104 / 236

The truth SIDE 春 6

柚季だけじゃなくて、黒野にもちゃんと話をしなければと思った。 黒野は本当にプラスのエネルギーを沢山持った人間で、俺とは正反対だ。明るく前向きで、自信に満ちていて、自分の力で道を切り開いて行ける人間だ。そう、紫音の様に。 今日だって、俺と柚季の間に黒野が入ってくれたからこうして和解?できたし、そのお陰で少しだけ前を向けたのだ。 「黒野、今日はありがとう」 「いーんだよ。俺はいつでもしいちゃんのヒーローだから」 「黒野には、俺は謝らないといけない」 「何?」 「俺、なんか思わせ振りだったよな。お前の事ちゃんと拒まなかったし…」 「そう?ムードに流されやすいのかなー危なっかしいなーっては思ったけど、結構ちゃんと拒まれてた気もするけど?」 「黒野は、紫音に似てて…」 「そうかな?」 「見た目とかじゃなくて、雰囲気。学生の頃の紫音にそっくりで…流されてしまった」 「なーんだ。俺の魅力じゃなかったの?しいちゃんは俺の事じゃなくて、青木さんを見てた訳だ」 「本当ごめん」 「悔しいなー。じゃあさ、ついでにもっと流されて俺とお付き合いする?」 「ごめん黒野。それはできない」 もう絶対に流されない様にしなければ。俺は、紫音と離れて生活して平気なフリをしていたけど、本当は寂しくて不安で仕方なかったのだ。それはこの先も多分続くし、そんなに簡単に自分を変えられないけど、それでも少しずつでも変えていかなきゃいけない。自分に自信を持てる様。紫音の隣に居られる様。 「うん、しいちゃんちょっと元気出てきたみたい。俺はしいちゃんが元気ならそれでいいや。今はね」 「颯天、お前クセぇ!」 「本気でそう思ってんの!」 「ハル、信じるなよ。こいつ、そんな人間じゃねえから。油断したら、オオカミみたいに襲いかかってくるから!」 「柚季と一緒にすんな!」 「一緒だろ!紳士ぶりやがって!」 ファミレスを出てから、特に打合せもなく柚季は車を出したから、どこに向かっているのだろうとぼんやり考えていたが、大通りを走っていた柚季の車はやがて細い道に入り、見知った道を進んで行った。俺のアパートに向かっている様だ。 「そーいやさ、青木さんも柚季も、なんでしいちゃんの本当の名前呼ばないの?」 「…あ?」 「俺だったら絶対春って呼ぶなー。しいちゃんにダメって言われたから今は呼べないんだけど。名前で呼んでもおかしくない柚季も青木さんも、なんであだ名みたいな呼び方するの?」 「颯天今なんて言った…?しゅん?」 「そうだよ、春…ってあれ?まさか柚季って、しいちゃんの本名も知らないの?ぷぷ…それはもう出会った瞬間から脈なしとしか言いようがない!」 黒野がクスクス笑う中、柚季が「しゅん…?」と何度も呟いて、少ししてから合点がいったらしい柚季が突然怒鳴った。 「お前春って言うのかよ!訂正しろよ~!俺ずっとハルだと思って……。まじへこむ……」 「だってあの時はもう二度と会わないと思ってたから」 「脈なしすぎる…!」 「うるせえ颯天!」 そんなこんなで結構平和な会話をしながら、車は俺のアパートの前に到着した。 「ありがとう、送ってくれて」 「当然だろ」 「黒野の事も、宜しくな」 「本当はその辺に放り投げたいけど、…春がそう言うなら仕方ねぇ」 「頼んだぞ」 「じゃあねしいちゃん、オヤスミ。また明日ね」 ニコニコと笑顔で手を振る黒野と、ちょっと複雑な顔で手を振る柚季は、表情も顔の造りも全然違うのに、初めの印象とは打って変わって何処と無く似ているなと思った。 帰宅した部屋は真っ暗で、紫音はまだ帰ってきていなかった。 俺は今まで逃げてばかりいた。紫音があんなに真摯に俺とやり直そうとしてくれていたのに、話す前から勝手にもう無理だと思い込んで、自分で自分を袋小路に追いやっていた。 紫音と話をしないと。 自分がしてきた事、考えていた事を全てを紫音に話そう。 真実を知ったら、紫音は今度こそ幻滅するかもしれない。それは怖い。怖いけど、知って貰わないと俺は前に進めないし、紫音とだってそうだ。 全てを知られるのはこんなにも怖いのに、話そうと決心した今はどこか清々しい様な気持ちにもなっている。 紫音がどう感じ、どう判断するのか分からないけど、俺はそれを受け止めるしかないのだ。

ともだちにシェアしよう!