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何でもない日のとんでもないデート
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「また負けた・・・」
チェス盤を前にアリーシャはがっくりと肩を落とす。クィーンを取られて囲まれては打つ手ナシ。落ち込むアリーシャとは対照的に対面のレオンは嬉しそうだ。
「それじゃあお願い聞いてもらおうかな?」
チェスの勝負をして負けた方が勝った方のお願いを聞く。単純だがこのルールは戦いに緊張をもたらしてくれる。専らこの勝負を仕掛けるのはレオンの方だ、断るとからかわれたりプライドをくすぐられいつの間にか盤上に引きずり出されている。
「3連敗か・・・・・」
駒を片付けながらアリーシャは溜息を吐く。チェスの腕にはそれなりに自信があったのだが、こうも負け越すとそれも無くなりそうだ。声音が少し拗ねているのは子供特有の負けず嫌いが発動して悔しいからだ。
「いや、今回は結構ヤバかったって」
そんな姿さえ愛しいのだろうフォローを入れたレオンが優しく髪を撫でる。
「子供扱い禁止!」
けれどアリーシャの方は益々顔を曇らせてしまう。勝者に情けを掛けられてもあまり嬉しくはない。
「それで・・・・・お願いって何?」
少し緊張気味に尋ねたのは一度とてつもないお願いをされた事があるからだ。とは言え困惑するようなお願いをされたのはその一度きりで最近は「掃除当番代わって」とか「膝枕して」とか軽いものばかりだ。膝枕はちょっと恥ずかしかったが。
だからこの時も油断していたのかもしれない。
「じゃあ、明日デートしよ?」
「デート?」
きょとんとするアリーシャにレオンは顔を近づける。
「だってこうでもしないとアリーシャ恥ずかしがって逃げるんだもん」
深紅の瞳に見つめられ身体が熱くなる。そんな風に思われていたとは。確かに面と向かってデートに誘われれば怖くて逃げてしまうかもしれない。そもそもデート自体どんなものなのかもよく把握していない。時々八雲と出かけるけどそれがそうなのかと考えてしまう。
「明日部屋に迎えに行くから待ってて」
考えあぐねるアリーシャに対してレオンはサクサク予定を決めていく。柔和な物腰の割に行動力がある。だから女性にもモテるしデートも沢山してきたのだろう。いや、それよりもさっきより顔が近い。これはマズイ。
「分かったから!じゃあ、僕洗濯物取り込まなきゃだから!」
慌てて甘い雰囲気になるのを避けて部屋から退散する。
(デートか・・・・・)
不安と期待が入り混じる。まだデートがどんなモノか実感はないし想像も出来ないけど、にこ最近二人とも仕事が忙しくてあまりゆっくりできなかったから長い時間一緒にいられるのは久しぶりだ。
(ちょっと嬉しい・・・・・・かも)
正直浮かれていたのだろう、この時もっと心の奥に鳴り響く警鐘に耳を傾けるべきだった。けれどそんな音など知らんぷりして挙句「楽しみだな」と言って笑みを濃くしたレオンにも気づかなかった所為で忘れられない、でも二度と思い出したくない一日を送る事になってしまった。
「う~ん?」
姿見の前で小首を傾げる。正直デートの装いがどんなものか分からないけれど季節感と清潔感は損なわない格好だと思う。
コートを羽織ると部屋のドアがノックされた。
「お待たせ」
「・・・・・」
戸口に立つレオンに思わず見惚れてしまう。おしゃれと言うのは良く分からないがそれでも彼が恰好良いと言うのは理解できた。上着から小物まで完璧に整えられていて雑誌にでも出てきそうだ。
「い・・・行こっ・・・か」
何だか未だ踏み入れられない大人の領域を見せつけられたようで憧れ半分悔しさ半分の気持ちが胸に去来する。
