102 / 236

The truth SIDE 春 4

「せっかくのデートだってえのに、颯天のせいで最悪だよ」 明るいファミレスのテーブル席の向かい側でハンバーグを口に運びながら柚季が言った。隣に座る黒野も同じくハンバーグを食べているが、育ち盛りらしく俺や柚季のハンバーグよりも一回り大きい。 「しいちゃん全然気乗りしてなかったみたいだけど?」 「んなことねえよ!なあ!」 なあと言われても、どう考えても俺は車に乗るのを渋っていたじゃないか。脅して乗せた癖にその相手に同意を求めるとは、どういう神経をしているのだろう。 「俺が頷くと思ってるのか」 「ちょ、ひでえ」 「相当嫌われてるじゃん柚季。そりゃーそうだよな。それだけの事してるもんな」 「うっせ!だから今日挽回しにきたってのに、颯天が邪魔するから!」 「相変わらず諦めわりーな。最低な事した柚季なんかしいちゃんの眼中にないんだよ」 「お前こそ眼中ねえじゃねえか!」 「柚季よりはマシ。俺はしいちゃんの嫌がることはしてないから、嫌われてねーもん」 「けっ!嫌われて様が嫌われてなかろうが、紫音がいる限り脈なしは一緒だろ!だったらやることやった方が得なんだよ!」 「うわ…お前性根から腐ってんな」 ……居心地が悪い。物凄く。 会話の内容もだが、この状況も。 男二人がこんな公衆の面前で男を間に挟み言い合いをしている。しかも、その間にいるのは自分なのだ。 柚季が俺を好きと言う事には未だに疑問しか感じないが、こういう話は、普通本人のいない所でするものじゃないのか。 気まずすぎて会話に混ざることも出来ず、黙々と目の前のハンバーグを片付ける事に集中するしかない。 「まあ確かに俺は振られたし、告ってからは結構露骨に避けられる様になったけど、それでも嫌われてない分柚季より可能性はあるんだよ」 黒野の言葉に思わず噎せそうになった。 確かにあれから黒野と二人にならない様に気を遣っていたが、それ以外では普通に接していたし、黒野も特に何も言ってこなかったから、何とも思われていないと思っていたが……バレていたのか。 「お前に可能性なんてねえよ!大体ハルが颯天みたいなクソガキ相手にする訳ねえだろ!」 「今はガキでも、何年かしたら大人になるんだよ俺は。それに引き換え柚季はおっさんになるばっかりじゃねえか。10年もすりゃあ、俺はいい男になって、プロんなって、金持ちになってるんだよ。その頃にはしいちゃんだって青木さんに飽きてる頃だから、迎えに行く予定」 ウインクでもしそうな勢いで笑顔の黒野がこっちを見ている。 10年後って…俺幾つだよ。柚季がおっさんになる前に俺がおっさんになる訳だが、そこは忘れているのか? 「お前、バッカじゃねえ?10年も我慢するとか、本物のバカだ」 「バカはお前だ。柚季は努力しないで欲しい物を手に入れようとするから、何やってもダメなんだよ。だからちゃちな物しか手に入らねえんだ。でっかい何かを掴みたいなら、相応の努力と下積みが必要なんだよ。分かる?」 「……ガキの癖に、偉そうに説教すんな!」 「だってお前無理矢理するとか最低だよ?今日だってなんか脅して車乗せてたし。俺さあ、好きな人が困った顔してるのも悲しそうな顔してるのも嫌なんだよ。そうさせてるのがよりによって柚季とか、普通に許せねえんだけど。俺もお前の事殴りてーわ」 「だから…反省して心入れ換えようとしてたんだっつーの!」 「心入れ換えようとしても、脅してちゃ世話ねえよな」 「あんな事言うつもりなかった!颯天が邪魔したせいだろうが!」 「はいはい。人のせいにすりゃあ楽だよな」 「クソっ!だって仕方ねえじゃん!俺は颯天みたいにハルと何の共通点もねえんだから!」 「だからって、好きな相手傷つけてまで自分の欲求押し通すなよ!」 黒野の言葉に柚季は何も言い返さず、ここに来て始めて、俺たちの囲むテーブルを静寂が包んだ。 そして、こっちに沢山の視線が向いている様な気がしてより一層居心地が悪くなった。 怒鳴り声ではなくても、男2人がずっと何か言い争っていたら危ない奴等だと警戒されて当然だし、内容まで聞かれていたら目も当てられない。 これまでずっと喋り通しだった黒野と柚季もようやくこの雰囲気と居心地の悪さに気付いたらしく、何とはなしに3人で席を立った。あんなに喋ってたのに二人ともちゃっかり完食してる所は凄い。

ともだちにシェアしよう!