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a trip 7

何でこうなってるんだっけ? 「こう」というのは、今の状況。 仰向けの俺の頭の横には、右と左にそれぞれハル先輩の腕があって、俺の頬や首筋には、壊れ物を触るみたいに優しくハル先輩の唇が触れているのだ。 こうなる前、俺達はなかなか豪勢な部屋食を二人で楽しんだ後、すぐに仲居さんが布団を敷きに来てくれたから、その上でゴロゴロ横になりながら適当にテレビなんかを見ていたのだ。 勿論、ハル先輩と二人きりだから、全く気を抜いていた訳ではなく、適度に期待と緊張をしながらだったというのに……。 どういうタイミングでこうなったかは、正直はっきりしない。 はっきり認知できないくらい自然にハル先輩は覆い被さってきて、今も俺の首や耳を愛撫してくれている。 ハル先輩からキスや愛撫をくれるなんて、願ったり叶ったりじゃないか、とそう思うし、下半身は一瞬で臨戦態勢をとったのだが、どこかでボタンをかけ違えてしまった様な違和感がある。 ハル先輩は家族風呂での一件以降どことなくずっとぎこちなくてソワソワしていた。 でもそれは俺も一緒だった。 だって明日は俺の誕生日。 誕生日に恋人と二人きりで旅館に泊まっているのだ。 どんなに素敵な夜になるのだろうかと、期待しない方がおかしい。 ハル先輩がソワソワしてるのも、実は俺の期待を煽っていた。 ハル先輩からの誕生日プレゼントはこの旅行だ。だから、プレゼントを期待している訳じゃない。――――いや、してるのか。 俺は毎年毎年バカの一つ覚えみたいにこう言っている。 『誕生日プレゼントにはハル先輩が欲しいです』 これは冗談なんかではなく本気だ。 ハル先輩さえいれば俺は何もいらない。 ハル先輩に誕生日を祝って貰えて、いちゃいちゃラブラブできて、ひとつになれればこれ以上幸せな事なんてないのだ。 こんなにも大好きな人を独占できているという、ただそれだけで俺は最高に幸せで、他に欲しいものなんて浮かばないからだ。 ハル先輩はいつも『はいはい』てな調子であまり本気にしてくれなかったけど、今年は違う気がするのだ。 思い返してみれば……だが、今年は俺から恒例の言葉を聞いたハル先輩は、いつもの様に受け流したりせず『ふうん』って調子で聞いてくれていた様に思う。 それに加えて今日のこのソワソワ。 俺の期待と妄想はどんどん膨らんでいった。 『俺を食べて』なんて言いながら生クリームまみれになったハル先輩やら、男の憧れ裸エプロンのコスプレをしてくれるハル先輩やら。 コスプレと言ったらまだまだある。 制服やら体操着やら水着やら……。 頭の中でハル先輩に着せる服が当たり前の様に女子の物である事には心の中で謝ったが、どうせコスプレして貰えるなら、女の子の格好をして欲しい。普段絶対見れないからこそ特別だし、何よりも絶対に似合う。 ………とそう思ったことにも再度謝ったりしながら、俺は期待と妄想でワクワクどきどきソワソワしていた。 はっきりした違和感の正体を正そうとした俺は、ハル先輩の肩を掴んで上からどかそうとした。 俺は「される」より「したい」。だから上下を入れ替えようとしたのだが……。 「紫音、大丈夫」 ハル先輩は伏せていた顔をあげて言うと、俺の浴衣の襟具履をガバッと開いた。 「え!?」 驚きの声を出した俺の上半身に、ハル先輩の唇が移動した。その唇は鎖骨辺りからゆっくり下におりてきて……。 「わ……ぁ!」 情けない事に声が裏返った。焦らすように胸辺りを愛撫していたハル先輩の唇が、俺の乳首を舐めて、舐めるどころか吸って、口の中で転がしたからだ。 それを、二つある乳首どちらにもされて、俺は凄く、物凄く興奮したけれど、同時に物凄く違和感があって、そして、最低だけど、『こんな事もさせられたのかな』というハル先輩の新しい引き出しを見たときにいつも考えてしまう言葉も頭をよぎって、少し複雑な心境だった。 「ね、どうしたの?」 乳首への愛撫をやめて更に下に下におりていくハル先輩の繊細な髪の毛に指を通しながら声をかけた。が、ハル先輩は俺の問い掛けには応えず、浴衣の帯に手をかけた。 