レオンの脇をすり抜けて部屋を出ようとすると不意に腕を掴まれた。
「待ってアリーシャ。忘れモノ」
そう言われてアリーシャはきょとんとする。お財布とスマホは持ったし鍵も鞄の中に入れた。戸締りとガスの元栓はこれから確かめる。あとは何かあっただろうか。
一個ずつチェックをしていくアリーシャの手にレオンは何かを滑り込ませる。
「?」
手の中のモノを見ても何だか判別がつかない。手の平に収まってコードが付いている機械、と言う事は理解できたがこれをどうするのか。
「バイブは知っててローターは分からないんだな」
小馬鹿にされたようで少しムッとする。その所為で不穏な単語の存在をぞんざいに扱ってしまう。後から考えればこれが最後の分岐点だったのだろうに。
酷く楽しそうに笑うレオンを見上げると口を耳元に近づけられる。
「これはね、ココに入れるんだよ?」
極自然な手つきでお尻がまさぐられ服の上から後孔の入り口を指で押された。
「っっっ!!!」
血の気が一気に失せる。どんなに理解しようと頭を働かせても追いつかない。手の中にあるものの意味は理解できた。でも何で今?出かけるのでは無かったのか。
初冬なのに汗が噴き出るアリーシャにレオンがとどめを刺す。
「これ着けてデートしよ?」
漸くこの男の真意が理解できた。あのお願いは唯の甘いデートをおねだりしたのではない、もっと淫靡で狂猛なものを欲していたのだ。
「嫌だっ!」
すべてのピースが繋がってその場から逃げ出そうとした時には既にレオンの腕に拘束された後だった。
「大丈夫、小さいから痛くないよ?」
まるで的外れな答えが降ってくる。そんな事を危惧しているのではない。こんなモノを着けてどんな顔で表を歩けと言うのだ。ばれたら一生外なんて歩けない。
既に逃げられない体制だが抵抗を止める訳にはいかない。
「絶っっ対に嫌だ!!」
「じゃあ今日は一日オレとエッチ三昧にする?それでも別に良いけど」
とんでもない譲歩を持ってくる。レオンの事だきっと足腰が立たなくなってもアリーシャを求めてくるだろう。休憩もきっと無しで本当に一日中性行為をするつもりだ。
明日は仕事があるのに身体が使い物にならなくなっては困る。
「着けてくれたら今日は手を出さないよ?アリーシャが欲しいって言わない限り」
今度は懐柔するつもりだろうか。最悪と最低、いったいどっちを選べばまだマシなのかは分からない。
本当に今日一日何もしないでいてくれるのだろうか。いや、身体にオモチャを入れられる時点で何かはされているのだが。それでも僅かに心が傾いたのをレオンは見逃さなかったのだろう。からかうように畳み掛ける。
「それとも、こんなモノでひゃんひゃん鳴いて腰を振るのかな?アリス様は」
的確に人のプライドを叩いて来る。半分混乱した頭には十分な売り言葉だった。
「そんな事無いっ!」
「じゃあ決まり、だな」
完全に手中に収められているのに逃げ出す術が無いのが悔しい。奥歯を噛み締めるアリーシャのズボンをレオンはいとも簡単に脱がしてしまう。
「ほら、力抜いて」
これから身体に異物を入れられると言うのにそれは無理な話だ。アリーシャとしては逃げ出さないようにするので精一杯だ。無遠慮にオモチャを押し込まれて気持ち悪くなる。
「ふっ」
ようやく全部入ったと思ったら指で更に奥まで押し込まれて声が出てしまう。何かを探るように動いていた指が抜かれたのもつかの間、コードで繋がれたスイッチにレオンが手をかける。
「あうっ!」
予想はしていたがこれで終わりでは無かった、身体の奥でオモチャが不規則な振動を始める。お腹がくすぐったい。想像する事さえ出来なかった感覚にその場に崩れ落ちそうになる。
(我慢しなきゃ・・・・!)
