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第5話-2

 風呂から上がり青の髪を乾かしている間も彼はじっと俯いていた。微動だにしないので少し心配になる。顔を覗き込むがこれといって表情が変化しているわけでもない。  さらさらと髪を掬いながらドライヤーの風を当てる。何て綺麗なんだと、現実を忘れてほれぼれしてしまう。蛍光灯の明かりに反射してきらきらと光る細く柔らかい髪はまるで絹糸のようだ。少し顔をうずめると青の髪が頬を優しく撫でた。  髪を乾かし終えても青は俯いたままだった。二人とも食欲などない。テレビを見る気にもなるはずがないので、早々に布団を敷いて電気を消した。青は高田の横で背を向けてじっとしていた。寝ている気配はないがぴくりとも動かなかった。  高田は月明かりでぼんやりと見える天井を眺めながら、今日の事を思い出していた。  青は置いて行くべきだった。  おそらくなんとしてでもついて来ようとしただろうけれど、連れて行くべきではなかった。彼が言い出した事とはいえ、高田はあんな罪を青に背負って欲しいなどとは少しも考えていなかったのだ。  自分が躊躇したばっかりに。  考えても考えても、いくら後悔しても何もならない。何も変えられない。泥のように背中にべたりと張り付いて一生背負い続けて行かなければならない青年の命。彼がどこの誰だかも知らない。そして、青の事も何も知らないのだ。  高田は青に悟られないようにそっとため息をついた。  と、青が突然ごそごそと布団の中にもぐりだした。  何をしているのだと見ていると、布団の中を移動しながらぺたりと高田の太ももに触れる。ゆっくり足の間に体をねじ込むと、そっと服に手をかけた。下着ごと服をずり下げられて、高田は驚いて布団をめくった。小さな口が彼の性器をくわえている。もごもごと口の中で舐めまわしながら上体を起こした高田をちらりと見上げた。  まず慣れている事に驚いた。そしてなぜこんな事をし始めたのかわからなかった。何もかも忘れたかったのだろうか。その方法としては間違ってはいないような気もする。 「青……青」  高田がぐっと頭を押さえると、青はもう一度こちらを見上げた。 「悪い、俺は勃たないんだ」  きらりと碧い瞳に光が反射してわずかに揺れる。高田の言葉に青はそっと服を戻した。  高田は青を抱き起す。 「どうした? したいなら俺がやってやろうか?」  高田の言葉にふるふると首を振ると、じっと高田を見つめてくる。表情に乏しい青の顔はやたらきらきらと光る瞳ばかりが目立った。 「体を洗ったから」  意味がわからなかった。首を傾げそうになって、唐突に理解した。そしてぞわりと全身に鳥肌が立った。体を貫くような驚愕。油を飲んだような胸の不快感。吐き気がして思わず口元を押さえる。  まさかセックスする前にだけ風呂に入っていたとでもいうのか?  それはいったいどんな仕打ちだ。  青が風呂場に入るのに一瞬躊躇した意味を理解した。  俺は何て事を。  ぎゅっと抱き寄せると腕に力を込める。締め上げるように強く力を入れて青の体を抱きしめる。 「ごめん。ごめん、青。知らなかったんだ。怖かっただろ」  青はぶらりと両腕を垂らしたままふるふると首を振る。謝る高田の言葉に何度も首を振る。高田ははっとして体を離した。 「まさか、震えていたのも泣いていたのも、それが怖かったからなのか?」  その言葉に、青は殊更力強く首を振った。 「違う。体が温かくなったら、背中が温かくなったら、勝手になった」  ほっと息を吐き出してもう一度青を抱きしめる。そしてほっとする事ではないとさらに腕に力を込めた。小さく名前を呼ぶと、答えるように背中に手をまわしてぎゅっと力を入れてくる。  この小さな体で、一体何を引き受けさせられてきたのだろうか。

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