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第8話

 高田は冷蔵庫を覗き込みながらぼんやりと、買い出しにいかないとな、と思っていた。  そしてはたと気づく。もしかして、青は病院へ行って以来一度も外に出ていないのではないか。  毎日なにも言わずテレビを見続けていて、高田が買い物に行ってくると声をかけても、首だけ振り向かせてこくりと頷いてばかりだった。恐らく一緒に行こうと言っていないからだ。これでは軟禁ではないか。  高田は冷蔵庫のドアを閉めて立ち上がると青に声をかけた。 「買い物行くけど青も一緒に行くか?」  青が振り向いて瞳をきらりと輝かせた。慌てて立ち上がり、さっと帽子と眼鏡を手に取って走り寄ってくる。しっかりと眼鏡と帽子を装着して青は高田を見上げた。  ああ、外に行きたかったんだな。当たり前か。  そんなことにも気づかなかった自分を恥じる。  帽子の上からぽんと頭に手を置くと、「じゃあ行こうか」と手を取った。  食料の買い出しを終えて、スーパーの袋をガサガサ言わせながら、高田と青は階段で二階に上がった。青が怖がってエスカレーターになかなか乗らないのであきらめたのだ。  少しだけ大きめのこのスーパーには日用品のほかに、本や玩具も置いてある。さすがにテレビだけでは暇だろうと、青を見下ろした。 「なんか買ってやるよ。どれがいい?」  青は不思議そうに首をかしげて、高田を見上げる。「何でもいいぞ」と言うと、「なんでも……」とわずかに目を大きく開いて小さな声でつぶやいた。  青はじっと玩具が置いてあるコーナーを見つめている。本を選ぶだろうと思っていたが、ゲームなどするのだろうか。いつまでたってもぴくりとも動かないので、高田は心配になって顔を覗き込んだ。しかし、体は棒立ちのままでも、青の目はせわしく動き回っていた。その様子を見てふっと息を漏らして笑う。どうやらかなり真剣に思案しているらしい。  しばらくじっとしていたが、きゅっとシャツを引っ張られ目をやると、青がすっと指をさした。その指の先にはルービックキューブが置いてあった。  随分渋いものを選ぶなと思いながら、「じゃあ買って帰ろう」と言うと、青が高田を見上げて「ありがとう」とぎこちなく口元を曲げて笑おうとしていた。高田は青の頭に軽く手を乗せる。「どういたしまして」と言うと、ぎこちない笑みはさらに大きくなったような気がした。

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