「ハル先輩サービスよすぎ」 俺は内心ドキドキしながら、でも余裕ぶった声を出した。 ハル先輩は器用に帯を緩めて抜き取ってしまうと、浴衣の合わせ目を開いた。 「よかった」 ほっとした様な声を洩らしたハル先輩の目線の先には、立派にテントを張った俺の下半身があった。 思いっきり肌蹴捲っていて、しかも反応してる自分と、全く乱れていないハル先輩という状況に、常にない羞恥心を覚えた。 ハル先輩がいつもこういう時『紫音も脱げよ』って言うのは、こんな気持ちだったからかな…。 「ちょ、ちょっとタイム!」 ハル先輩の手が下着に伸びたから、俺は慌てて声をあげた。 「そろそろ俺もハル先輩に触りたいな」 素早く身体を起こして、ハル先輩を押し倒す体制を取ろうとしたら、さすがはハル先輩。俺の手をするりと避けると逆にまた俺を押し倒した。 「いいから、大人しくしてて」 ハル先輩はそう言うと妖艶に笑った……様に俺には見えた。 やば……。 そう、やばいのだ。 これまた器用に俺の下着をおろしたハル先輩は、勢いよく飛び出した俺のをパクリと咥えたのだ。 ハル先輩からして貰う、2回目のフェラチオは最高だった。 小さな口に一生懸命頬張りながら時折俺の反応を伺う様な目線をこっちに向けるものだから、もう可愛くて可愛くて…。 こういうのもいいなぁ。 痴女っていうの?……ってちょっと違うか。 でも本当、堪んないなぁ。 絶対させないって思ってたんだけどなぁ…。 でもやっぱされたらさ、断れないよ。男として。 初めてこれをして貰った時の様な悲壮感もなく、ただただエロくて可愛いハル先輩はもう最高で、俺はあっという間に上り詰めそうになった。 「イっちゃうから、ちょっとまっ…!」 ……寸前で言った俺も悪かった。 悪かったけど、ハル先輩やめる気なかった気が……。 そうなのだ。俺は堪えきれずハル先輩の口の中に出してしまったのだ。 「ごめん!!」 「いいよ」 慌てる俺に、顔を上げたハル先輩はあっさり言った。てか、喋ってるってことは……。 「まさか飲んだ!?」 「え、うん」 ハル先輩はあっけらかんと認めた。 そ、そ、そんな。綺麗なハル先輩に、俺のなんぞ飲ませるなんて……! 「うわ、ごめんなさいごめんなさい!」 口の中に出した事もそもそも失敗だったのに、飲ませたなんて最悪で罪悪感が凄くて謝り倒したら、何を勘違いしたのかハル先輩の方が申し訳なさそうな顔になった。 「……嫌だった?」 「嫌じゃない!嫌じゃないけど、でも、何て言うか俺、ハル先輩の事大事にしたいから…」 大事にしたいから、自分の快楽の為だけにハル先輩が苦しい思いをするのは嫌なのだ。 でも、当のハル先輩はきょとんとしていた。 嫌じゃないなら何がダメなんだ?って顔に書いてある。 「紫音もいつも俺の飲むだろ?」 「の、、の、飲むけど、でも俺とハル先輩は違うから!」 何が違うの? ハル先輩はそう言わんばかりに首を傾げている。 でも、違うよ。全然違う。 だって、セックスの関係性だけでいうと、俺が支配する方で、ハル先輩は支配される方だから。 俺は、飲んだときに見せるハル先輩のちょっと困った様な恥ずかしそうな顔とかが見たかったり、せっかく作った雰囲気を壊したくなかったりで、いわば自分の為に飲んでるだけだけど、ハル先輩はきっと違う。ハル先輩がそうするとしたら、それは自分の為じゃなくて、俺の為って側面が大きいと思うし……。 「俺も大事にしたいって思ってるよ」 「へ…?」 「紫音の事大事にしたいって。いつも紫音にして貰うばっかりでごめん。でも今日は……」 ハル先輩の言葉は途切れ、代わりに口付けが与えられた。 さっきまで頭を占めていた飲んだとか飲まないとかの問題はすぐにどうでもよくなってしまった。 ハル先輩から与えられた優しくて初な甘い口付けと、『大事にしたい』という言葉に、嬉しいとかなんて可愛いんだろうとか、色んな喜びの感情と多幸感が溢れて、顔だけでなくて胸の奥までじんわり熱くなる。 ああ幸せだな。 コスプレとか生クリームとか使わなくても、こんなにも幸せだし、こんなにも満たされてる。 まだ日付跨いでない気がするけど、俺は確信した。最高の誕生日であると。

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