「紫音、本当にいいの……？」 夜。 可愛らしく枕を両手で抱えたハル先輩が、俺の部屋の入口に立っている。もう何度も入っている筈なのに、とても入りにくそうにしていて、そんな奥ゆかしさが堪らなく可愛い。 「どうぞ入ってください」 既にベッドに横たわって待っていた俺は、いつもハル先輩が寝ていた左側にスペースを開けた。 ハル先輩は恥ずかしそうに顔を俯けながら部屋に入ってきてベッドの脇に立つと、俺の表情を窺う様に視線を向けた。 「こっち」 左手でマットレスをぽんぽんと叩いて言うと、ハル先輩は顔を真っ赤にして、でもそれを隠す様にまた俯いて、小さくお邪魔しますと言ってベッドに潜り込んで来た。 無意識の時はぴったり俺に身体をくっつけてくるハル先輩だったけど、今はベッドの端っこスレスレにいる。シングルベッドで二人で寝るのだから、密着するしかないのに。 「もうちょっとこっち来ないと落ちちゃいますよ」 「でも……」 「いいから」 片手をハル先輩の向こう側の肩に回してぐっと引き寄せると、ハル先輩の軽い身体は簡単にこっちに寝返りを打って、俺の身体にぴったり寄り添うみたいになった。 ハル先輩は耳まで赤くなって凄く恥ずかしそうだったけど、身体はそのままの姿勢で固まってしまったみたいに動かさないし、何も言わなかった。 今頭を上げたら、キスするくらいの距離に自分がいることを分かっているから動けないんだったりして……。 うわー興奮する。ヤバい。 さっきからハル先輩の事ばかり恥ずかしそうだの顔が真っ赤だの言っているが、俺だって顔から火を噴きそうなくらいだし、心臓はバクバク言いっぱなしだし、正直下の方がかなりいきり立ってしまっている。 キスしたい。生身の身体に触れたい。あーーエッチしたい！ 本能が暴走しそうで、理性が保つか心配な程だ。 ハル先輩が意識を朦朧とさせてるのと、自分が何してるかはっきり分かって恥ずかしそうに真っ赤になっているのとではこんなに違うのだ。 うわ。俺これ毎日我慢できるかな……。 自分でこうなることを強引に決めておきながら今更になってかなり不安になってきた。だってハル先輩が可愛くて可愛くて可愛くて仕方ない。ハル先輩の存在全てが。息遣いとか、匂いとかも全部欲しくて、俺だけの物にしたくて堪らない。 エッチできれば。ハル先輩は俺だけの物になる。 キスして、全身愛撫して、ハル先輩の中に入れたら、このキラキラしてるハル先輩は俺の物だ。俺だけの物だ。 手に入れたい。ハル先輩が欲しい。誰かの物になる前に。俺の物にしたい。 エッチさえできれば。俺のこの焦燥と暗い気持ちと暴走しそうな欲望は収まるのに。エッチしたい。ハル先輩とセックスしたい。俺を受け入れて欲しい。受け止めて欲しい。そうして安心して眠りたい。エッチしないと眠れない。あーーしたい。したい。したい。したい。したい。 俺の頭の中、その考えだけに支配されて、興奮は冷めるどころか昂るばかり。 俺が一人それを抑えつけるのに苦労している中、ハル先輩は俺よりも早くこの状況に慣れたらしい。強張っていたハル先輩の身体から徐々に力が抜けてきて、すぅすぅと可愛らしい寝息が隣から聞こえ始めた。 はぁーもう可愛いなぁ。人の気も知らないでなんて無防備なんだろう。襲ってくださいと言わんばかりだ。 実際このシチュエーションって、もしハル先輩が女だったら襲わない方が失礼なぐらいの据え膳ぶりではないのか。 でもハル先輩男だしなぁ。襲って欲しいなんて絶対思ってないしなぁ。 でも襲いたい。セックスしたい。したいしたいしたいしたい……………。 俺の欲望は、収まるところを知らなかった。 このままでは理性が負けて、本当に襲いかかってしまいそうだ。 だから、仕方なかった。 こうするしか、自分の狂暴なまでの性欲を止められなかった。かなり変態だと思うが、もう限界だったのだ。 「ん………」 ハル先輩が可愛い声と共に身動ぎをした。密着度は少し低くなってしまったものの、その分顔がはっきりと見える様になった。 俺は、その可愛くて綺麗な顔を眺めながら自身を慰める手を早めた。 花の様なハル先輩のいい匂いと温もりだけでも充分すぎるオカズだったけれど、やっぱり顔が見えるのは堪らない。柔らかく結ばれた桜色の唇に自分の唇を重ね合わせて思いっきり貪る妄想をしたら、今にもイキそうな程興奮した。妄想だけでもこんななのに、実際にキスしたらどうなるんだろう――――。 深く考える隙も、理性が入り込む余地もなく、身体が勝手に動いていた。 ハル先輩と交わす数ヶ月ぶりのキスは、もう最高だった。 さすがに舌を入れるまではできなくて、ハル先輩の柔らかな唇に自分のそれを押し付けただけだけど、たったそれだけでもハル先輩を濃厚に感じられて、俺は想像通りに一瞬で果てた。 ヤバイ………。気持ちよかった……………。 唇を押し付けたまま快感の余韻を感じ尽くしてからそっと顔を上げた。ハル先輩は変わらずスヤスヤと眠っている。 性欲が落ち着いた今になってようやく強い罪悪感に襲われた。 俺、何やってるんだろう。こんな姿見られたら絶対軽蔑される。だって相当キモいよな………。 でも同時に、性欲と征服欲が満たされたのも事実だ。セックスには程遠いけれど、キスして、ハル先輩でイった。想像じゃなくて、生身のハル先輩を五感で感じながら性欲を開放した。 こんなの俺の独り善がりで、とてもハル先輩は俺のだなんて言えないけど、何とも言えない充足感があるのだ。 だってオーナーも宏樹さんも秋良も黒野も他のチームメイトもファンも、誰もこんな事できない。これまでは俺も想像でやるしかなかったけど、これからはこうして本物のハル先輩で出来るんだ………。あんなにキラキラしてる人は、今は俺だけの………。 罪悪感がない訳ではない。でも、それが興奮を後押しする背徳感に変わるのはあっと言う間だった。良心だって疼いたけど、圧倒的な誘惑を前にしては、それも大したブレーキにならなかった。 気づけば俺はまた自身を慰めていたし、さっきよりも躊躇なくハル先輩に口付けをしていた。 気持ちいい。最高。 でも、こんなこと続けてたら、どんどんエスカレートして、いつか本当にハル先輩を汚してしまうかもしれない。いや、今だって充分汚している。だから本当はこんな事はいけない。やめないといけない。これで終わりにしないといけない。きっとこれで終わりにするから、今だけは許して………。ごめんハル先輩………。