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scandal 6
「知ってる?今日は紫音合コンなんだぜ」
店の前に到着するやいなや、柚季がそう言った。あまりに唐突で内容を理解するのに時間がかかったが、合コンとは男女の出会いの場でもある飲み会のあの合コンで、それが今日これからこの店で開かれて、それに紫音も参加するらしい。
「それは知らなかった……」
なんとも複雑な気持ちだ。紫音に浮気心はないと信じているけれど、恋人としてはそういうものに参加して欲しくはない。
「むかつくよなー。春という相手がいながらモデルたちと合コンするなんてさ」
「モデルって、柚季の事務所の?」
「そ。しかも可愛い子ばっかり集めて……ていうより、ほとんどは勝手に集まったんかな。あいつのネームバリューで」
つまり、紫音目当ての子が沢山いる訳か……。しかも、モデルの……。
「むかつくだろ?」
「むかつくっていうより……不安になる」
「おいおい自信持てよ。春はその選りすぐりのモデル達の中でも一番可愛いぜ」
趣味の悪い柚季にそんなこと言われても……。
「大丈夫。紫音から選ばれるのは絶対春だよ」
「選ばれる……?」
「そーだよ。だって俺たちも合コンに参加すんだから」
「…………はあ?」
何言ってるんだこいつ。
盛大な疑問符を柚季に向けているが、柚季は何の説明もせずに腕時計に視線を落とした。
「もう始まってる。行こーぜ」
「ちょ…ちょっと待て!」
「んだよ、遅刻だぞ」
「ちゃんと説明してくれよ!」
今日はずっと何がなんだか分からないまま突拍子のない柚季の計画に振り回されているけど、今度ばっかりはちゃんと説明してもらわなければ。
「悪い様にはしないぜ。今日の事は、俺からお前たちへの罪ほろぼしのつもりなんだから」
「え…?」
ますます意味が分からない。
「もーめんどくせえな。いいか。この合コン、仕組んだのは一葉さんなんだよ」
中谷先生が…?それって、すごく嫌な感じがする。
「な、嫌な予感満載だろ?」
柚季が俺の心を読んだみたいに言った。俺は深く頷いた。
「一葉さんは紫音に誰かお持ち帰りさせようとしてるみてえ。あの人の事だから、多少無理矢理にでもそういう事させると思う」
女側から男を無理矢理どうのってちょっと想像できないけど、中谷先生なら何かずる賢い方法を考えつきそうだ。でも、なんでわざわざそんな事を……。
「あの人の狙いは新らしく記事が書かれることだよ。有名人同士のスキャンダルとなれば扱いも大きいし、前の記事の火消しになるからな。そうなれば紫音がバスケに集中できると思ってるみてえ。お前への嫌がらせにもなるし、一葉さんにとっては一石二鳥って訳」
「そんな……」
「酷えよな。だからさ、俺達で一葉さんの計画阻止してやんの」
「でも、中谷…さんは、柚季から見れば上司になるんだろう?しかもかなり上の方の。邪魔したのが柚季だってばれたら、困ったことになるんじゃないのか?」
「春はやさしーな。でもそんな心配いらないぜ。俺は俺の実力で仕事してるし、俺を干せるほどの力はまだあの人にはないし」
柚季は胸を張って言った。その姿は自信に溢れキラキラ輝いてる。
この時初めて実感した。柚季はあの頃から比べると本当に変わったのだと。
「どうしてそこまでしてくれるんだ…?」
柚季の計画は俺にとってはプラスだけど、柚季にとっては全くそうではない。それどころか、いくら柚季に実力と自信があっても、事務所での多少の軋轢は必至に思える。
「だから罪滅ぼしだよ。俺は初め、一葉さんの駒んなってお前を嵌めただろ。その後の事は…まあ謝ったけど、あの事に関してはまだだったし。でも一番悪いのは一葉さんだよな。俺は一葉さんには春と出会わせてくれたことを感謝してるけど、あの人も春に詫びるべきだと思うよ。だけど本人にはそのつもりないみてーだから、俺達で一泡吹かせてやろうぜ」
柚季が歯を出してニっと笑った。まるでこれからイタズラをする子供みたいな表情で、思わずつられて笑ってしまう。
「柚季、ありがとう」
「いーぜ。ただし、これで俺の罪滅ぼしは全部終わりな。ようやく春に後ろめたい気持ち持たなくて済むぜー」
「後ろめたいとか、そんな気持ちあったの?」
「バリバリあったっつーの!」
「そうなんだ。全然知らなかった」
「俺はそこまで無神経な男じゃないぜ」
「そうかな」
「おい」
「ふ……ごめん」
柚季は案外からかい甲斐のある奴だ。これから女として合コンとやらに参加しなければならないというのに、その事さえも忘れて笑えた。
「はーー。お前、あんまり可愛い顔で笑うなよ」
柚季がため息交じりに言う。気を悪くしたらしい。
「いつまでもこうしちゃいられねーし、そろそろ行くぞ」
「……ん」
……本当に行くのか。ここまで来たのだから、行かなきゃいけないのだ。
合コンってどういう事をするのだろうか。女のふりってどうしたらいいんだ。しゃべったら声の低さとかで男だとばれたりするんじゃないのか。そもそも、初見で男の女装だってすぐにばれてしまうのではないか。
それに……紫音はこんな俺を見てどう思うだろう。そこまでして会いに来るなよって言われたらどうしよう。気持ち悪いって思われたら…。というか、こんなに濃い化粧しててかつらまで被ってる俺を、紫音は俺だって気づいてくれるのだろうか。気づかれなかったらどうしよう……。
「心配いらねえよ。俺がフォローしてやるから」
「……頼む」
今は、柚季だけが俺の唯一の頼みの綱だ。
「もーー!!くそ!!」
「な、なんだよ?」
柚季が頭を抱えていきなり喚くからびっくりして聞いたけど、返事はなかった。柚季も俺と一緒で合コンに参加するのが嫌なのかもしれない。俺の為に付き合ってくれてるのだから少なからず罪悪感を覚えたけど、それを深く考えるより先に手を引かれて店の中へと誘われた。
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