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a spell 1
「いいか?」
「……、…い……」
「ご主人様のおちんちんは美味しい?」
「……は…い……」
「違う。ちゃんと自分の言葉で」
「……お…ちんちん…おい、し……」
「そう、いい子だね」
「ッあ……ン……」
「そのとろとろに蕩けた顔、凄く可愛いよ。春は本当にこれが好きだね」
「ン……んん…ッ」
「あぁ……春のナカはやっぱり誰よりも気持ちいいよ。俺のおちんちんをぎゅうぎゅう締め付けてきて、本当にスキモノのやらしい身体だ。この身体を、あいつに何回抱かせた?何回ヤらせたんだ!?」
「ッあ………!」
「俺のよりもいっぱい咥えたのか!?」
「……………」
「答えなさい!」
「あぁッ………ちが…ッ」
「何が違う?お前は俺だけのものだったのに……。あぁ、あいつのせいでイライラしてきた。………お仕置きをしようか」
「や………」
…………………………………………。
「いやッ!やめて!お願い!やめてっ………!あぁああッ!!!!」
「ふ……相変わらずいい声で啼く……。こっちの穴はあいつに弄らせてなかったみたいだな。偉いぞ。……ご褒美にお尻の穴で慰めてあげようね」
「ぅ……あ………あッ」
「ああ……締まる……。痛いくらいきついよ、春。こんなに締め付けてきて…………最高だよ………。ご主人様といっぱい気持ちいいセックスしよう。あんな奴の味はすぐに忘れさせてあげるから……」
……………………………………。
………………………………。
……………………………。
「さあ、そろそろ手足を解放してあげようか」
……………………………。
「暴れるなよ。……よし、次は上に乗りなさい」
「……………」
「聞こえなかったか?自分でおちんちん入れて、腰振ってご主人様にご奉仕するんだよ。さあ、ほら早く」
……………………………。
「……………ッあ……ぁ……」
「そう、いい子だ。さあ動いて。気持ちいい所にぐりぐりあててごらん」
「……は……ン……」
「ん?ここが気持ちいいのか?そぉら。ご主人様も手伝ってあげようね」
「やっ…あぁあッ!」
「またイっちゃったのか?もう何回目だ?なんてはしたない子だろう」
「ぅ…んん……ッ」
「もっと舌を出しなさい……。いやらしくて……可愛い春。俺だけの…………」
…………可愛い……可愛いよ………こんなに……………。欲しい…………春が欲しい………………春………………………。
―――――――――――――――――――――。
*
*
*
「ありがとうございました」
俺はそう言いながら右手を差し出した。
試合後の会場ロビーで一直線に並んだ俺達選手の前を、観客達が左から右へと一人ずつと握手を交わしながら歩いていく。
俺が出口に近い一番右側。つまり、列の一番最後。そして、俺の隣の最後から2番目には紫音がいる。
俺が一言お礼を告げる間に握手を交わし終えるのが普通の流れ……だと思うのだが、中にはなかなかリズムの合わない人もいて……。
「あの……」
「………………」
この男性もなかなか手を離してくれなかった。
チームに加入して2週間。先週の試合で初めて交代要因として出場して、今日も少し出場できた。そんな表舞台に出て間もない俺だが、それでも「ファンです」とか、「頑張ってください」と一声かけてくれる方はありがたい事に結構いる。でも、このパターンも結構ある。この男性の様に変に長く手を握ったまま離してくれなくて、しかも無言でじっと顔を見てくるパターンだ。
後がつっかえてしまうし、このタイプを相手にしている時にいつも感じる隣の紫音からの視線が、「早く捌け」と言っている様で怖いから、強引に手を引っ込めてしまおうと思っていた時だった。
「春君…………………」
男性が早口で何か言った。こういう人は何も言わない場合が多かったから、声をかけられるなんて思っていなくて全然聞き耳を立てていなかった。でも、多分応援の言葉か何かだろう。そう思って再びお礼の言葉を口にしようとした時だった。男性の顔が素早く耳元に近づいた。
「しゃぶらせて」
「え……?」
………どういう意味?
