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blackout 4
部屋中に甘ったるいクラクラするにおいが充満している。
どうする事もできなかった。叫んだって助けは来ないし、嫌がっても懇願してもやめてはくれない。手も、そして遂には足も縛りつけられた俺は、為す術もなく向田に犯され、再び向田の所有物と成り果てた。
「もうすぐイクよっ…!どこに欲しい?」
「……うっ……あ…ッ」
「お前は何度言えば分かるんだ!中にくださいだろう!」
「ア……あぁッ!」
向田に太股の内側を、火傷を負わされた所を掴まれる。
「もう一度聞くぞ。どこに欲しい?」
「うぁあ…くッ……ナカ、に……ッ」
向田が望む通りの事を言わなければ、離してくれない。それどころか、今されているみたいに指で傷を抉る様になぞられる。
漸く手を離した向田が満足気に笑った。
「春は相変わらずだなぁ。どれだけ注いであげれば気が済むんだい?ほら、今また春の望み通り中に出してあげるからねッ」
―――もう何度目になるのか分からない。向田が動きを止め、ナカが熱くなる。これで終わりにして。お願い。何度もそう願った。
でも、向田は異常だった。時々吸う甘い変な匂いの煙草のせいかもしれない。異常な程昂っていて、そのまままた揺さぶられるか、一度抜かれたとしても、唇や身体を舐め回されてまたすぐに犯された。
今回も、まだやめてくれる気配はない。飽きることなく俺の唇に吸い付き、身体をまさぐる。上に乗られると、必ず胸の火傷に何かが触れるので痛い。それが終わって向田が股の間で律動する様になっても、今度は内股の火傷が擦られて痛い。でも、その代わりに感じたくないものを知覚せずに済んでいた。あいつがその事に気付くまでは。
「あぁそうか春。ここが痛くて感じられないんだね。気付いてあげられなくてごめんね。それじゃあこうやって縛ろうか」
膝を折り曲げて開脚させられていた拘束が解かれると、今度は天井の鎖に足を宙吊りにされた。
「いい格好だ。これで気持ちよくなれるよね?」
向田の手には、さっき頬に擦り付けられたグロテスクな形の棒が握られていた。
「結構値が張ったんだよ、これ。シリコン製なのにこんな風に動かすことだってできる」
向田がそれの下の方にあるつまみを上げると、それはまるで軟体動物の足みたいに棒をくねらせながら不気味に回った。
「これを入れたら気持ち良さそうだろう?早く咥えたいだろう?」
「や……やめッ…ぁッ!」
ずぷり。
俺の心とは裏腹に。拡張され続けていた穴は何の抵抗もなくそれを身体に納めた。
「あぁ凄くいい姿だ。とってもエッチだよ」
向田が片手でそれを出し入れする。途中からつまみを上げられたのか、得体の知れない動きも加わった。あんな気持ちの悪い玩具に、身体の奥深くを掻き回されている。物凄く嫌なのに、怖くて堪らないのに、強い痛みの感覚がなくなった身体は、その動きを敏感に知覚する。こんなにも不快なのに、それを快感に置き換えて。
「ン…ぁ……ッ」
「やっぱり春はこれが好きなんだ。口では嫌がっていても、身体はこんなに悦んでいるじゃないか。ほら可愛いおちんちんが起き上がってきてるよ。特別に、もっとおっきくしてあげる…」
「ヤ…ぁッ…」
向田は抽送の手を休める事なく俺の下半身にも触れた。軽く握られて上下に扱かれると、向田の言葉通りそこは形を作り始める。
「いやらしい。浅ましい。相変わらずだな春は。淫乱なお前は、こんな張り型よりも本物が欲しいだろう?」
「ちが…ッあ…!」
向田の指が、内股を抉る。
「そうじゃないだろう?何て言えばいいのか分かるよな?ご主人様の喜ぶ答えが何なのか、お前なら分かるよな?」
嫌。欲しくない。無理矢理植え付けられる快楽なんていらない。いくら怖くても、いくら痛くても、自らあいつを望み、挙げ句に乱れるなんて嫌だ。例えその場しのぎのデマカセだとしても、絶対に―――。
「なんて強情なんだ!」
首を振り続ける俺の太股に、向田は一際強く爪を立てた。そして、乱暴にそこから手を離すと、こちらにレンズを向けたままサイドテーブルに置いてあったビデオカメラを手にした。
「春、わかってるか?いやらしい春の姿をずっとこのカメラで記録してるってこと」
そんな事初めから知ってる。カメラを片手に襲いかかってきた向田が、いつカメラを離したのかまでは覚えていないが、そのレンズがずっとこっちに向けられていた事は知っている。
「俺を喜ばせられない悪い子は、これをどう使われても文句は言えないよな?」
何……?どういう、意味?
「俺だって春の裸もエッチな姿も、俺だけの物にしておきたいよ。でも、春がそんなに悪い子なら、お仕置きが必要だろう?」
お仕置き―――。
そのワードを聞くだけで、心臓がドクドク激しく鼓動する。向田はベッドを降りると横からカメラを俺に向けて舐め回す様にゆっくり動かした。それから、自身のスマートフォンを弄り始めた。
―――そう言えば、俺の電話は何処にいってしまったのだろう。あいつに奪われて、それからどうなったのだろう。思い出せない。分からない。あの時かかってきた電話は紫音からだったのかな……。紫音………。
「見ろ」
突然、目の前にスマホの画面を向けられた。
そこには俺がいた。首から下しか映っていないが、裸で、手足を縛られ、首輪をつけてベッドに横たわるそれは俺以外の誰でもなかった。
「今撮った映像をね、こっちに移してアップロードしたんだ。勿論今まで撮った分全部をアップロードすることだって可能だよ」
アップロード…?
