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第9話
ぎゅっと高田の手を握ったまま、青は大事そうにルービックキューブを抱えていた。
しかし店を出るとぐっと高田の手を引っ張って立ち止まる。高田が振り向くと青が微かに震えていた。駐車場をじっと見つめながら「ボディーガード」とつぶやく。「誰の?」青の口から聞きなれない言葉が出てきて高田は驚いた。
「僕の飼い主」
はっとして青の視線の先をたどると、確かにこんな町はずれのスーパーに不釣り合いな黒いスーツの男が二人、これまた不釣り合いな黒い大きな外車の脇に立っている。車の中の様子は見えなかった。
高田は慌てて背を向けると、青の体を隠すように押して裏口を目指す。不自然にならない程度に早足で、従業員出入口から外へ出た。
高田は青の手をぎゅっと握り締めながらひどく焦っていた。
このままじゃだめだ。俺の青が連れて行かれてしまう。
俺の? それは飼い主だと豪語するあの得体の知れない連中と同じことを言っているのではないのか?
いや、俺は青を大切にしている。間違っても殴ったりなどしていない。
しかし、無意識に軟禁してしまう程度には軽んじているではないか。
違う。違う違う違う。
高田の険しい表情を、青が不安そうに見上げていた。はっと気がついて安心させるように頬を緩める。青はほっと息を吐き出して高田の手をぎゅっと握りなおした。
アパートに戻ると、高田は押し入れからキャリーバックを引っ張り出し、大きめのリュックを青に渡した。
「ここに必要なものを詰めるんだ」
青はよくわからないようでしばらく突っ立っていたが、高田が衣類を中に押し込んでいると、同じように自分のものを持ってきてはリュックに詰めていった。そして最後にそっと大事そうにルービックキューブを乗せる。
あわただしく最低限の荷物を持って高田は駅へ向かった。
新幹線に乗って遠くまで行くのだ。もうどこでもいい。ここから離れられれば、青が安心して暮らせればどこでもいい。
本当は、安心したいのは自分ではないのか?
さっきから、高田の頭の中がうるさかった。
誰の声だ。誰の思考だ。しかしどう聞いても自分の声だ。
青はまだ不安そうに高田の手を強く握り締めていた。
しかし、新幹線に乗ると、目をきらきらと輝かせて窓にべたりと手をつけ、外の景色を真剣に見ている。高田はその様子を見てほっとした。
俺は間違ってない。
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