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第2話
朝目が覚めて隣を見ると、まだ青がいた。夢ではなかったようだ。小さな寝息を立てて熟睡しているように見える。高田は起こさないようにそっと布団を抜け出ようとして立ち上がると、ぱちりと青の目が開いた。少し怯えた顔でこちらを見ている。そして横にいるのが高田だと認識してほっと息を吐き出した。
「おはよう」
高田の言葉に青はわずかに目を見開いた。起き上がって高田を見上げる。そしてぎこちない小さな声で「おは……よう……」と細く息を吐き出すように言った。
その態度に首をかしげながらも「朝飯くうか?」と聞くとこくりと頷く。しかしどこか驚きとぎこちなさが混ざっていた。
台所に立って朝食の用意をしていると、高田はぼんやりと何かに違和感を覚えた。
今日も休みだっけ?
そしてすぐに、まあいいやと考えることを放棄した。
目玉焼きを作っていると青がそっと側によって来る。高田の手元をじっと見て、手を伸ばしてフライパンに触ろうとしたので慌てて押さえた。
「おい、危ないだろ。向こういって座ってろ」
青は高田を見上げると、またこくりと頷いてテーブルがある場所へ戻っていった。
青は中学生ぐらいの年齢に見える。しかし、どこか日常生活と言うものになれていない子供のようだった。興味本位でフライパンに触ろうとするなんて。まさか見たことがないと言う訳でもないだろうに。
テーブルに朝食をそろえていくと、高田も座って「食べよう」と言った。青は高田が箸を持ち上げるのをじっと見ていたが、急に頭を皿に覆いかぶせて手で食べようとした。
「おい」
頭をぐいと押して青の手を掴む。
「何してんだ。箸で食えよ」
青は掴まれた手を見ながら首を傾げた。
まさか。箸を使ったことがないのか?
手に置いてあった箸を握らせると、ふるふると手を震わせてすぐに落としてしまう。フォークを持ってきて手に持たせると、握り締めて高田を見上げた。どこか機嫌をうかがうような顔をしながらぐさりと目玉焼きを刺す。そしてまるでどうしていいのかわからないように、ただフォークを刺したままじっと手元を見ていた。
「青」
高田が名前を呼ぶとフォークを手から離す。それをもう一度握らせてもやはりじっと手元を見つめるだけだった。
高田はなんだか泣きそうになった。
青の背後に回ると手を添えてフォークを口まで持っていく。ぷるぷると震えた手でフォークを口に突っ込みようやく目玉焼きを咀嚼しようとする。そしてすぐに吐き出した。
「人間の」
「え?」
「人間の食べ物」
「何言ってるんだ?」
「食べちゃ駄目」
「いいんだ。食えよ」
青は高田の言葉に驚いたように目をわずかに見開き、そして手元を見てもう一度ぎこちない動きで口まで運んで行った。
「美味いか?」
「うん」
一度口に入れるとまたがつがつと手で食べようとする。そのたびにフォークを持たせて口に運ぶのを手伝った。
いったいどんな生活をしていたのか。聞く気になれないが、胸が苦しくなった。
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