倒れれば益々この男の思うつぼだ。何でもないフリをしなければ。スイッチ部分はアリーシャの後ろポケットに仕舞われたが当然コードは繋がれたままだ。上着を脱げはバレてしまう、そんな危うさが嫌で今すぐにでもスイッチを切りたい衝動に駆られる。勿論そんな事をすれば状況は更に悪化するだろう。淫靡な事に対してはレオンは底知れない手数を持っている。
諦めてアリーシャが我慢するしかない。レオンにとってはそれすらも予測の内なのかも知れないが。
「はやく行こっ」
虚勢を張って部屋を出るが内心は不安でしかない。本当に今日一日このままで耐えられるのだろうか。
北風が吹き抜けていく。冷たさは感じたが頬の熱が冷める事は無かった。
「それで、どこ行きたい?」
「・・・・・・・・・・・・・人のいない所」
楽しそうなレオンとは裏腹にアリーシャは既に消沈している。街まで下りてきて改めて自分の立っている場所の不安定さを実感する。振動音がすれ違う人に聞こえるのでは無いか、自分の挙動でバレてしまうのではないか不安の芽はどんどん大きくなり今や大樹のような大きさだ。
「そっか。じゃあブラブラするか」
人の話をまるで聞いていない。平日の昼間で多少人通りは少ないとは言え閑散としている訳ではない、いっそゴーストタウンになってしまえば良いのにと呪う程今のアリーシャはいっぱいいっぱいだ。
とは言え立ち止まったままでは余計に怪しまれる。仕方なしに賑わいの多い通りへ進む。
こんな状況を仕込んだのにレオンはいたって平静だ、他愛のない会話をしたり目についたお店に入ってみたり何の気はないデートだけれどきっと普通にしていれば楽しいのだろう、普通にしていれば。
いつバレるのか知れない不安とお腹に伝わる振動を堪えるのでアリーシャはそれどころではない。会話らしい会話もできずに唯レオンに着いていくのに精一杯だ。
「アリーシャ」
「ん?」
何度目か分からない生返事を返していると不意にレオンが耳打ちをする。
「コレ遠隔操作もできるんだよ?」
もう疲れて言葉の意味を咀嚼して理解する事さえ出来ない、彼は何を言っているのだろう?目の端に捉えたレオンはコートのポケットに手を入れた所だ。
「っっ!!!」
途端に身体を支配する振動が激しくなる。強すぎる動きは体内を巡り一番感じる部分へ伝わって揺らしていく。
「やっ!」
思わずぼんやりと眺めていた店の窓ガラスに両手を付いてしまう。歯を食いしばり短い呼吸を繰り返して何とか堪える。力を緩めれば直ぐにでも甘い声を上げて果ててしまいそうだ。
「止めて欲しい?」
当たり前の事を囁かないで欲しい。こんな所で達してしまったらこれから先どんな顔で外出すれば良いのだろう。
「じゃあ手、繋いでくれる?」
可愛くおねだりされても今は憎らしいだけだ。けれど突っ撥ねている時間はもうない、コクコクと何度も頷くとようやく身体を弄ぶ振動は緩まっていった。
悔しいのに手が出せなくてレオンを睨み付ける。彼のポケットにはもう一つスイッチがあるのだろう。アリーシャの身体に触れずとも支配できる。ようやく言葉の意味が理解できた。けれど理解出来た所でもうどうにもならない。アリーシャの命運は文字通りレオンの手の平にあるのだ。
手を繋いでいるのに先程の振動の余韻とまだ嘲笑うように動くオモチャの所為で甘い雰囲気など何処にもない。それなのにレオンは満足そうに笑う。
(本当に何考えて・・・・・・)
引き摺られるように歩き出すと再び喧騒の中へと入っていった。
「・・・・・・・・・・」
どこをどう歩いたかもう覚えていない。オープンカフェの椅子に座るアリーシャは既に疲労困憊だ。
美味しそうなカフェメニューも振動がいつ周りにばれてしまうのでは無いかと思うと目で流すだけだ。きっと今食べても何も味がしない。結局ココアだけ頼む事ににした。