その画像は、まるで静止画の様だった。拘束された俺は微動だにしない。だが、やがて画面が動いた。足先に移動した映像が、爪先から上に上にと裸の身体を舐る様にゆっくりと動き始めた。最後に顔が映る直前、映像は終わった。再生中は気づかなかったが、画面の下の方に視聴数と書かれた文字と数字を見つけた。――――凄く、嫌な予感がした。
「それにしても便利な世の中になったな。指先ひとつで、春のこんな姿が全世界と共有できてしまうんだから。もう40だ。お前の裸を見る人間がどんどん増えていく。ほら、60!」
「これ……は…」
「まだ1分も経たないのに、こんなに沢山の男が春を観ている!」
「まさ、か……」
「あっという間に100だ。たった十数秒の動画がこんなに伸びるなんて。お前が根っからの淫乱で、男を誘う姿をしている証だな。全く腹立たしい!」
「そんな……」
あまりの事態に、真実を受け止められない。嘘だと言って。お願い……。
「俺を怒らせるとこうなるんだ。覚えておけ。顔を出さないであげただけありがたいと思うんだな。今100人以上の男共が、頭の中で春の身体を犯してるよ。このまま放っておいたら、すぐに1000や10000を超えるだろう。お前を知っている人間が見るかもしれないし、ダウンロードして永久保存する奴もいるかもしれない。さぁどうする?どうすれば赦して貰えるか分かるな?」
あぁ…これは事実なんだ。
……なんて酷い事を……。酷い……酷い………!
「消せ!」
俺はあまりのショックに身体を震わせ、恐ろしさも忘れて向田を睨みつけた。
「生意気な。まだ分からないのか。でも、その目はとても懐かしいよ、春。やっぱりお前はそうでないと…」
「早く、ぅッ!」
一刻も早く消して欲しくて叫ぼうとした口を片手で強く抑えられた。
「そういうお前を跪かせる時は悦びがひとしおだよ」
向田は鼻先がくっつきそうなくらい俺に顔を近づけ、残忍に笑った。
「好きなだけ睨めばいい。だが、お前がその態度なら動画はそのままだ。削除して欲しいならちゃんとおねだりしないと。お願いしますご主人様、と」
握りしめた拳が震える。これは、怒りなのか?俺はこんなに恐ろしい相手にこんなに恐ろしい事をされて、怒りを覚えているのか?踏みにじられ、為す術もなく犯されて、絶望に支配されたと思っていたのに。諦め、投げ出し、差し出す。無価値で、誰かの欲望のままに使われて然るべき最下層まで自分を貶めたと思っていたのに。そうしていれば、楽だったのに。
でも――――。そういう俺を、紫音が掬い上げてくれたんだった。紫音が俺には価値があると認めてくれた。一生一緒に生きると言ってくれるくらい、俺は紫音に愛されていた。俺は、紫音に愛される価値がある。こんな奴に好きに使われていい存在じゃない。俺は紫音に愛される価値ある存在でいなければいけない。
俺は、怖くない。怖くない。こんな奴、怖くない。俺には紫音がついてる。無価値なのは俺じゃない。諦めたのは俺じゃない。言いなりになるのは俺じゃない。
握りしめた拳からふっと力が抜けた。
「消して…ください、ご主人様」
「いい子だ。俺だって大事な春を晒し者にはしたくないんだ。あぁ、300もアクセスされてしまったじゃないか」
満足気に笑った向田がスマホを操作した。
「消してあげたよ。でも次俺の命令に逆らったら、今度は顔出しの動画をアップするからね。くれぐれも俺を怒らせるな」
「はい…」
「ほお、感心だな。じゃあ早速俺を喜ばせなさい」
「…………」
「欲しいんだろう?俺のこれが」
向田が剥き出しの下半身を突き出してだらしなく笑う。
「……欲しいです。ください」
「足りないなぁ。こういう時何て言えばいいのか、前にたっぷり教えたよね?」
「……孝市さんの、おちんちんください」
「あぁそうだ。そうだよ春。ちゃんと覚えていて偉いね。いい子の春にはご褒美をあげないと…」
「ぁッ……あぁっ…!」
「あぁ…ようやく春の可愛い声が聴けた。可愛いね。気持ちよくなってる春は本当に可愛い。俺の物。俺だけの可愛い春。沢山気持ち良くしてあげるからね…」
―――――――。
それは、窓の外が明るくなり、そして暗くなってまた明るくなっても尚続いた。浚われてから一体何日経っているのか最早分からない。気を失って、気がついて、犯られて、たまにシャワーを浴びせられたり、流動食の様なゼリーを食べさせられた。そして犯られて、犯られて、また気を失った。
俺は、まるで夢を見ている様だった。俺は、向田に滅茶苦茶にされている「俺」を俯瞰していた。その光景は、まるで昔の自分を見ている様だった。でも、催眠療法を受けている時の様なリアリティーはない。夢だと分かっている夢を見ている時の様なふわふわとした感覚。あいつに酷く責め立てられているのはどう見ても俺なのに、それは「俺」であって俺じゃなかった。
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