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make up 2
「全部話しますよ!疚しいことなんか、何も…」
ない……と言おうと思ったが、あったんだった…。
でもスパイの事も話さないと、整合性が取れないよな…。
「紫音…?」
「あ、いや、はい。全部話します!寧ろ隠しててごめんなさい!」
俺があいつに出会った経緯から、ハル先輩をスパイさせてた事まで包み隠さずに伝えると、ハル先輩は少しだけ呆れ顔になった。
「スパイって…」
「ごめんなさい。…でも、心配なんです!だってハル先輩、むちゃくちゃ綺麗だし、それなのに基本誰にでも優しいし、変なのにモテるし、その上鈍感だし!」
心配な理由はもっと沢山ある。なんか庇護欲をそそる守ってあげたくなる雰囲気とか、たぶん自信のなさから来ている頼りなさとか隙とか、あとは同性すら虜にしてしまう様な色気とか…。でも全部言ってハル先輩を落ち込ませたい訳ではないので、全部は言わない。
「……そうか。でも、そしたら尚更紫音は悪くない。心配かけた俺が悪いんだから。だから、中谷先生の事は気にするなよ」
「気に…なるけど、ハル先輩がそう言うなら気にしません!」
「うん」
ほっとしたみたいに柔らかく微笑むハル先輩。やっぱり可愛いなあ。優しいなあ。ハル先輩は、俺のせいだなんて、本当に1ミリだって思っていないんだろう。
気にしないなんて無理だし、俺はこの失敗を多分一生背負うけど、それでもハル先輩が今みたいに笑ってくれた方がいい。俺が気にし続けたら、優しいハル先輩はきっと、俺以上に気にする。
「でもよかった」
「ん?」
「俺、てっきり紫音は中谷先生がタイプなのかなって思ってたから」
「ええ!?そんな訳ないじゃないですか!俺、男に興味ないですよ!てか、ハル先輩以外に全く興味ありません!」
「ありがとう。紫音は、本当に真っ直ぐで素直で、羨ましいよ」
「ハル先輩だって、そうでしょ?そうだって思っていいんですよね…?」
「うん。でも俺、色んな事に自信がないから…。紫音みたいに…ちゃんと言えないし、フラフラするし。……俺な、柚季と寝たの、一番初めは薬盛られて意識なかったんだけど、2回目からはなんか諦めてて…」
酒じゃなくて薬を使ったのかあの野郎…。でも、ここで怒ってもハル先輩の話の腰を折るだけだから、我慢我慢。
「諦め?」
「うん。俺、……昔、玩具にされてた時期、あったろ?あの時ねじまがった自己認識…っていうのかな。それが、今でもそのまんまで…」
ハル先輩は、表情を変えずに喋った。たぶん、わざと感情を込めない様にしているのだろう。
「それで、柚季にやられて、何かどうでもよくなっちゃったのかな…。いや、違うか。多分そうじゃないけど、ともかく玩具になるのが俺の役目だって思って……実は今でもその気持ちは無くはないんだけど、その時はもうそれしか考えられなくて…」
聞いてるこっちが辛い。ハル先輩が淡々としてるからこそ、尚痛々しい。
これまでずっとそんな風にしか自分の事を見れなかった背景には、いくつの諦めがあったのだろう…。そして、今でもそれは変わらないなんて、そんなの悲しすぎる。
「ともかく紫音と別れなきゃって思った。俺は自分が汚くて、紫音の隣にいていい人間じゃないって気付かされたから、もう知らない振りはしていられなかったんだ。でも俺、弱くて。紫音に嫌われたんだって思ってた時期は辛くて…。自分から離れようって決めた癖に、全然覚悟が足りなかったみたいで。それで俺、もっと汚くなれば覚悟も決まるかなって思って…それで柚季と……」
「ハル先輩、もういいよ。もう分かった。話してくれて、ありがとう」
「紫音、ちゃんと分かってる?俺、別に無理矢理やられてたばっかりじゃないんだよ…?それに、黒野とだって…」
「分かってます。悔しいけど、分かってます。それでも俺は、ハル先輩が好きで…ハル先輩のトラウマとか、過去の事とか、今の歪みとか、そういうのも全部ひっくるめてハル先輩を愛してる」
「紫音…」
「…正直言って感情的にはあいつに抱かれた事は悔しくてムカムカしてどうしようもない。けど、過ぎたことです。いくら妬いたって、取り返せる訳でもなければ、ハル先輩を嫌いになる訳でもない。俺は、多分この先何があってもハル先輩を愛し続けます。だから、もう元通り。俺達恋人同士。ね?」
「紫音は本当にそれでいいのか…?」
「いいっていうか、お願いします。てか、これから何があっても、俺と別れるとかそういう事考えないで、今みたいに話して。いや、二度と今回みたいな事は起こらない様にするけどさ」
「起こらない…様に…?」
「うん。あのさ、ハル先輩、お願いなんだけど…」
「何?」
「学校、辞めてくれませんか?」
「え…」
「勝手な事言ってるのは分かってます。けど、ハル先輩には俺の傍にいて欲しいんです。もう二度とハル先輩が辛い目に遭わない様に、俺がずっと傍で守ってあげたいんです」
ハル先輩は黙りこくって、俯いてしまった。やっぱり強引すぎたかな。でもハル先輩を守るには、これしか方法がないんだ。ハル先輩だって、それは分かってる筈…。
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