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The truth SIDE 春 1
調度部活が終わって職員室に戻った時、メールが届いた。紫音からだ。
『急用で迎えに行けなくなりました。タクシーで真っ直ぐ家に帰って、鍵閉めて、俺が帰ってくるの待ってて』
一昨日から家に泊まっている紫音は、今朝は俺を学校まで送り、帰りも迎えに来ると言った。そんなことしなくていいと何度言っても聞き入れてくれず、そのお陰で朝はかなり注目の的になってしまったし、授業の度に生徒からその事について追求された。そしてそれは職員室でも同様だった。中谷先生には何か言いたげな目でずっと睨まれていたので、ともかく二人きりにならない様に気を遣った。
俺が今をときめくプロバスケ選手と一緒に登校してきた事はもう既に知らない生徒はいないというくらい周知され、ちょっとした騒ぎになっているのに、これが毎日続いたりしたら、おかしな噂を立てられる事は目に見えている。
紫音に貼り付いているという記者にだって、すぐに勘づかれるだろう。もしも男とデキているみたいな記事でも書かれたら、紫音にとってかなりのマイナスイメージになってしまう。だから家に泊まるのも俺を送迎するのもやめさせたいのに、どう言えば紫音が納得してくれるのか分からない。
紫音が何故そんな行動を取ろうとしているのかは、分かっている。
昨日柚季と家で鉢合わせして、話をしたと言うのだ。家に帰り着いてからそれを聞かされた俺は一人青褪めていたが、紫音はきっぱりと言った。
『ハル先輩が自分の事守れないなら、俺がハル先輩の事守ります。もうあいつに指一本触れさせません』と。
紫音は、俺と柚季が寝ている事も、俺が脅されている訳ではない事も知った筈なのに、それでも尚俺に愛してると言った。俺は既にこんなにも汚くなって、紫音に愛される資格もないのに。
俺だって紫音を愛しているから突っぱねる事なんて出来なかったけど、優しくされたり、愛してると言われる度に、身の置き場がない様な気持ちにはさせられた。
それでもやっぱり紫音がくれる優しい眼差しや言葉や態度は嬉しくて、そうされる自分自身は俺の理想で、憧れの自己像だった。だから、またそれを甘んじて受ける事の出来る立場に帰り咲きたいと願ってしまうのだ。
紫音を裏切って沢山傷つけて、しかもこれからも傷つけてしまう可能性のある俺なんて、紫音に相応しくないのに、紫音の言葉や優しさに縋り付きたくなってしまう。
ひとつだけ決めたことがある。
もう絶対に、何があっても柚季と寝ないという事だ。幸い合鍵は紫音が取り返してくれたから、もうこれ以上付け入る隙を見せたくない。力で勝てなくても、2人きりにさえならなければ、あいつだって襲っては来ない筈だ。
俺に価値がないのは変わらないけど、紫音の想いには価値がある。それを守るためなら、俺はどれだけ傷つけられようと殴られようと、紫音以外に身体を許さないとそう決めた。
俺は柚季に初めてヤられてからという物、もう前みたいに恐怖に呑まれて身体が動かなくなる事もなくなった。だから、それを逆手に取ればいい。傷つけられる事さえ恐れなければ、どれだけでも暴れられる筈だ。
こんなになってしまった俺を全て知っても尚、俺を守ろうとしてくれている紫音の想いを、これ以上汚したくない。
でも、俺の携帯に届いたメールは、紫音からのものだけではなかった。
『今日学校まで迎えに行くから』
差出人は柚季。そのメールが届いたのは部活が始まる前だった。そして今届いたのが…。
『無視すんな。7時半に迎えに行くから、待ってろ。もしいなかったら、紫音に殴られたこと喋っちゃおうかなー』
紫音は昨日柚季を殴ったと言っていた。この『喋っちゃおう』の先にあるのは、マスコミ関係に対してという事なのかもしれない。
――こんなの、俺が断れる筈がない。
紫音は俺のせいで柚季を殴ってしまったのに、俺がそれを知らんぷりできる訳がない。
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