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nightmare 3

 その時だった。ぼんやりとしていた記憶が突然鮮やかになった。昨夜の事だ。新井田さんが、紫音が俺に気があるみたいな事を言って、部屋に戻った後に俺は紫音を問い質した。紫音は誤魔化そうとしていたけど、俺は気になって気になって仕方がなくて……。そして───その後の記憶はない。すっぽり抜け落ちている。それから朝目を覚ますまでに起こった事は、完全に忘れてしまった…………。 「あの、俺と紫音は新井田さんの想像してるような関係では……」 「分かってる分かってる。付き合ってはいないんだろ?"今"は」 「今……?」 「そうそう、聞きたかったんだよ。春はなんで紫音振ったのかなって。他に好きな男でもできたの?けど、なかなかいないんじゃない?紫音ほどの男は」  頭が混乱する。そういう噂があったのは知ってる。あくまで噂。なのに、何で新井田さんはこんなナチュラルに俺と紫音が付き合ってたって確信してるんだろう。それに……。 「俺が紫音を振ったなんて事は絶対にないですよ。寧ろ逆に……」 「紫音が春を振ったって?そりゃ有り得ない。何の理由があって?」  新井田さんが面食らった様な顔をしている。けど、そんなの、理由はひとつしかないじゃないか。 「紫音が俺を好きじゃないからでしょう」  口に出したら胸がズキリと痛んだ。  ───俺は昨夜、勝手に期待して自爆して傷付いて、記憶を無くして悪夢を見た。  パズルのピースが綺麗に嵌まっていく様にシナリオが紡がれていく。俺、昨夜紫音に振られたんだ…………。だから記憶を無くして、だから今朝紫音を見てるだけであんなに…………。けど、そうだよな。紫音が、男の俺なんか好きになる訳ないんだ。普通に考えて当たり前のことだ。なのに、俺は何を逆上せ上がってたんだろう…………。 「カハハ!そんな訳ないよ!」  俺の心情とは裏腹に新井田さんが豪快に笑った。 「紫音が春を好きじゃないって?ないない。昨夜の紫音の態度だけでも一目瞭然じゃないか。春に話しかける度に紫音から『殺すぞ』って目で俺が睨まれてたの知ってる?あいつ、春の事守ろうと必死だったじゃないか。あれが好きじゃない相手に取る態度か?そんな訳ない。昨日だけじゃないぞ。あいつはいつも春を守ろうと躍起になってるよ。それを『好きじゃない』なんて言われたら、流石に紫音が可哀想だ」 「…………」  笑顔を崩さずに諭そうとしてくれた新井田さんに、俺は何も言葉が返せなかった。紫音が俺を、ちょっと普通じゃないレベルで心配してしまうのには「好き」とは別の理由がある。けど、それを説明するには俺が誘拐されたことは絶対として、その後記憶を無くしてる事まで触れて話すことになるかもしれない。それはチームのスポンサーでもある新井田さんの耳に入れてもいい話なのかどうなのか、俺には判断がつかない。 「……とまあ、真面目な事言っちゃったけど、ぶっちゃけ俺は二人の関係が上手く行こうが行くまいがどっちでもいい。いや、逆に上手く行かない方が隙があっていいかもな。で、肝心な質問。二人は付き合ってないんだな?」 「……はい」 「で、昨夜もなんにもしないで寝ちゃったと」  正直言うと自分がどうやって眠ったかとか覚えてないけど、新井田さんが疑ってる様な事が起きてないのは間違いない。紫音の名誉の為にも極力誤解を解いておかないと。 「何もないです。紫音と俺は元々そういう関係じゃ、」 「はいはい、分かった分かった。それはもういいから、春。今から俺の部屋においで」 「え……」 「何にもされなくて、身体疼いてるだろ?あ、連れにはお茶にでも行ってて貰うから心配しないで。ちゃんと俺と春の二人きり。1対1だ。にしても紫音は何考えてるんだろうな。こんな最高のシチュエーションで手出さないなんて。そりゃあ春も涙して当然だ」  話の目まぐるしさに困惑していた所に突然涙の事を指摘されてぎくりとした。もしかしてまた無意識に泣いてるのだろうかと、慌てて目を擦る。けど幸いそこは濡れてない。 「何で分かったんだって顔してるな?」  頷くと、俺の気持ちを代弁した新井田さんが人差し指をトントンと自分の目の際に当てた。 「真っ赤に腫れてる。最初は、ヤられて泣いた色っぽい印なのかと思ってたけど、そうじゃないらしいから。罪な男だな、紫音も。こんなに可愛い春を放ったらかして泣かせるなんて。だから振られるんだよ。俺なら絶対にしない過ちだ」  すっと新井田さんが立ち上がった。そして手が差し出される。 「おいで。慰めてあげるから。紫音の代わりにたっぷり愛して、いっぱい気持ちよくしてあげようね。春の寂しい心と身体は、俺が満たしてあげる」

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