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第6話

 青はしばらく食欲がなかったが、段々と普通に生活するようになっていった。フォークの使い方も様になってきている。まだどこかぎこちないけれども。  突然手で食べ始める事があるが、焦っているようなので恐らく好みの味だったのだろう。早く食べないと無くなってしまうとでもいうように急いで口に入れていた。  その度に高田は青にフォークを握らせる。青ははっとして顔を上げ、じっと高田を見上げた後、大人しくフォークを手に取った。手を取った時の怯えたような瞳と、フォークを握らせたときの少し不満そうな表情。ほんの微かにしか変化はないが、それを見つけられることを高田はなぜか誇らしく思った。  青が初めて熱い食べ物を食べた時、「熱いから気をつけろ」と言う高田の言葉を聞き流してすぐさま口に押し込み、ぼたりと机の上に吐き出した。持っていたフォークも手から離れる。驚愕に目を見開いて、余程熱かったのか目のふちに涙をためていた。 「熱い……」  呆然とつぶやく青は、まるで食べ物が熱いだなんてありえないとでも思っているかのようだった。  ずっと手で食べていたのなら、確かにそうなのかもしれない。熱いものなど掴めない。  高田はぎゅっと口を引き結んで青の口元を拭いてやった。  今のところわかっている青の好物はハンバーグと豆腐とグラタンだ。グラタンの皿に手を突っ込んだ日には大やけど間違いなしなので高田は慎重に見守っていた。  青が完食するまでじっと見つめていたら、食べていない高田のグラタンの皿をちらりと見た。欲しいのか。そう思って「半分食うか?」と皿を押し出すと、青の瞳がきらりと輝いた。手を伸ばそうとするので慌てて皿を引き寄せる。  青がわずかに目を見開いた。嘘をつかれたと思ったのか。しかし高田がスプーンを握らせると納得したように皿に取り分けているのをじっと待っていた。  初めてカレーを食べた時は、またもや「辛いぞ」と言った高田の言葉をスルーして、カレーの部分だけを口にさっと入れた。そしてびくりと体を震わせて口を両手で覆う。涙目になりながらなんとかごくんと飲み干した。どうやら吐き出すのはだめだと学んだらしい。 「痛い……」  かはかはとむせながら高田の差し出した水を慌てて飲む。そしてじっと皿に視線を落とすと、白いご飯だけを食べだした。 「ご飯と一緒に食べるとい」 「いらない」  食い気味ににべもない一言。  甘口なんだけどなと高田は頭をかきながら、「青」と名前を呼ぶ。  しかし、「いらない」ともう一度言うと、ご飯だけ食べてスプーンを置いた。  トラウマを与えてしまった感が半端ないが、青の嫌いなものは辛い物になった。

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