「はう・・・・・」
ココアを一口飲むと疲れた身体に染み渡っていく。木々の騒めきや人々の会話で振動音は掻き消されているが油断はできない。身体を巡る疼きはまだ収まっていない、それどころか時間が経つにつれじわじわと大きくなっているようだ。
「・・・・っ!」
不意にレオンが食べていたケーキをフォークで掬うとアリーシャの口元に差し出す。食べろ、と言う事なのだろうか。戸惑ったが断ればきっとまた振動を大きくされてしまう。恥ずかしさを無理やり押し込めケーキを食べる。甘くほろ苦いチョコレートムースと酸味のあるベリーソースは普通に食べていればアリーシャを笑顔にさせただろう。けれど今は心ここに非ずだ、それなのにレオンは楽しそうに笑う。
何がそこまで楽しいのか、疑問を感じながら見つめるとレオンもその事に気付いたようだ。
「楽しいよ?アリーシャとこうしてラブラブになれて」
その言葉に一つの疑問が湧く。
「・・・・・・・・・・・偽りでも?」
頭に浮かんだ時には既に言葉として口から出ていた。これにはレオンも虚を突かれた顔をする。
手を繋いだ事もケーキを食べさせた事も全てはアリーシャの身体を人質に取った虚構でしかない。どんなに周りから仲睦まじく見えてもそれはレオンが描いた御飯事に過ぎない、飾り立てられたこの世界に本心は無い。彼はそれでも満足なのだろうか、それともデートとはそういうものなのだろうか。
生意気な言の葉にまた振動を大きくされるかもしれない、それでも相手の気持ちが知りたくて真っ直ぐにレオンを見つめる。
レオンが少したじろぐ弄ばれている筈なのに今押しているのは確実にアリーシャだ。
それでも決して相手に縋らないのがレオンだ。口の端を上げ不敵な笑みを浮かべる。
「ああ。楽しいよ。嘘だって真実を編み込めば現実になる。いつか『本当』にしてみせるさ」
口元には笑みを浮かべているが瞳は真摯にアリーシャを捉えている。真意には真意を。これが彼の本音なのだろう。
「ところ、で」
凛とした空気を打ち破るようにレオンが悪戯な笑みを浮かべる。
「そろそろ限界なんじゃない?トイレでヌイて来たら?」
恐ろしい提案がなされる。誰かに聞かれたのではないかと慌てて辺りを見回すがまばらに座る客達はおしゃべりや仕事と皆自分の事で忙しそうだ。
確かに実はアリーシャも一度は頭で考えていた。けれどこんな知らないお店のトイレでするなんて恥ずかしい。
それにもしバレたら。
「バレたら犯されるかもな。アリーシャ可愛いから」
背筋に冷たいものが走る。見知らぬ相手に蹂躙された記憶があるアリーシャにとっては一蹴できない話だ。
レオンだってその事を知っているのにどうしてそんな酷い事を言うのだろう。悲しくて相手を見たがレオンは笑みを浮かべたままだ。
「店員か他の客か、もしかした両方かもな。ローター入れてる変態な子には誰も同情してくれないよ?トイレの床に引き倒されてその口もお尻も見ず知らずの男の精液に汚されちゃうかもな」
まるで昨日観た夢でも話すようにつらつらとレオンは卑猥な言葉を投げかける、そのたびに肌が粟立つのを感じた。
「おっと・・・・」
レオンがフォークを取り落とす金属がアスファルトを滑る音が過敏になった耳にやけに大きく響いた。
椅子から離れ屈んでフォーク取るレオンの動作が酷くゆっくりに見えた。
「っっ?」
アリーシャが小さく息を飲む。立ち上がるのと同時に、本当に自然な手つきでレオンがアリーシャの股間をまさぐったのだ。
「想像して興奮した?」
唇が触れるくらい近くでそう囁かれる。否定したいのに声が掠れて出てこない。下半身が熱いのはローターで虐められている所為なのに。もう心が折れてしまいそうだ。
きっと情けない顔で相手を見上げていたのだろうレオンが喉の奥で笑う。
