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scandal 16

「この下素肌?」 元気を取り戻した紫音が再び俺の上に跨ってきて、いきなり服の裾かから手を入れてきた。 「どさくさに紛れて何やってるんだよ!」 「うーん、腹筋セクシーだなあ」 ふざけた調子の紫音の手がどんどんずり上がって行くから、服の裾も一緒にずり上がって行く。 「や…ッやめろって!」 されてるこっちとしてはおふざけじゃ片付けられない。だってどんどんずり上がって行く紫音の手が胸を…撫で始めたから。 「えへ、乳首ちょっと硬くなった」 「やめろよこの変態!」 その上バカ力!!心の中で更に悪態をついた時、入り口の方で目の端に何か動くものが……。 「あ…!!」 「え!?」 その正体に気付いた俺はいち早く力任せに紫音を突き飛ばした。 「え…っと、お邪魔だったよね」 カーテンを片手で抑えたヒロキが遠慮がちに言った。 最悪だ。いつからいたんだろう。どこから見られていたんだろう。どこからだとしても何をしていたかは一目瞭然だ。だってこんなに服が乱れている!あーもう本当に恥ずかしすぎて穴があったら入りたい! 「何の用ですか宏樹さん」 慌てて服を整えていると、紫音が俺の前に立ちはだかった。おかげでヒロキの顔は全然見えなくなったから、向こうからもこっちは見えていない筈だ。穴じゃなくて壁だけど、相手から隠れると言った意味では俺の願いは叶った。 「そう威嚇するなよ紫音。お前の彼女を奪う気はないって」 「もしそうでも絶対渡しませんけど。で、何ですか?」 「これ届けに。ハルコちゃんが向こうの部屋に忘れてたから」 これ…って何だろう?向こうの部屋に何か忘れ物したっけ……? あっ!ハンドバッグ!! 思い出した頃には、もう紫音がヒロキからそれを受け取っているところだった。 「どーも」 「…にしても、紫音もただの男だったんだな」 「はい?」 「ハルコちゃんに鼻の下伸ばしてさ。お前全然女の子に興味持たないから、俺も他のみんなもちょっと心配してたんだぞ」 「余計なお世話です」 「そう言うなよ。あ、それと、そろそろこの店の貸し切り時間終わるぞ。一応二次会もあるけど……必要ないか」 「あの、ありがとうございました」 ヒロキが行ってしまいそうな気がしたから慌てて礼を言った。ヒロキは紫音の向こうから顔をのぞかせて俺に手を振ると紫音に何やら耳打ちをした。 「ち、違いますよ!」 途端紫音があたふたした。どうしたんだろうと思っている内にまたヒロキが紫音の耳元で何か言っている。 「だから違うって!」 「大丈夫。俺口堅いから」 「ちょ、宏樹さん!」 俺には紫音とヒロキのやりとりはさっぱりだが、なんだか仲良さげに先輩後輩がじゃれついている様子は微笑ましい。 「はあ…。これ、何が入ってるんですか?」 ヒロキを見送って少し疲れた表情で戻ってきた紫音が俺の横に座ってハンドバッグを差し出した。 「財布とケータイ」 「そんな大事なもの、今まで忘れてたの?」 「う…。でもこの鞄持ちにくくて…」 肩にかけられるでもなく、荷物がたくさん入る訳でもないこんな小さい鞄、忘れても仕方ない…よな。あの時はすごく焦ってたし。一応中身を確認してみる。うん。財布もスマホも、ついでに新美さんに貰ったメイク落としとやらもちゃんと入ってる。 「で、ケータイはマナーモード?」 「うん、確か」 病院にいた時から設定変えてないから、多分そうだ。 「なるほど。だからですか」 「何が?」 「ハル先輩が電話に出なかった理由。俺何回も電話かけたんですよ」 「そうだったんだ、ごめん。……ていうか、凄い着信」 スマホを開くと着信23件とある。無論全部紫音だ。 「なんかあった?」 こんなに電話をかけるくらいだから、結構な緊急の用事なのでは…。 「そりゃあもう俺凄い焦ってたんですから!」 「え?