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doubt 5

結局、「料理下手」の俺に代わってパーティー中ずっと紫音が調理を担当してくれて、二人が帰った今は洗い物まで手伝ってくれている。 せめて片付けくらいは俺がメインで積極的にやっているつもりだが、手際のいい紫音がテキパキと動いてくれるので、どっちがサブの手伝いかわからない。 「これで暫くあいつら大人しいといいですね」 洗い終えた食器の洗剤を落としながら、紫音がぽつりと言った。 やっぱり紫音はあの二人が苦手なんだな。俺も得意ではないけど……。 「でも、今日は楽しかった。紫音のおかげだよ、ありがとう」 今日があったのは、紫音が2人の事苦手なのに今日の集まりを許可してくれたおかげだ。 2人が悪ふざけする理由もなんとなくわかったし、柚季のあしらい方も少しずつ分かってきた。いつも紫音かバスケのチームメイトとしか関わっていなかった俺にとって、「仕事」と関係ない2人とのやりとりは新鮮でいい刺激になった。あんまり頻繁だとあのノリに疲れるかもしれないけど、たまになら会いたいなと思った。それに、機会があれば紫音の事を相談してみたい。凄く恥ずかしい気持ちはまだあるけど、どうせ知られているんだから。 「ハル先輩が楽しかったならよかった」 紫音が俺ににっこりと微笑んでそんな優しい事を言うもんだから、俺はまた俯くしかなかった。 「し、紫音は、一人暮らし長いの?」 変な風に思われないか心配で、無言のままではいられなかった。まだ紫音の顔は見られないから、食器を拭くのに集中するふりをして誤魔化しつつ。 「親元を離れたのは高校の時からですけど、一人っていうより、大体二人暮らしでした」 「そ、そうなんだ。彼女……とか?」 高校生の時から同棲っていうのは早すぎる気もするけど、中学の頃から紫音はかなりモテていたし、勿論今も凄くモテているし、彼女が途切れなくいてもおかしくない。 「……………」 紫音が何も答えずに不自然な間が空いたからちらりと視線を向けてみると、紫音の顔が強張っていた―――。 「お、俺も高校の時から一人暮らししてたらしいのに全然何もできないな。ほら、さっきも柚季と颯天にもバカにされっぱなしだったし!紫音を見習わないとだよな!」 しまったと思った俺は、慌てて言い繕った。 時々こういう事をやらかしてしまう。地雷を踏むというか何というか。紫音に『彼女』の話題はタブーだって前学んだ筈なのに、また同じ地雷を踏むなんて……。 「ハル先輩は今のままでいいんですよ。俺、ハル先輩が作ってくれる料理本当に大好きですから」 紫音はさっきの固い表情が嘘だったみたいに笑って、また優しく言ってくれた。 嬉しいけど、紫音はどんな気持ちで俺に優しくしてくれているのかな、と考えると、胸がぎゅーっと切なくなる。 俺の事気持ち悪いなら、徹底的に俺を避けてくれてもいいのに。でも、先輩想いの優しい紫音にはそんな事できないんだろうな。まして俺が紫音にトラウマを与えてしまったし………。 紫音の傍にいると、時々酷くドキドキさせられるけど、大抵は穏やかな気持ちでいられる。 でも、最近になって色んな事に気付いてからは、苦しくなる事も多い。 紫音を縛ってしまっている苦しみ。そして、紫音の優しさがとても演技には見えなくて、でもきっとそれは間違ってて、俺は紫音にとってお荷物で気持ち悪くて迷惑でしかないって自分に言い聞かせなきゃならない苦しみ。 それらはじわりじわりと俺の心を蝕み、最近では本当に強い苦しみとなっている。大好きなのに、ここにいたいのに、逃げ出したくなる程に――――。 * 『お前が――――――!』 『お前さえいなければ!』 『お前が孝市を――――――!』 「!!!!!」 言葉にならない叫び声をあげながら飛び起きたベッドは、自分の部屋のものじゃなかった。 「ハル先輩……」 隣で俺同様上体を起こした紫音が、心配そうにこちらを見ている。 まただ。また、紫音の部屋に忍び込んでしまったみたいだ。 謝りたいのに、息が上がって呼吸するだけで精一杯で声が出せない。すぐに自分の部屋に戻らなきゃいけないのに、今見ていた夢のせいで混乱して身体が動かない。 「嫌な夢……見た……?」 嫌な夢。怖い夢。 でも、あれは本当に夢なの……? そう考えた途端背中がぞくりとして、ぎゅっと握った手がぬるりと濡れている気がした―――。 「ああああ!!!」 俺の両手は、真っ赤だった。 そして、辺り一面、ドス黒く―――――――。 『お前が孝市を殺したんだ!』 夢で言われたあの台詞。 殺したんだ。殺したんだ。殺したんだ。殺したんだ。殺した――――。 夢………? ―――――夢じゃない。 これは、俺の、記憶――――――――。

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