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make up 4

思うがままにハル先輩の唇と口の中を貪ってから顔を離すと、瞳を潤ませ頬を赤らめた可愛くて色っぽいハル先輩と目が合う。心なしか吐息も熱い。 「黒野の前でも、そんな顔して見せた?」 「分からない。でも……こんな気持ちになるのは、紫音だけ」 そう言ったハル先輩の顔はさっきにも増して赤くなった。 「こんな気持ち…って?」 言いにくそうにしているハル先輩に、「教えて?」と追撃する。何となく言いたいことはわかるけど、これくらいのご褒美は貰ってもいいよな? 「……もっと…キスしたいって…」 耳まで赤くしているハル先輩に、もう一度熱いキスをしたのは、言うまでもない。 「ン…」と漏れる吐息や声はダイレクトに下半身を直撃してくる。ヤバイ。 「もう俺以外とキスしちゃダメだよ」 ハル先輩は少しトロンとした顔で、何度も頷いた。その表情も仕草もまるで子供みたいでますます征服したくなる。 ちょっとイタズラというか、お仕置きというか…してもいいかな…。 「赦してあげる。その代わり…」 「……?」 「俺の事どれだけ好きか、言葉にして」 これくらいしてもらったってバチは当たらない。俺は普段から呼吸するみたいにハル先輩に好きだの愛してるだの言ってるけど、ハル先輩からは俺の十分の一くらいしか言われてない。寧ろそれ以下かも。 「どれだけ好きか…って、そんなの…」 分かるだろ…と真っ赤になるハル先輩は非常に可愛いけど、それで満足していたらお仕置きにならない。 「ハル先輩の言葉で聞きたい。俺に愛を囁いてよ」 ハル先輩はいつになく強引な俺に戸惑っているみたいだったけど、観念したみたいに口を開いた。 「俺は…紫音が、凄く好きで…大事で、欠けがえなくて…その……俺は、紫音を……愛してます」 恥ずかしがりやのハル先輩としては、かなり頑張ったと思う。真新しい言葉も、クサイフレーズも特にないけど、それでも俺にとっては最高に嬉しい言葉で、最高に心が震えた。 「ありがとう。俺も愛してる。誰にも渡さないから、そのつもりで」 恥ずかしさに俯いていたハル先輩は、それでも確かに頷いて、広げた腕の中に身を寄せてくれた。 この1ヶ月色々あった。 本当に色々あったけど、諦めなくてよかった。ハル先輩はまた俺の腕の中に戻ってきてくれた。 完全に囲う事は流石にできないし、きっとこれからも心配は尽きないけど、少しずつ、ほんの少しずつでもあいつの呪縛から解き放たれて、ハル先輩の陰が消えていってくれたらいい。 でも…何よりも今は、優しく抱いてあげられる様に自制しないといけない。 ハル先輩が戻ってきた喜びとか、後はやっぱり存在してるヤキモチとかで、かなり濃厚に、激しくやってしまいそうで…というかやりたくて、それを抑えるのに必死だ。 ハル先輩は、俺が思ってたよりもずっと俺を好きでいてくれていて、多分というかほぼ確実に俺がどんなやり方をしても受け入れてくれるだろう。でも、それに甘えちゃいけない。 俺は、俺なりにハル先輩を心底大事に思ってる事をいつもしつこい位言葉で伝えてたけど、それでもハル先輩にはちゃんと届いていなかったのだから。 自尊心の低いハル先輩は、そこまで自分が愛されていると信じる事ができないのだと思う。 一度壊された価値観を完全に元に戻す事は、もしかしたら不可能なのかもしれないし、そしたら俺の本当の想いはハル先輩には一生届かないのかもしれない。 それでも、俺が言葉や態度で伝える事をやめたら、ハル先輩は一気に壊れてしまう気がするのだ。今回、秋良と自ら寝てしまった様に…。 俺は、自分で思っていた以上にハル先輩にとって重要な位置付けにあるのだ。 もしかしたらハル先輩は、俺以上に俺なしではまともに生きていけないのかもしれない。 ハル先輩を守れるのは、俺だけ。……前からそう思ってたけど、また改めて思うと嬉しくて、使命感で心が満たされる。 大事にしてあげないと。 今までだって大事にしてきたけど、これまで以上に。そして、この手で幸せにしてあげたい。 辛い記憶も、不安な気持ちも、俺が消してやりたい。 逸る気持ちをなだめすかして、優しく丁寧にハル先輩を愛撫した。 また「ゴムつけて」と言われたけど、その願いだけは突っぱねた。 ハル先輩が汚いなんて、俺にはとても思えないから。 久しぶりに生身でハル先輩の中を感じられて、もうそれだけで気持ちよくて、笑い話じゃなく三擦りくらいでイッてしまいそうだった。なんとか耐えたけれど。 「最高によかったよ」 事後ぐったりしてるハル先輩を腕枕しながらピロートーク。こんな普通の事が、なんて幸せなんだろう。 「……俺も」 「もう、俺以外と寝ないでね」 「うん…」 「ねえハル先輩」 「うん?」 「どうしたらフランス人になれるのかな?」 「え…?どういう意味?」 「イギリス人でも、オランダ人でもいいんだけど」 「…どうしたんだ?」 「分からない?」 「何が?」 「…ま、いっか。俺、調べときます!」 ハル先輩はきょとんとしていて、俺が言いたいことは全く伝わってないみたいだったけど、そういう所がまた可愛いからいいのだ。それに、今はノリで言ってしまったけど、プロポーズはもっとちゃんとシチュエーション考えて、しっかりしないとだから、分からないみたいで逆によかったのかも。 「…そう言えば、黒野はイギリスの国籍持ってるみたいだ」 「なんですって!?」 「ほらあいつの母親イギリス人だから。向こうで産まれたのかもな」 黒野め…。俺がしたくてもできないハル先輩との結婚が、あいつにはいとも簡単に可能って訳か…。ムカつく。 やっぱりあいつには近づけちゃいけない。ハル先輩も俺に似てるとか言うし。 性悪の秋良なんかより、黒野の方がよっぽど要注意人物なんじゃないのか。 あー、学校辞めさせたい。 家で、俺の帰りだけを待っててくれる新妻のハル先輩とか、想像しただけでニヤけてしまう。 「紫音、なんか一人で百面相してるぞ…?」 心情がそのまま顔に出ていたらしい。ハル先輩が少し心配そうにしている。可愛い。 黒野なんかに渡してたまるか。ハル先輩は、俺のお嫁さんだ。 「俺頑張ろ!」 確か、ヨーロッパだけじゃなくて、アメリカでも州によっては同性婚できた筈…。これはNBAに移籍するしか方法はないかな…。 ついてこれていないハル先輩はまたきょとんとしていて、可愛くて辛抱堪らないから、ごろんと寝返りしてハル先輩を組み敷いた。 「ハル先輩、ごめん興奮した。もっかい抱かせて…?」 見下ろすハル先輩の顔は見る見る内に真っ赤に染まって、でも、やっぱりまだ何がなんだかわからない顔をしていた。 自制…利くかな…。最低でも、ハル先輩が意識飛ばしてしまわないくらいには留めなければ。 そんな事を考えながら、ハル先輩の赤い唇目掛けて顔を伏せた。

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