耳元ではっきりと言われたのだから聞き間違いではないと思うのだが、そうだとしてもその言葉の意味が分からない。
男性は未だ手を離してくれないし、なぜか楽しそうに笑っている。
「どういう…」
「そういうの困るんで」
意味を訊ねようとした俺の言葉を遮る様に低い声がした。隣を見上げると、怖い顔をした紫音が俺の右腕を掴んでぐっと自分の方に引き寄せた。男性の手が離れる。
「お帰りください」
紫音は丁寧な口調とは裏腹の非常に冷たい口調で言った。
怒ってる……。顔も強張っていたし、声色もそうだ。確実に機嫌が悪い。俺が一人に長く時間をかけてしまったからだ……。上手くかわせなかったから、紫音が痺れを切らして……。
「ごめん」
男性が出口に向かって行ったのを見送って、紫音も自分の持ち場に(と言っても俺の隣だから殆ど動きはないけれど)戻ろうとしたから、一声素早く謝ったけれど、紫音の目の前にも、そして俺の目の前にも次のファンの人がいたから、俺達はそれ以上言葉を交わすこともできず、それぞれまた自分の仕事に戻らざるを得なかった。
*
漸く最後の人だ。
作り過ぎて引き攣りそうな作り笑顔で手を差し出すと、手を握ったのは見知った人だった。
「春君」
「刑事さん!」
うわあ、観にきてくれていたんだ。
「今日は春君の活躍する姿が見られてよかった。とっても格好よかったですよ!」
「ありがとうございます」
「春君のスリーポイントは百発百中ですね!ボールがネットに吸い込まれるみたいで見てるこっちも気持ちいいです。それに、あれが決まると試合の風向きが一気に変わりますね。今日勝てたのも、春君のスリーがあってこそだと思います!」
「いえそんな……」
褒めて貰えるのは単純に有り難い。けど、それ以上になんかむず痒い。照れ臭いというのもあるが、俺は試合にもまだちょこっとしか出てなくて、そこまで手放しに誉められる程の活躍だってしていないから。
「いい時代になりましたね」
「え……?」
「こんな風に憧れの選手と直接触れ合って話ができるなんて。僕が子供の頃はこんなイベントはありませんでしたから。でも、憧れでしかなかった人を身近に感じられるっていいですね。だって、雲の上の存在を目指すのって勇気がいるでしょう?」
この2週間は、あれこれ考える暇もないくらい目まぐるしく過ぎて行った。だから、これまで握手会の意義についてじっくり考えた事もなかった。ただただ自分に与えられた役割を全うする事だけで精一杯で、全然余裕がなかった。
でも、刑事さんの言うように、この握手会で俺達プロバスケ選手を身近に感じてくれて、将来の夢として目指してくれる子供たちがいるかもしれないのだ。例えバスケ選手を目指さないとしても、スポーツ選手だって普通の人間であり、夢を掴むのは努力次第なのだという事に気づいて貰えたら、それは絶対その人の力になる筈だ。今日だって、小学生や中学生くらいの子も沢山握手会に来てくれていた。その子達が夢を掴む手助けが出来ているのだとしたら、それだけで充分すぎる程素晴らしい取り組みじゃないか、この握手会というものは。
「本当にそうですね。憧れは憧れのままで終わらせるんじゃなくて、自分で引き寄せて掴む物なんだって感じて貰えたら嬉しいです」
たった今、刑事さんのおかげでその事を悟った癖して偉そうだが、俺がこれまで何も考えずにただがむしゃらにやってきたこのファンサービスの、正に真理を見た気がして俺は得意気だ。
正直言うとこういう接触系のファンサービスは俺の得意分野ではなかったけれど、刑事さんのおかげでこれからは今まで以上に頑張れる気がする。
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