「そろそろ食べ頃、かな?」
下唇を舐める舌は鮮血を思わせるくらい赤く見えた。
カフェを後にして引き摺らるようにレオンに着いて行く。家に帰るのかもしれないと言う淡い期待は路地裏に引き込まれた瞬間に打ち砕かれた。
「嘘つき!」
人の気配など全くなく通りの喧騒が微かに聞こえるだけで光さえあまり届かない場所。レオンが何をしようとしているかなど明々白々である。
「人のいない所に行きたいって言ったろ?」
確かに言ったがそういう意味で言ったのでは無い。体中を甘い痺れに支配され謗る事しかもう出来ないアリーシャを容赦なくレオンは壁際まで追い詰める。
「それにもう限界で家まで我慢出来ないだろ」
確かに家まで平素でいられるかと言えば疑問符を持たざるを得ない。だからといってこんな所であんな事をするのは嫌だ。
必死に抵抗したつもりだったがあっさりとズボンを脱がされ壁に手を付かされる。
「どっちでイきたい?」
後ろから回された指でゆるゆると精器を抜かれローターの振動も徐々に大きくなっていく。先程の様に強い刺激が一気に押し寄せる事は無かったがそれでも確実にゆっくりと追い詰められていく。
どちらも嫌で今直ぐに止めて欲しくて何度も首を振る。
「そっか。両方か」
どう解釈したそうなるのだろう。口惜しさで目の端に涙が浮かんでくる、沸き立つ怒りからレオンを睨んだがまるで意に介していない。
「ね、ローターじゃなくてレオンのおちんちんでイきたいよって言って」
(誰がそんな事・・・・・!)
怒りは深くなった筈なのに身体は緩慢な指の動きをじれったく感じ始める。もっと強い刺激を求めて腰が揺れてしまう。レオンもそれを知ってわざと指の動きを遅くする。
(我慢しなきゃ)
何度も頭の中でそう繰り返す。ここまで全部レオンの思惑通りなのだろう、せめて一矢報いたい。絶対に自分から求めたりしない。
そう心に決めたのに甘い疼きは膨張して身体の奥から込み上げてくる。
「んっんっ・・・・・・・!」
甘い吐息が口から洩れて情けなくなってしまう。このまま果ててしまうのだろうか、それならいっそ声を上げて楽になりたい。
朝からずっと我慢してきた、もう限界はとっくに超えている。
「言ってくれたらいっぱい気持ちよくしてあげるよ?」
心を見透かしたように甘い言葉でレオンが誘惑する。耳朶を舐められ首筋にキスを落とされたがそれで満足できる訳がなかった。
(もう・・・・・ダメ・・・・!)
「あの・・・・!」
猥らな言葉を吐こうと口を開いたアリーシャが固まる。路地裏に自分でもレオンでもない声が響いたからだ。
「大丈夫ですか?」
暗くてよく見えないが路地裏の入り口に男性が立っている。全身の血が凍りつく、こんな所を見られてしまうなんて。
「具合悪いんですか?」
「え?」
心配そうな声が耳に届く。気付かれていないのだろうか。確かに男性との距離はかなりある。辺りは暗くて近づかないとお互いの顔さえ分からない光量だ。何より幸いしたのは後ろから覆い被さっているレオンのコートが大事な箇所を隠していた事だ。
それでも溢れるただならぬ気配に男性は足を止めたようだ。
「救急車呼びましょうか?」
安堵したのもつかの間、男性がこちらに歩いて来る。いくら暗いとはいえ近付かれれば何をされているのか分かってしまう。再び血の気が失せる。
こんな状況なのにレオンは何も言ってくれない、それどころか精器に絡めた指を離してはくれないしオモチャも動いたままだ。
(どうして・・・・・?)
レオンなら男性一人言い包めてここから立ち去らせる事くらい簡単だろうに。突然の事にレオンも驚いているのだろうか。
「・・・・・・フッ」
レオンの口から笑みが漏れる。何でこんな状況で笑っていられるのか。
(・・・・・・・もしかして・・・・!!)
