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a trip 6

「紫音、」 「いいでしょ?二人きりなんだから…」 「だめだって…」 「大丈夫大丈夫。カップルはみんなしてるよ」 「そういう問題じゃ…」 部屋の露天風呂よりは広いが、大浴場とは到底言えない家族風呂のお湯に浸かるなり、俺はハル先輩ににじりよって後ろから抱き抱えた。 少し上気したハル先輩の白い項にキスをして、首筋に唇を寄せながらセクハラ上司とOLみたいな会話になっている訳だが、身体を洗う間は我慢した俺を誉めて欲しい。 「ハル先輩が悪いんですよ。あんまり可愛いことばっかり言うから」 「は……ちょ、…!」 前に回していた手でハル先輩の乳首に刺激を与えると、とっても敏感なハル先輩は声も身体も跳ねさせて反応してくれた。 ―――可愛い。 俺は、目の前のハル先輩が可愛くて可愛くて、可愛がりたくて、可愛い声が聴きたくて、可愛い顔が見たくて、………気持ちよくさせたくて。 ……ともかく、纏めるとエッチな事をしたくて堪らなくて、頭の中そればっかりだ。 「紫音っ」 ハル先輩が俺を呼ぶ声が切なく聴こえる。 ハル先輩も恥ずかしがってるだけで、本当は俺と同じ気持ちだ。 俺はハル先輩の胸を刺激しながら、下半身にも手を伸ばした。 「ほらやっぱり硬くなってる」 わざと口に出して指摘したら、ハル先輩は耳まで真っ赤になった。 「今望み通りにしてあげる」 ハル先輩の可愛い反応に煽られて、そんなSチックな台詞を吐くと、そう言った事自体にも興奮を後押しされて、俺は握ったそれを上下に刺激しながら乳首も弄り、首筋に甘噛をした。当然、跡がつかない程度の本当に軽いやつを、はむっと。 「やめ…ッ」 俺はやっぱりちょっとSだなぁ。ハル先輩のが恥ずかしがってる姿好きだし、エッチな意味で苛めたいし。 そんな事を考えながらハル先輩のいつもよりも更に控えめな可愛い声を聞いて、ビクビク敏感に震えるハル先輩な身体を弄り回し、遂に後ろの孔に指を挿入させた時だった。 「待てって!」 はっきりきっぱり、ハル先輩は言った。 そして、びっくりして固まっている俺の腕をすり抜けて、お湯から上がってしまった。 その間、俺の方は一度も見ないで。 ―――え? 俺達イチャイチャしてた筈じゃ…? 言葉もなく呆然とハル先輩の後ろ姿を見ている俺をよそに、ハル先輩は真っ直ぐ風呂場を出ていった。 脱衣室に通じるドアを閉められた時、その閉め方は乱暴ではなかったのに、なぜかぴしゃりと音がした気がした。 これって……これって、拒絶? え、え、俺、ハル先輩に拒絶されたの…? 「ハル先輩~!」 認めたくないけど、もし本当に拒絶されてるなら、放ってはおけない。 ハル先輩を追いかけて脱衣室に出ると、ハル先輩は濡れた髪もそのままに浴衣を羽織っていて、俺に気づくといそいそと帯を締め出した。 「ごめん!」 ハル先輩は怒ってる顔ではなくて一先ずほっとしたけれど、ばつが悪そうに俺から目をそらして帯と格闘していて、蟠りが全然ない訳ではなさそうだ。 「痛かった…?」 「…別に」 「でもローションつけなかったから、」 「声が大きい」 「でも、」 尚も言い募ろうとした俺をハル先輩はひと睨みして黙らせると、茶羽織を引っ付かんで脱衣室の暖簾を潜っていってしまった。 ……まあ確かにここは暖簾ひとつ潜れば外だし、あんまりアレな話をするのは無神経だったか…。 でも、何も先に行かなくてもいいのになぁ。 そうちょっとだけ不満にも思いながらもそれよりもハル先輩が心配な気持ちの強かった俺は、急いで身体を拭いて浴衣に着替えると、エレベーターに飛び乗って部屋へと向かう。 部屋にはちゃんとハル先輩がいたから、ふぅと一息ついた。 ふらりと一人でどこかに行かれていたらどうしようと思っていたから。 ハル先輩は、俺が部屋に戻ってきたのが分かっている癖に、わざと窓際の椅子に腰掛けたままこっちを見なかった。 一度別れてから(俺としては別れてないけど)、ハル先輩は以前に比べて少しだけ素直になった様な気がしていたけど、やっぱり本質は変わらないんだなぁと思うと少し微笑ましい。 「ごめんね。強引すぎた、かな…?」 「………」 「ハル先輩すっごく可愛いからさ、我慢できなくて」 「可愛くない」 「え……でも、さっきは嬉しいって…」 「今は嬉しくない」 「えぇ…?」 うーん、何だろう。何でか分からないけど拗ねてるのかな…? どうしたらいいものか……考えあぐねていると、ハル先輩が口を開いた。 「紫音は、俺が……男だって知ってるよな…?」 「な、何言ってるんですか今更。そんなの知ってますよ、当然」 「…………」 「ハル先輩?」 「俺、男だから」 「そうですよ」 「紫音と同じ」 「そうですね」 俺はハル先輩が何を言いたいのか全く分からなくてただただ相槌を打っていたが、ハル先輩は何か決心したみたいに頷いていた。 「えっ…と、よく分かんないんだけど……仲直り?」 「仲直り…って、喧嘩してない」 「…ですよね。でもほら、なんかハル先輩いつもと違ったし」 「……別に」 「んーーと、じゃあさっきの続きしてもい?」 俺は本当は内心ビクビクしていたけど、努めて明るい声を出して言ってみた。 「それは……」 ハル先輩はいつも通り合わせてくれていた視線をまた自分の膝あたりに移して、言いにくそうに口をモゴモゴさせながら言った。 「まだ、………心の準備が……」 ??ん??? 心の準備??今、心の準備って言った? いや、うん。 エッチする訳だから、いるよね。心の準備。 でも、さ。 初めてする訳でもないしさ。 1週間前も普通にしたしさ。 「ハル先輩、どうしました?」 なんか恥ずかしそうにモジモジしてるハル先輩に、俺は至って真面目にそう聞いてしまった。 そういう初なとこ好きだし可愛いけど、流石に付き合いたてのカップルじゃないのに突然退行してしまったかの様なハル先輩を俺は普通に本気で心配したのだ。 「う…うるさいな。もういいだろ!それに、まだ夕方なんだから!」 俺と自分の態度の落差にさっきとは違う羞恥を感じているらしいハル先輩は、顔を赤くさせながらぶっきらぼうに言って立ち上がると、唐突にお茶を淹れはじめた。 「紫音も飲むだろ」 「あ、ハイ」 何だか全然分からないまま『さっきの続き』に関しては煙に撒かれてしまった感があるけど、怒らせた訳でもなければ俺が嫌で拒絶してる感じでもないから取り敢えずはまぁいっか。 そう思いながら、珍しくハル先輩が淹れてくれたお茶を有り難く頂戴することにした。

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