にさせる何かがあるのかもしれない。手に入れても尚、追い求め、奪い尽くしたくなってしまう様な何かが。
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