選べということなのだろうか。この男性に助けを求めて行為から抜け出すのかそれとも立ち去らせて続けるのか。
驚いて固まっているなんて可愛らしいものじゃなかった、この男はこんなピンチでさえ楽しんでいる。
(そ・・・・んなの・・・・)
止めて欲しいに決まっている。今直ぐにでも助けを求めたい、その結果レオンが未成年者略取で捕まっても自業自得だ。それなのに身体を支配する疼きの所為で思うように声がでない。
男性の足音が近づいて来る。
一声上げれば全てが決着する。
(助けて・・・・)
助けて助けて助けてタスケテー。
「大丈夫ですから」
突如出たその言葉に自分でも驚く。けれど発したのは紛れもなくアリーシャの口だ。
「少し気分が悪くなっただけですから。休めば大丈夫です」
頭は混乱して真っ白なのに言葉は氷上を滑るように淀みなく出てくる。
アリーシャの言葉に同調するようにレオンが背中を撫でるフリをしてくれる。これで介抱されているように見えるだろうか。
「ありがとうございます」
祈るようにそう付け加える。鬼気迫る様子に男性が一瞬たじろぐ。顔を見られればきっとばれてしまうから俯いたままだがそれでも感謝の気持ちは本当だ。
(ごめんなさい)
心の中で謝る。男性はまだ少し訝しんでいる様子だったが断られてしまってはこの場にいる意味もないのだろう、路地裏から出て行ってしまった。
「・・・・・ヤバかったな」
男性の姿が完全に見えなくなってしまうとレオンが初めて口を開く。言葉とは裏腹に声は相変わらず楽しそうだし精器も握られたままだ。その手を力任せに振り解くとレオンと対峙する。
「・・・・っ!!!」
路地裏に乾いた音が響く。アリーシャがレオンの下顎を思い切り引っ叩いたのだ。
「何で・・・・いっつも人の気持ち蔑ろにして・・・・!」
アリーシャの心だけでない、あの男性の親切心まで踏みにじったのだ。悔しくて悲しくて涙が溢れてくる。
もう一緒に居たくない。オモチャを外して放り投げると感情のままにその場から逃げ出そうとする。
「約束、反故にする気か?」
けれど直ぐにレオンに腕を掴まれてしまう。低い声音は怒りを孕んでいるようにも聞こえたが怒っているのはアリーシャも同じだ。
「離せ!レオンなんか嫌いだ!」
怒りに任せて言ってはいけない言葉を口にする。
「そっか・・・・・」
静かに、ただ静かにそうレオンが答える。
沈黙が流れる。腕を解いて欲しくて見つめるがレオンは俯いたままだ。
「あ」
同じ事を昔言って傷付けたのにまたやってしまった。
「あの・・・・レオン・・・・痛っ!!」
「だったら・・・・・!」
掴まれていた腕を捻りあげられて壁際へ押し戻される。
「もうレイプするしかないよな」
どこをどう繋げたらその結論に達するのか。楽しそうに笑うレオン。少しでも傷付けたと思って悔やんだ自分が馬鹿だった。
「おしおきの時間だよ、アリーシャ」
後ろから羽交い絞めにするとアリーシャの小さな入り口に熱を帯びた肉塊を押し込んでいく。
「いっー!!!」
痛みで呼吸が出来なくなる。オモチャ位ではそこがまだ解れる訳がなくまして怒張した精器を捻じ込むには早急過ぎる。
それなのにレオン自身は無遠慮にアリーシャを侵略していく。
「痛い?」
腕もお尻も痛くて止めて欲しい、でもきっと頷いた所で止めてはくれない。
「約束を守れない悪い子は滅茶苦茶に犯されちゃうんだよ?」
まるで小さい子に言い聞かせるように優しくレオンが言う。それとは対照的に下半身は乱暴にアリーシャの奥に潜り込んでいく。
乱暴に引き抜いてはまた無理やり捻じ込んでいく。攣れるような痛みに襲われ意識が飛びそうになる。
逃げ出す事も出来ずに壁を爪でカリカリと引っかく。
