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第5話
二人してとぼとぼと家路につき、アパートの部屋まで戻ってきたが、青はずっと下を向いて黙ったままだった。
「風呂に入ろう。洗ってやるよ」
体が温まれば少しはほっとするだろうと高田が提案すると、青は黙って服を脱ぎ始めた。
「まだだ。お湯はるからちょっと待ってろ」
風呂場に行って蛇口をひねりながら、青は脱ぐことを躊躇しないなと思った。何でもする、と言うのはそういうことも含まれるのか。なんだかやるせない。犬だなんて。何があればそんな言葉が出てくるのだろうか。
今さっきしでかしてしまった事を忘れようとして、さらに気分が落ち込む事を考えてしまった。高田は小さくため息をつくと風呂場から出た。
青は膝を抱えてテーブルの前に座っていた。テレビはもちろんついていない。もう一度強く体を抱きしめる。何度も。何度も。そうしたところで、背負った重荷は少しも減らないだろうけれど。
風呂が沸いて風呂場へ連れて行くと、青はすぐに服を脱ぎ捨てたが、それだけだった。中には入ろうとしない。高田が背中を押すと一瞬躊躇してそっと足を踏み出した。
もしかして俺と入るのが嫌なのだろうか。いやまあ、そりゃそうだろう。なんだか変態じみている。
高田が青に問おうとしたが、彼はすでに風呂場の椅子に座っていた。
体と髪を洗ってやり、湯船につかる。青は少しも抵抗せずに、膝を抱えるようにしなければ入れない狭いバスタブの中で躊躇なく高田にもたれかかってきた。
ぎゅっと抱きしめるとその腕をきゅっと握ってくる。しかししばらくして、ぱちゃぱちゃと音がした。肩越しにそちらを見ると、青の手が激しく震えていた。高田は泣きそうになりながらその手を包む。ぎゅっと握り締めても震えは治まらない。
大丈夫だから。と言ってやりたかった。しかし何が大丈夫なのだろうか。あの時自分が躊躇したことを酷く後悔した。それも今更だ。
ずっと青の手を握っていると、ぽたりと湯船に水が落ちる音がした。顔を覗き込むと、青が涙を流していた。
ああやっと。やっと泣けたのか。
強く強く青の体を抱きしめると、すがるように腕を掴まれて、ありったけの想いを込めてさらに腕に力を加えた。
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