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remind 11

「………い、ハ…………んぱい………!」  絶望的な気持ちになりかけていた時、目の前に現れた人影。それは心配で心配でどうにかなりそうだった紫音の姿だった。 「紫音っ!紫音!大丈夫?怪我はしてない?ああ紫音!よかった……!」  欲を言えば抱き締めたかった。けれど、手が拘束されていてそれは叶わない。 「ハル先輩……ごめん…………」  漸く、声がちゃんと聞こえる様になってきた。どうやら、銃声が大き過ぎて一時的に耳が機能していなかったみたいだ。 「なんで、謝るんだ」  少し冷静になって紫音を見れば、その手に銃が握られているのが見えた。ああ。これで安心だ。紫音が傷つけられることはないし、刑事さんが自分を傷つけることもない。 「もしかして……」  安心した次の瞬間、別の可能性に思い至った。さっきの銃声は、もしかしたら紫音が。紫音が刑事さんを───。 「違いますよ。あいつが撃ったんです。外したけど。弾はあそこ」  紫音は俺が何を考えていたのかすぐに分かったらしい。紫音が指差した方を見ると、窓の上の壁に小さな穴が空いているのが見えた。きっとあそこに弾が埋まっているのだろう。 「よかった…………」 「……俺……また、ハル先輩を守れなかった……」  紫音は目を伏せて唇を噛んだ。 「何言ってるんだよ、守ってくれたし、助けてくれたじゃないか。俺、本当に、紫音が来てくれなかったらって思うと…………」  想像してぶるりと身体を震わせた。俺はもう少しで、刑事さんの命と引き換えに、心を偽りこの身を捧げるところだった。紫音を裏切ってしまうところだった。  紫音は黙ったまま震える俺の頭を撫でた後、俺の足を縛っていたロープを外してくれた。 「ありがとう」  俺のお礼に紫音は小さく首を振るだけで、なぜか視線は交わらなかった。そして無言のまま上着を脱いで、俺の身体……主に短パンの為に結構な範囲剥き出しになっている下半身にかけてくれた紫音が、おもむろにドアの方を見て声を張り上げた。 「新井田さん。いるんでしょ、そこに」  「いやあ、バレてたの?」  気配消してたつもりなんだけどなあ。慰めセックスおっ始めろよな。見たかったのに。  ぶつぶつ言いながら、紫音が名を呼んだ新井田さんがドアの向こうから姿を現した。 「そこで伸びてるクソ野郎から、この手錠の鍵探してください」 「おいおい何で俺が。全く人使い荒いぞ」  ぶつくさ言いながら、新井田さんが死角に消えていく。 「紫音、俺…………」  何で台湾にいる筈の紫音がここに来れたのか、どうして新井田さんが一緒なのか。気になる事は山ほどあるけれど……何よりも紫音の態度が気になって仕方がない。明らかに距離を感じる気がするのだ。口数が少ないし、いつもの紫音なら、俺を見つけた途端、たとえ新井田さんが見ていたとしても構わず抱き付いてきたんじゃないか、と。今だって、どう口火を切ろうかと口ごもっている俺と目を合わせようとしてくれない。 『もう限界だ』  紫音の横顔がそう言っているような気がして、俺は背筋が凍った。 「あったぜ。鍵ってこれだろ?」  言いながらすくっと立ち上がった新井田さんが、俺を見下ろしてニッと笑った。 「さあ、お姫様。今助けてやるからな」  その手がこちらに伸びかけた時、 「それは俺がやるんで」  パシンと紫音が新井田さんの手から鍵を奪い取った。 「おやおや、ナイト様がお怒りだ」  いつかも聞いた様な台詞で肩を竦めておどけてみせた新井田さんだけど、今は愛想笑いすらできそうになかった。 「ありがとう」  何も言わないまま俺の手を解放してくれた紫音は目を伏せ頷くだけで、また俺に言葉を返してはくれなかった。 「この手錠、クソ野郎に掛けといてください」 「……っんとに人使い荒いな」 「警察に電話は?」 「してるよとっくに」 「……ハル先輩、警察が来るまでもう少しだけここで待てますか?」  ようやく自由になった身体を起こそうとしていたら、紫音が俺を……と言うより、俺の方を見て言った。紫音の問いかけに「平気だよ」と頷いて、紫音の上着に包まるようにベッドの上で膝を抱える。

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