「こら、怪我しちゃうよ」
窘める様に手を壁から離されいよいよ成す術がなくなっていく。
「いうっ・・・・え・・・あうっ・・・・・」
「これ使って欲しい?」
頼りない声を上げながら痛みに耐えるアリーシャの前にレオンが小瓶をちらつかせる。いつも行為の時に使われている小さな瓶には液体が満たされている、もし中身がいつもと同じならアリーシャにとっては喉から手が出る程欲しい。
潤滑剤だ。
痛みから解放されたくて今直ぐにでも手を伸ばして受け取りたい。
けれど一度小瓶を睨み付けると首を思い切り横に振る。
レオンの事だここで頷けばきっととんでもない要求をしてくる、それは嫌だしプライドだってまだ僅かだけど残っている。何もかもこの男の言うとおりにして縋り付きたくはない。
「そっか。痛いのが好きだもんな。アリーシャは」
まるで人を変態扱いしたような言い方だ。痛いのは嫌いだし苦しいのもいやだ。反論しようとすると精器を奥まで一気に刺し貫かれた。
「あう・・・・・」
感じる部分を抉られ痛みと快楽が同時に襲う。最奥を掻き回すように激しく動かれるとやがて快楽の方が大きくなっていく。
「ああっ・・・・ん・・・・やっ」
「虚勢を張るならもう少し頑張ったら?ほら」
手伝ってやると言わんばかりにアリーシャの精器を握る。
「やあ・・・あんっ」
「酷い事されると喘いで悦んじゃうだろ?いやらしいアリーシャは」
辱めらているのにどんどん敏感になる身体は耳に届く声さえも供物に快楽を貪っていく。
「オレの事嫌いなんだろ?」
嫌いじゃない。さっきは勢いで言ったがどんなに酷いことをされても恥ずかしいことをいっぱいされても心の奥からは完全に嫌いにはなれない。
「嫌い・・・・・じゃ・・・ないよ」
「そっか」
安心したような声が耳に届く。本当はやっぱり傷付いていたのかも、そう思ったのも束の間。
「じゃあ、こうしても良いよな」
ぐるりと身体を反転させられ路地の正面に向かい合わされる。
「だっ・・・・・ダメ!!」
もしだれか通り掛かったら今度こそ何をしているのか分かってしまう。それなのに腿を掴むとレオンは無理やり足を開かせる。
「だって見せびらかしたいんだもん。オレのペニスで可愛く泣いてるアリーシャ」
とんでもない事を言って放つ。矢張りちょっとでも同情した自分が馬鹿だった。
「ひあっ・・・あっ・・・んんっ!!」
ゆっくりと追い詰められていく。どんなに拒んでもレオンは身体を戻してはくれない。ならば出来る事は一つ。事を早く終わらせるしかない、時間が掛かればかかる程危険性は増していく。不器用な動きとは知りながらアリーシャ自身も腰をゆっくりと回し始める。
「へえ、アリーシャも見て欲しいんだ皆に。オレ達が愛し合ってる所」
もう勘違いでも何でもすればいい。今のアリーシャは羞恥心で意識を失わないようにするので精一杯だ。
(早くしないと・・・・)
藻掻けば藻掻くほど糸が絡むように絶頂からは遠ざかってしまう。これではレオンをイかせるなんて出来ない。泣きそうになると優しく頭を撫でられた。
「いい子だ。一緒にイこうな」
本当は分かっていてわざと全部言っているのだろう。結局はレオンの手の上で転がされているのだ。
「ああ・・・くんっ・・・あう・・ん」
腰を掴まれると小刻みに奥を突かれる。自分でするのとは違う不規則なリズムに快楽は一気に高まる。先程とは違う自然な動きでアリーシャの身体も揺れる。さっきまでの意地悪が嘘のように優しく、確実にレオンはアリーシャを追い詰めていく。
「ひゃう・・・ああ・・・やあ・・・んん?・・・んーん!」
抑えられない声を漏らす口を突然手で塞がれてしまう。思うように呼吸が出来なくなり眩暈がする。
「本当に見られちゃうよ?」
