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玄関を開けると、リビングに灯りが点っているのが見えた。 まだ起きてたんだ。離れていた時間は僅かだったけれど、それでも早く会いたい。 逸る気持ちのままリビングのドアを開けると、ハル先輩はソファに横たわって目を瞑っていた。 テレビはつけっぱなしで、身体には毛布も何もかかっていない。どうやらうたた寝してしまった様だ。 寒そうなので、自分の部屋から掛け布団を持ってきてかけてやると、ハル先輩は毛布にくるまる猫みたいに身体を縮こまらせた。 可愛い――――――。 色んな意味で疲れていた心と身体が癒されていくのを感じる。 もっともっと癒やされたい俺は、ソファの前に屈んでハル先輩の可愛い顔を至近距離から眺める事にした。 相変わらず綺麗な顔。赤ちゃんみたいにつるつるの肌。キラキラ輝く銀髪。 こんなに近くで見たのは久々だった。この間倒れた時も見たっちゃあ見たが、あの時は心配が先立っていて今みたく余裕がなかった。一緒に住んでいると言っても寝室は別だし、そもそも今ハル先輩にとって俺は恋人でも何でもないから、キスしたり顔を近づけたり抱き合ったりできなくて、絶対的に俺はハル先輩が不足している。 ああ…………キスしたい…………。 あと20センチ顔を近づければ、唇が触れあう。でも………その20センチが遠い……。こんなに無防備なのに…………。 「ん……」 ハル先輩が身動ぎしたから、俺は慌てて顔を離した。 ハル先輩は寝返りしながら俺のかけた布団の端を両手で掴んで顎の辺りまで引き上げた。そして――――。 「紫音のにおい………」 漫画だったらむにゃむにゃとでも続きそうな舌ったらずの声。 俺は一撃ノックアウト状態だった。 その言い方やワードだけでもヤバいと言うのに、ハル先輩は嬉しそうに布団に顔を埋めたのだ。 「可愛い……」 俺は気付くとそう呟いていた。想いが溢れて、言葉に出さずにはいられなかったのだ。 キスしよう。 俺は聖人君子ではない。 変態社長から、身を挺してハル先輩を守った見返りが欲しい。 いつもハル先輩の為だけを思って、嫌なバスケ以外の仕事もこなしているのだ。ご褒美を貰ったってバチは当たらない筈………。 自分に言い訳をしながら、ふっくらとした柔らかそうな唇目掛けて顔を近づける―――――。 パチリ。 唐突に、ハル先輩が大きな目を開けた。 碧色の綺麗な瞳が、異常な程至近距離にある俺の顔を、瞬きひとつせずに真っ直ぐ捉えている。 「紫音、帰ってたんだ。おかえ、り……」 柔らかな表情を浮かべてそう言ったハル先輩の言葉が途中で途切れたのは、俺が物凄い勢いで後退りしたからだ。 「ご、ごごご、ごめんなさい!」 取り敢えずソファから一番遠い壁際まで逃走した俺の口は、勝手に謝罪を口走る。 何を言ってるんだ俺は!まだキスはしてない訳だから、平然を装うべきなのに。 「え……どうした?」 案の定ハル先輩は不審がっている。 あぁ。何で俺はこういう時スマートになれないんだ。 「な、何でもないです」 全然何でもなくないのに、そう言うしかない。ハル先輩は黙っている。「何だこいつ」って思われたかな……。うう……ハル先輩の顔が見れない。 「俺っ、もう疲れたので寝ます!お休みなさい!」 追求を恐れた俺は、更に逃走することを選んだ。ハル先輩に背中を向けて寝室に入る。後ろ手にドアを閉めて、ようやく一息つけた。 俺、何やってるんだろう。ハル先輩の同意なく、勝手にキスしようとするなんて最低だ。 それに……。自分を責める以上に、ハル先輩にホモだと思われて嫌われたらどうしよう………。そんな事の方が気掛かりな俺って本当に最低だな………。 コンコン。 寝室のドアを叩く控えめなノック音に、俺は飛び上がりそうになった。 「は、はいっ」 裏返りそうな変な声で返事をする。まだ合わせる顔がないから、ドアは開けられない。 「紫音、これ……布団。かけてくれたんだな。ありがとう」 あ、そうだった。さっき俺がかけた布団。ハル先輩が幸せそうに「紫音のにおい」って呟いてた………って、いかんいかん。また逆上せて変な事しでかすぞ、自分。 「そ、そこに、置いておいてください」 「え?ここ?部屋の前に…?」 「そ、そうです。後で、手が空いたら取りますので…」 手が空いたらって、俺何言ってるんだ。明らかにドアのすぐ内側で喋ってるの読まれてるだろうに。 「………わかった」 暫しの沈黙の後で、ハル先輩が答えた。どことなく寂しそうに聞こえたのは、俺の真相心理のせいか。つまり、本当はハル先輩を部屋の中まで入れたいし、もっと言うならば布団ごと一緒にベッドまで連れてってギューッて抱き締めたいから。 でも、当然ながらハル先輩の気配は遠ざかって行った。ある意味でほっとして本心でがっかりして。 あーあ。俺、いつまでこんなに辛いんだろう。ハル先輩が俺の事思い出してくれるまで?でも、思い出したらハル先輩はどうなってしまうんだろう……。 俺とハル先輩、二人ともが幸せになれる方法って何だろう。 俺のない脳ミソ絞って毎日考えてるけど、答えは見つからない。見つからないんだ、ハル先輩……………。

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