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第10話

 いつの間にか二人で寝てしまっていたらしく、目を覚ますと、停車している駅名も確かめずに高田は青を連れて新幹線から降りた。  知らない土地のはずなのに、高田の足取りはしっかりとしていた。  借りたアパートへ向かうのだ。ポケットのカギを確かめるように握り締め、また不審に思う。  借りた? いつ? どこで?  いや、そんなことはどうでもいい。  青と二人で暮らせれば何でもいいのだ。  たどり着いたアパートの部屋のカギをがちゃりと開けると、高田の視界がぐらりと揺れて、思わずドアに手をついた。青がぎゅっと手を引っ張って心配そうに見上げている。「何でもない。大丈夫だ」安心させるように頭を撫でると青は小さく頷いた。  部屋の中にはテーブル以外何もなかった。とうとうテレビすら無くなってしまった。  まあいい。仕方がない。  高田が床に腰を下ろすと、青もぺたりと横に座った。ほっと息をついていると、リュックからルービックキューブを取り出してしげしげと眺めている。遊び方がわからないのかもしれない。「かしてみろ」と手を差し出すと青は素直に高田に渡した。  パッケージを開けると青が慌てて中身を奪う。そしてぐるぐると回しながらきらりと瞳を輝かせて見つめていた。 「綺麗」  小さく漏れた感嘆の声は、ほーっと息を吐き出すように震える。 「これはこうやって遊ぶんだよ」  そう言って高田ががちゃがちゃと適当に回して色を崩していくと、「あっ」と小さく声を上げて、驚愕の表情で高田を見つめた。 「え」と青を見るとあまり表情は変わっていないが不満そうな、今にも泣き出しそうな顔でふるふると唇を震わせている。  どうも色が綺麗だから選んだらしい。眺めるものだと思っていたのだ。なんだか罪悪感を抱きつつ青の手の中に戻す。 「自分で元通り同じ色にするんだよ」  そう言うと、青はじっと手元を見下ろして、少し衝撃から立ち直ったのか、「同じ色」とつぶやいた。  そして、キューブの表面をぐいぐいと引っ張って剥がしだした。 「青。青、それはだめだ」  高田が取り上げると手を伸ばしてきゅっと唇に力を入れる。「こうやって回すんだ」そう言ってかちゃかちゃと動かすとまた手に戻してやる。青はまたじっと見つめながら自分でも何度か動かして、要領を得たのかくるくると回しだした。  それから青はひたすら没頭していた。ご飯と風呂の声をかけるとき以外は何も反応しない。  初めにすぐに出来たと持ってきたのだが、一面しかそろっていなかったので、全面そろえるのだと説明すると、「全部……」と少し絶望的な表情をした。  しかしあきらめることなくずっとかちゃかちゃとブロックを回している。高田はスマホをいじりながら、真剣な顔をしてルービックキューブに挑んでいる青をほほえましい思いで見つめた。

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