100 / 236
The truth SIDE 春 2
約束の時間はあっという間にやってきた。絶対に車には乗りたくない。どうにかして、二人にならない所で話せる様にしたい。
校門の前に立っているとすぐにヘッドライトの光が近づいてきた。そして案の定それは覚えのある車だった。
目の前で止まった軽自動車の助手席側のウインドウが開いて、柚季の、顔だけ見れば爽やかな笑顔が覗いた。
「よ、ハル。今日はいいつけ守ってくれたんだ」
「お前があんな事言うからだろ」
「だってほら見ろよこれ。あいつ手加減なく殴りやがって。まだ腫れてんだけど」
柚季が顔をこちら側に向けて左の頬を指した。確かに腫れている。もしも今日撮影があったとしたなら、仕事にならなかった事だろう。
「でもまあ、俺もこないだはハルに酷いことしちまったから、マネージャーにはハルの為にちゃんと嘘ついてやったんだぜ?」
「嘘…?」
「そ。酔っぱらって知らない奴と喧嘩したーって。プロ意識がないとか何とか滅茶苦茶怒られたんだかんな」
「……」
「ありがとうは?」
「は…?」
「紫音に殴られたって言って問題になったら、ハル悲しむだろ?だから俺が怒られてやったんだぜ?ありがとうは?」
「そんなの…自業自得じゃないか!お前が勝手に合鍵持って行ったから…!」
「ま、そうかな?って訳でこれに免じてこないだの事は許してよ」
「お前…軽すぎる…」
「そこが俺のいいとこじゃん?てか、そんなとこ突っ立ってないで乗れよ」
「乗らない」
「えー。乗れって」
「乗らない。用があるならここで聞く」
「用…は、まあ謝りたかっただけだけど」
「じゃあもう済んだんだろ」
「用がなくたっていいじゃんよ別に。俺お前の事好きなんだから」
「……は?」
何言ってるんだこいつ。好き?って…。
「なんだよその反応。俺の行動見てれば分かんだろ?」
「全然分からない。どういう意味だよ」
「はあ?好きって言ったら好きって事だろー?アイラブユーだよ、アイラブユー」
「……お前は、好きな相手を縛って強姦したり罵倒したりするのか?」
「だから悪かったって」
「信じられない」
「本当だって。好きなの。お前が欲しいんだよ」
「じゃあ仮にそうだとしても、俺はお前の事全然好きじゃない」
「あー、もう!わかってるよお前本当ムカつくなー。てか、乗れよ!」
「乗らないって言ってるだろ」
「何で乗らねえんだよ」
「言わなきゃ分からないのか」
「だから謝ってんじゃん!もうあんな事しねえって!」
「だったら俺を乗せる意味ないだろ」
「はあ?何でよ。デートしてえの!」
デート?何を言ってるんだこいつ。そもそも、今更俺の事を好きなんて事言って、一体何がしたいんだ。
バンッとドアが閉まる音がして、柚季が車を降りたことに気付いた。すぐに背の高い柚季が目の前に立ちはだかる。
「いいから乗って!」
腕を掴まれそうになったから、身体を横に逸らして避けると、柚季の顔つきがみるみる獰猛になった。
こいつはきっとまた俺を強姦するだろう。自分の思い通りにいかない事が許せない性質なんだ。
「何なんだよ!そんなに紫音がいいのかよ!」
怒鳴られたって喚かれたって、絶対に車には乗らない。イライラしているらしい柚季を睨み付けて、柚季も俺を睨んだ。俺は折れるつもりはない。何時間睨み続けたって、こいつを拒絶してやる。
「こんの…クソかわいくねえ!!」
「おい何やってる!」
また柚季の手が伸びてきた時、学校の方からザッザッと土を蹴る音と怒鳴り声が聞こえた。
振り返ると走り寄ってきたのは黒野で、黒野は凄く驚いた顔つきをしていた。
「柚季…?」
「颯天…?」
その声が二人から発せられたのは殆ど同時だった。
「お前、何やってんだよ!こんな所でうちの先生に絡んで!」
先に我に返ったのは黒野の様で、柚季にそう詰め寄った。
……二人は知り合いなのか?
ともだちにシェアしよう!