何で?」 「だってハル先輩がここに…」 そう言って、紫音が不自然に口を噤んだ。 「ここに、何だよ?」 「いや、と、ともかく、ハル先輩と連絡が取れなくて焦ってたんです!ほら、無事に家に着いたよコールがなかったし!」 まあ…確かに連絡しなかったけど、でも何だろう。こじつけ感がある様な…。 「そういえばさ、紫音は何で柚季に突っかかってたんだ?」 「え…。いや、それは、その…」 「何か紫音、さっきから怪しいな」 「さ、さっきからって何ですか」 「ヒロキさんとも何やらこそこそしていたし」 「あ、あれは違いますよ!」 「あれは?」 「い、いや、そうじゃなくて…ともかく、あれは完全に言いがかりなんです!」 「??」 「宏樹さん、ハル先輩を高校生だと思ってるみたいで」 「え」 「あんな初な大学生いないとかなんとか」 「俺ちゃんと違うって言ったのに」 「あ、あと身体がどうのとか言ってましたよ」 「からだ?」 「……もしかして触られました?」 「………」 「キスされそうになっただけじゃなかったんだ?」 何でこうなる。俺が紫音を問いつめてた筈なのに、いつのまにか立場が逆転している。 「だから、その、延長で、少し触られたというか抱きつかれたというか……」 「あんの野郎…」 「で、でもそのお陰で俺が男だって気付いてやめてくれたみたいな所もあるし…」 「え?宏樹さん、『ハルコちゃん』が女だって事一ミリも疑ってませんでしたけど」 「え…」 「『JKは犯罪だぞ』って言われたんですから」 「JKって…」 「女子高生の事ですよね」 えー。嘘だと言ってくれよヒロキさん……。どれだけ鈍感で見る目がないんだあの人…。 「あー、身体ってそういうことか」 「?」 「胸がないのを発達してないだけだと思われたんですよきっと」 「ええ…」 何でそういう解釈になるんだよ…。あ、でも俺の事女だと勘違いしたままって事はもしかして紫音の同性愛者疑惑は晴れた…? 「JKか…」 紫音がなにやら呟いた。やけに感慨深そうだ。 「紫音…?」 「いやあ、見えるよね。JKに」 「はぁ?」 「やっぱり肌かなぁ?」 「何が?」 「あと、目も綺麗だもんなぁ。碧い瞳もそうだけど、白目がさぁ、青みがかってて真っ白だからなぁ」 「ちょ、何なんだよ!」 「俺も抱きつきたい」 「……ってもう抱きついてるじゃないか!」 「そんでもって、キスしたい」 「もういっぱい…っ」 もう沢山したじゃないか。でも本気でやめろって拒絶する気にはなれなかった。やっぱり俺だって紫音が好きだし紫音とのキスも好きだから……。 「ん……」 舌を絡められると頭がぼーっとする。こうなってしまうと最早紫音の事と紫音と今してる事の事しか考えられなくなってしまう。俺は紫音に何か聞こうとしていた筈なのに……。あ、違う。そうじゃなくて、それよりも……。 「紫音、もう帰らないと……」 顔を背けてやんわりとキスを中断させた。だってさっきヒロキがもうお開きだってそう言っていたではないか。こんなゆっくりキスとかしてる時間はもうないのだ。 「俺もハル先輩の家に一緒に帰っていい?」 「そんなの、いい訳ないだろ」 そう答えながら俺だって本当は一緒に帰れたらどんなにいいだろうって思ってる。 「こんなに久しぶりに会ったのに、もう離れ離れになるなんて俺耐えられません」 俺だって……。 「でも、そんな事言っても仕方ないだろ」 「えーーー。俺泣いちゃいますよ」 俺だって泣きたいよ…。 紫音はその後も暫く子供みたいに駄々をこねていた。こういうのは後輩の特権だと思う。俺は曲がりなりにも先輩だから、紫音みたいに駄々をこねるなんてできない。大体、二人して自分の欲望のままに行動してしまったら最悪の事態が待っている。どっちかがちゃんと理性を働かせていないと。

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