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第3話

そんな一年生二学期の出来事からあっという間に月日は経ち、僕は二年に無事進級した。 結局ハンカチをどうすればいいのかうだうだしていたら決められず、今はもう御守りのようにいつも鞄に入れて持ち歩いている。でも今更返したとしても直海くんは覚えてなくて困惑するだけだろうし、開き直って言われた通り素直に貰ってしまおうかとも考え始めていた。 鞄を抱えてドキドキしながら掲示された新しいクラス発表に視線を滑らせ、自分の名前を見つけた時に一緒に視界に映った名前に目を見開く。 「う、そ……」 ”直海 永助” その名前と自分の名前とを何回も目で往復して確認して、やっと理解した。 ……な、直海くんと、一緒のクラスだ…! 喜びが満ち溢れ過ぎて足元がふわふわと覚束ず、口元にも締りがなくなってしまう。すれ違う人に奇妙なものを見るような目で見られてしまい、サッと鞄で顔を隠してクラスへと向かった。 ―――――――――― 「永助おはよ!また同じクラスだなんてめっちゃ嬉しい~っ」 「私もー!生徒会で忙しい時は力になるからね!」 「テスト勉強もまた一緒にやろ~よ~」 「おー、ありがとう。テスト勉強は生徒会の仕事次第だなあ。授業出れなかった時のノートは頼むわ」 「わかった!ちょー綺麗にノートとっとくねっ」 「私もー!永助専用のノート作っちゃおっかな~」 「ははっ、頼むから読める字で書いてな?」 「えー?それどういう意味ー?」 クラスの入口に立つとそんな会話と、明るい楽しそうな笑い声が聞こえて来た。ああ、直海くんがそこにいるんだと実感したのと同時に、わかってはいたけど女の子からの人気も相当なものだと痛感する。でも女の子に囲まれてる直海くんに対して羨ましいとは一切思わず、なぜか直海くんと普通に話せている女の子達に対して羨ましいと、少し妬み込みで思ってしまう。 普通は逆な筈だけど、憧れるとそういうふうに感じちゃうんだなと一人納得した。 親しい友達がいない僕は誰にも挨拶する事なく席に着き、ただひたすら後方の席で繰り広げられている会話…というか、落ち着く直海くんの声を聞いていた。 ―――――――――― なんでこんなに時間が過ぎるのって早いんだろ……。 直海くんと同じクラスになれて舞い上がっているのは自分だけじゃなくて、ほとんどの女の子は隙あらば直海くんに話しかけに行くし、かと言って男子からの妬み嫉みが凄いのかと言えばそうでもない。直海くんはそれを鼻にかけることなんかしなくて、男子とも普通に話したり遊びに行ったりしてるし、直海くんに恋の相談をすると上手くいく、なんて話が広がって行列が出来るくらい男子からの信頼も厚い。 そんな人が生徒会長になるのも当たり前で。 他の候補者に圧倒的な差をつけて会長になった直海くんは、今までと比べ物にならないくらい忙しくなった。行事の前後はほとんど授業に出ず、朝からずっと生徒会室に籠もりっきりの生活で、ご飯ちゃんと食べてるのかな?ゆっくり休めてるのかな?と心配になる。 ――そうだ、僕は心配しただけだ。 ある女の子は、生徒会室まで行って差し入れをしたらしい。 またある女の子は、生徒会の仕事の手伝いをしたらしい。 ある男の子達は、休みの日に気晴らしにと遊びに誘ったらしい。 僕は――何もしていない。何も……直海くんの助けになるような事、何一つしていない。 ただ心配するだけで、それを行動にする勇気のカケラもない、僕は本当に意気地のない男だ。 そんな僕が直海くんに憧れるなんて、もしかしておこがましい事なんじゃ……? そう一度思ってしまったら最後で、どんどんマイナス思考のど壺に嵌ってしまった。 僕なんかが憧れちゃいけない人だったんだ。 あの時直海くんと話せたのだって、きっと神様がそれをわからせる為に仕組んだ事で。 僕が、直海くんみたいになれる訳がないって、肩を並べるだなんて馬鹿な事を考えるなって……。 僕は大きく息を吸いこんで、直海くんへの憧れを無理矢理心の奥底へとしまい込んだ。

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