見られたらどうなるのだろう。やっぱりまた壊されてしまうのだろうか。こんな状況で襲われて抵抗出来る自信は無い。絶頂が近い所為で心細さが増してゆく。頼りなげにレオンの袖を掴むと温かい手が握り返してくる。
「大丈夫。オレが守ってやるから」
優しく後ろから抱き締められて残っいた抵抗する気持ちも崩れていく。甘い痺れに体中を支配され何度も戦慄く。もう誰かに見られても良い、早くこの体内で暴れる熱を放ちたい。
「んんんっ・・・・んんー!!!」
身体が弓なりに反ってまるで見せつけるように絶頂を迎える。それと同時に体内にも熱い飛沫が注がれる。朝から堪えていた所為だろうか射精はいつもより長く続いた。
「アリーシャ?」
恥ずかしさと充足感が同時に襲って来て急激に意識を蝕んでいく。レオンの問いかけに答える間もなく意識は虚空へ溶けていった。
頭がクラクラする。重たい瞼をどうにか開くと自分のベッドの上だった。
「・・・・・あれ?」
全ては夢かと思ったが夢とは違い意識がはっきりしてくる程記憶も鮮明になっていく。夢ならどれだけ良かっただろうか。
お尻にオモチャを入れられてあちこち歩いただけでなく路地裏で性行為までしてしまったのだ。恥ずかしさでもう一度気を失いそうになる。
「起きたか?」
身体を起こすとレオンが部屋に入ってくる。こちらは憎らしいほどいつも通りだ。
「そう言えば・・・」
どうやって帰って来たのだろう。家に戻った記憶が無い。その事をレオンに話すと。
「おぶって帰って来たよ」
事も無げに言われてしまう。
「うわああ!」
恥ずかしくて再びベッドに潜ってしまう。服もいつの間にかパジャマに着替えさせられているという事は相当汚してしまったのだろう。そんな状況で背負われて帰って来たなんて、しばらく表を歩きたくない衝動に駆られる。
「アリーシャ」
毛布を被って悶絶するアリーシャの前に小さな包みが差し出される。包装からプレゼントと言う事は分かったが何故今なのだろう。
「今日付き合ってくれたお礼」
急に殊勝になられても困る。何の気無く受け取ってしまったが、またとんでもないものをプレゼントされたのでは無いかと肌が粟立つ。
恐る恐る包みを開くと中からはアームカバーが出てくる。
「これって・・・?」
不思議そうにレオンを見つめる。
「夏場熱そうにしてたから気になって」
手首にある傷の所為でアリーシャは夏も長袖の日が殆どだった。酷暑の日も薄着になれずにかなり苦労した。そんな姿を見兼ねたのだろう。
これなら自然に半袖になれる。
「・・・・ありがとう」
お礼を言うと手を掴まれ手首に優しくキスをされた。
「それ着けてまた海行こうな」
「え?」
興奮と期待で鼓動が早くなるのを感じた。それはつまり次の夏も一緒に居てくれるという事だろうか。
「夏も秋も、この先ずっと一緒にいるよ」
事も無げに言われた言葉だけれどもアリーシャにとってな何より嬉しいプレゼントだ。永遠なんて言葉は無い筈なのに本当にずっと一緒に居られる気さえしてくる。
「またデートしてくれる?」
満を持したかのようにレオンが提案する。まるで小さい子がおねだりするみたいな口調で人の顔を覗き込むのでちょっと可笑しくなってしまった。まだ少し苛立ちは残っていたけれどこれ以上恨むのもおかしな気がした。
「・・・・変な事しないなら」
「変な事って、例えば?」
「レオン!」
怒ると楽しそうにレオンは笑い抱き締められた。
「離さないから。この先もずっと」
一度は失ったぬくもり、それが今確かにここにある。大好きな温かさに包まれてアリーシャは小さく頷いた。
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